第88話 (77)ラブソング-2
「久しぶり…ですね?」
「あっ、えっ、はい。」
突然の再会に何を言えばいいのかわからない。ストリートには出てないんですか?今何をしてるんですか?聞きたいことは沢山ある、でもうまく言葉にできない。喉がきゅぅっと締まる。心臓がとくんとくんと跳ねる。
「あ、それコーヒー。」
「あ、はい。コーヒー今日も、はい。」
「今日はミルク貰いましたか?」
「え?あ、はい!今日は貰いました!あはは。」
「良かった!」
「…。」
カッピーさん、元気そうで良かった。もしかしたら辞めてしまったのかもしれないと思っていた。まだパークにいるんだ、それがわかっただけでも。もう推しと時間を共にする時間のリミットは過ぎてしまっている。これ以上は何というか溢れ出してしまう。溢れ出してしまう前にーー。
「じゃあ、僕行きますね…。」
「あ、あの!!」
「はい?」
「い、今何してるんですか!私ストリートでずっとカッピーさん探してて。でもいなくて。『アレ』のせいでどこか行っちゃったのかなって。それで。あの。」
「あぁ、本当にごめんなさい!実は色々あってーー。」
カッピーさんはそう言うと私の横のベンチに座り色んなことを話してくれた。『アレ』の後にストリートには出られなくなったこと。今はリトルナイトベアーとしてナイトベアーショーに出ていること。そこでの上司が厳しい人で大変だと言うこと。カッピーさんの話は可笑しくて、私はただ相槌を打って笑うだけだった。そして、しばらくして私は冷静になった。推しと世間話をしている。そんなことあっていいのか。この前少し話した時と違い、長々とベンチに座って話してしまっている。しかもカッピーさんは本当に良い人で優しい人だ。
「それでミッキーさん、腕の角度が違う。やり直しって言うんですよ!で、本当にわかってるの?って思っちゃって。次もわざと同じ角度でやったら、今回のは良いって!一緒なのに!」
「あはは!何ですかそれ!」
ーーやばい。溢れちゃいそう。
「すいません。色々愚痴っちゃって、何か話しやすくて沢山話しちゃいました!これは内緒でお願いしますね。あのーえっとー。」
「はい!内緒で!あっ、私のことはカルーアと呼んで下さい!」
「カルーアさん!ありがとうございます!じゃあ、僕行きますね。この後もミッキーさんと練習があるんで…。」
そう言うとカッピーさんは去っていった。私はしばらくベンチで放心状態だった。前回認知されていることがわかったが、今回は友達みたいに会話して、さらに名前も覚えてもらってしまった。カッピーさんが去ってからしばらく経つが、私の顔は未だに真っ赤であった。それに心臓もとくんとくんと跳ね続けていた。
ーー好き、かも。
私の気持ちはもう溢れてしまっていた。明日からはナイトベアーショーに行かなければ。推しの姿を収めるために。でも今日のところは帰ろうかな。さっきまで空っぽだった私のメモリーはパンパンになってしまったし。
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