第9話 (9)ダンサーインザメイクルーム
この仕事を始めてから、意外だったことがある。ダンサーというからには、陽キャの巣窟なのだろうと思っていた。同じパークでダンサーやってるからには仲間っしょ!終わったら飲み行こうや!と初対面からグイグイと肩を組んでくるような人ばかりのイメージだ。
「そんな人ばかりなわけないでしょ!」
「あ、オラフさんお疲れ様です!」
「そんな人達ばかりだったら、僕もやっていけないよ。“一部”を除いて意外にダンサー達の交流はなくて、サバサバしたものだよ!」
「意外にそうなんですね。普通のバイトみたいな感じなんだなぁ」
「特にゾンビナイトはそうなのかも。普通の学生の人とかもいるし。他のショーとかはプロ意識のある人が多いから、横の繋がりもすごくあるみたい」
「それがさっき言ってた“一部”ってやつですか?」
「そうだね。事務所に所属したり、ダンススタジオやってたりみたいな!所謂プロみたいな人達はみんなでイベントやったりもしてるみたい。僕らみたいなエンジョイ勢には関係のない話さー」
「プロかぁ〜。そんな人達もいるのに僕なんかがどうして合格出来たんだろう。今年は定員割れとかだったのかなぁ〜」
「カッピーはダンスも上手だし、真面目そうだから何か光るものをパークの人も感じたんじゃないかな!顔もかっこいいし!」
「え?そうですか?かっこいいかなぁ〜、いや〜照れるなぁ〜」
「よっ!イケメン!かっこいい!ダンスが様になるねー!ひゅっひゅー!」
オラフさんが手をひらひらとさせて、僕を囃し立ててくる。お世辞もあるだろうが、オラフさんに褒められて正直悪い気はしなかった。とても嬉しい。
こんなに楽しい経験出来るのだから、オーディションに合格できてよかった。オラフさんとも出会えなかったわけだし。オラフさんに囃し立てられながら、手を振り上げてお祭りのように踊っていると、後ろから声が聞こえてきた。
「カッピーが合格したのは、たまたま今年のゾンビのイメージと合っただけって話もあるけどねー」
ハナさんは僕らの近くの椅子に腰掛けて、続けて話し始めた。
「カッピー、そんなにイケメンって感じじゃないし。ダンスもよくミスするしね。それに緊張しぃで、本番に弱いし」
ショック。さっきまでのオラフさんからの褒められが嘘のような辛辣な言葉だ。それを聞いて僕は分かりやすく落ち込んでしまった。お祭りのようによいよいと振り上げた手をパタンと下におろして、ただ立ち尽くすしかなかった。やっぱりそんなにイケメンじゃないんだ…。
「カッピー!落ち込みすぎ!じょ、冗談だって!カッピーはゾンビダンサーに向いてると思うよ!真面目だし。ほんとほんと!」
「ハナさん!カッピーが落ち込んじゃったじゃない!言い過ぎだよ!」
「…」
「ごめんごめん!カッピー!かっこいい!so cool!デリシャス!この前、カッピーを推すって言ってた投稿見たよ!」
ーーえ?聞き捨てのならない言葉が聞こえた。
「あ、あの…僕を推してる人がいるって本当ですか?」
「あ、え、あのー見た気がするというか、そのー、ね?見た!見たんだって!じゃあ!」
明らかに焦った様子で、ハナさんはツッタカターと逃げていってしまった。あの様子だと推してる人がいるのもでまかせなのだろう…。ぬか喜びだった…。
「オラフさん…。僕メイクに行ってきます…」
「あ、カッピー。僕も行くよ。そろそろ時間だし」
〜〜〜
メイクルームへとやってきた僕ら。徐々にゾンビへと変貌しながら、ふと考えていた。
もし根っからの陽キャみたいな人がいても、僕に話しかけたりはしないんだろうな。見た目も別に派手じゃないし、ダンスが特別上手なわけでもない。オラフさんやハナさんは優しいから、構ってくれるけど。こんな僕に話しかけるのは結構変わり者だよな、絶対。
「よぅ!カッピー、元気にやってるぅ?」
ゾンビメイクも手慣れたものだ。最初はメイクさんにかなり直されていたけど、最近は直しも少なくなってきた。ダンスだけじゃなくこういうことも成長するものだな。
「おいおい!カッピー!無視すんなって!カッピーだろ?おい!」
ーーえ?!僕に話しかけてたの??
声の主の方へと目を向ける。そこには、金髪の男がいた。とても自然な口角の上がり方は、まるでティーン雑誌に載っている「異性にモテる口角のあげ方講座」を見て勉強しましたと言った感じだった。陽キャだ。しかも根っからの陽キャだ。一体僕に何の用なんだ。そして、どうして名前を知っているんだ??
金髪の彼は僕の方をまっすぐとキラキラした目で見ながら、にっこりと微笑んでいた。
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