第89話 (78)マ・ギレテ
『今年のハロウィーンはオールナイトで、あれやこれやの大盛り上がりしましょう!全ゾンビ大集合&ノベルナイトの生演奏でDANCE DANCE DANCE!!チケットはカミングスーン!』
ーーこれの何が映画のテーマパークだよ!
カントクちゃんはベッドの上で手足をバタバタさせながら、悶絶していた。映画のテーマパークが好きで、ゾンビ映画が好きで、パークに通っていた映画オタクのカントクちゃんからすれば、“オールナイトで大盛り上がり”など言語道断である。そんなことがやりたいのであれば、クラブにでも行けばいつでもオールナイトで踊れるのだ。それを映画のテーマパークでやる必要があるのだろうか。
ーーいや、ないだろーー!
再びベッドの上で手足をジタバタさせるカントクちゃん。その様はまるでおもちゃ売り場で駄々をこねる少女のようであった。
『こんなイベントやるなんて終わってる!映画のテーマパークなんだから、こんなパリピみたいなダンスイベントやる必要ない!』
カントクちゃんは、むしゃくしゃとした思いをそのままネットの海に書き殴る。
『わたしがパークの運営なら、こんな酷いことはしない!もっと映画ファンやUPJを愛してる客を大切にするのに!』
ぽんぽんぽんぽん
『カントクちゃんの言う通り!カントクちゃんが運営になったらいいのに…。今の運営はアニメゲームとコラボばかりでなんか変…。』
『完全に同意。昔乗ったピーティーのアトラクション楽しかったな。もう今は映画のアトラクション、全然ないらしくて笑う。』
画面に表示された投稿への返信欄を恍惚とした表情で眺め、にんまりと笑う。ふふふ。これが大勢の意見なのだ。もしUPJのリーダーを投票で決めることになれば、わたしが当選間違いないな。こんなにみんなに支持されてるんだから。
悦に浸ったカントクちゃんはスマートフォンを三脚で固定し、アプリで生配信を始めた。普段はパークの情報をまとめた動画を投稿するのみだが、ごく稀に気分が乗れば生配信をするようにしている。
「どうも、カントクちゃんです。どうもどうもー。遅くなのにありがとうございますー。」
時間は夜遅くだが、カントクちゃんが配信すると聞きつけて、開始直後にも関わらず100人余りが配信に参加していた。
『カントクちゃん、こんばんわ〜。』
『今日も可愛すぎ。』
『パジャマかわいい。ジョーンズのやつだ!』
「コメントありがと〜。そうそう、これジョーンズのパジャマ。さすがお前ら、お目が高いね。」
コメントを読みながら、画面に映った自分を見て前髪を直すカントクちゃん。ジョーンズとは、カントクちゃんの大好きな洋画の一つで、サメに育てられた少年ジョーンズが、7つの海を冒険する名作映画である。
「そうそう、お前らSNS見たか?遂にゾンビナイトがオールナイトイベントなんかやるんだってよ。大体さー。」
カントクちゃんは、オールナイト発表にこじつけて、最近のパークに対する不満を配信でどんどんと語り出した。それを受けてコメント欄も盛り上がりを見せる。そして、とあるコメントがカントクちゃんの目に止まる。
『全ゾンビ大集合らしいな。昔のゾンビゾンビしてた頃のゾンビも出てくれるのかな?』
確かに。あの投稿には全ゾンビ大集合と書いてあった。全ゾンビとはどう言うことなのだろう。今年出ているゾンビが全員出てきて踊るのか?それなら、わざわざ書くほどのことではない気がする。ならば、過去のゾンビが復活するのだろうか?ゾンビナイトには、過去好評だったにも関わらず消えていったゾンビが沢山いる。毎年アップデートされていってるのだ。わたしからすれば、ダウングレードしている面もあるのだが。
「全ゾンビ大集合ってなんなんだろうね〜。はっきりわかんねぇ事書くなよなー!」
『カントクちゃんのゾンビメイク本格的だから、仮装して行けば紛れられそうw』
『確かにw去年のゾンビメイクは本家越えだったww』
ーー確かに。全ゾンビ大集合というからには、かなりの数のゾンビが出てくるのだろう。そこへわたしの本気ゾンビ仮装で行けば、違和感なく馴染む可能性はある。それどころか、今のUPJのゾンビのレベルなら私の方が上手くゾンビ出来る。ダンスこそ踊れないが、ゾンビの動きは映画を見て研究し尽くしている。ゾンビらしい動きなら、わたしの方が。
ちゃりーん。
『オールナイトのカントクちゃんのゾンビメイク代に。』
そのコメントと共にスパチャが投げられる。そのスパチャを皮切りに、どんどんとスパチャが送られてくる。
ちゃりーん。
『俺もカントクちゃんのゾンビメイク見たい。』
ちゃりーん。
『少額だが、カンパ。』
ちゃりーん。
『今の運営に、カントクちゃんのゾンビメイク技術を見せつけてやれ!』
「お、お前ら…!!」
目に涙を滲ませながら、スパチャで流れるコメントを見つめるカントクちゃん。確かに去年上げたゾンビメイク動画は自分では納得できるものではなかった。資金と時間の面で妥協した部分があったのだ。スパチャしてくれる様を見ていると、結構な額が集まり始めていた。これだけあれば、動画やSNSの収益と合わせてそれなりの金額を捻出できそうである。
「お、お前ら。ありがとう!お前らがそこまで言うなら、オールナイトに本気ゾンビメイクして、格の違いを見せつけてやるぞ!!」
『うぉおおお!』
『今月の楽しみ出来たぁぁ!』
『あまりにゾンビすぎてBAN喰らわないか心配。』
『去年のゾンビメイク越え期待。』
その後とリスナーと、どんなゾンビメイクがいいかの公開打ち合わせを行なっていくカントクちゃん。オールナイトへの恨みつらみを発散するための配信だったはずだが、蓋を開けてみればオールナイトにどんなゾンビメイクで行くかの楽しみ配信になっていた。
ーーオールナイトまで一ヶ月弱か。全然時間ないな。
時間の無さに焦りながらも、心の中は期待感で溢れていた。わたしが本気を出せば、もしかしたらオールナイトのゾンビの中でナンバーワンの注目を集めるかもしれない。そして、注目を集めた後で「実はパークのゾンビじゃなくて、お客さんの仮装でしたー!」となれば、賞賛されるだけでなく、「客の仮装に負けるとか草。」、「最近パークのゾンビ、レベル低い。」、「このカントクちゃんとか言う人にゾンビをプロデュースしてもらった方がいいんじゃね?」となり、パークのお偉いさんが頭を下げてくることがあるかもしれない。
「カントクちゃん!どうか来年のゾンビナイトの“カントク”になって下さい!」
「え〜。どうしよっかな〜。」
「あなたの今年のゾンビ仮装にはお見それしました。私共の技術を超越しておりますー!ははー!カントクさまぁー!」
ーーぐふふ。ぐふふ。
パークのお偉いさんたちが頭を下げる様子が頭に浮かぶ。
「よし!こうしちゃいられねぇ!もう配信終わる!見てくれてありがとう!お前らは、はよ寝ろ!わたしはゾンビメイクの材料を注文していく!さらばだ!」
カントクちゃんは配信を切ると、オールナイトへ向けた仮装の準備に取り掛かり始めた。なんといっても時間がない。徹夜を覚悟しなければ!
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