第83話 (73)ブラザーズ-2
「おぉ…。闇を喰らわせろ…。」
「ゾンビさんってどういうことですか?」
「だから、この人はゾンビさんだよ。」
「ゔぅ…。ゔぉぁぁあ!!」
「え…?どういう…。オラフさん!わかりやすく説明して下さいよ!」
「えー!ま、まぁ、言っちゃえばゾンビさんはゾンビナイト期間はゾンビメイクをした瞬間からゾンビになり切って過ごすんだよ。」
「え?!メイクした瞬間って、バックヤードでも?!」
「そりゃあ、バックヤードでもだよ。実際ほら今ゾンビじゃん。」
「ゔぅ…。ゔぅ、ぁぁぁぁあ!!」
確かに。ずっとゾンビのような挙動をしている。休憩室だというのに椅子に座って休むでもなくずっとゆらゆらと揺れ、そこらじゅうを徘徊して回っている。僕は常軌を逸した役への入り込みをしているゾンビさんに恐怖を感じていた。流石に役に入り込みすぎだろう。
「あ、カッピー!流石にやり過ぎだって思ったね?!」
「え?!ま、まぁ正直…。だって、バックヤードでまでゾンビの必要ないでしょう?」
「ゾンビさん!カッピーこんなこと言ってますよ!やっちゃえー!」
「血だ…!血の臭いぃぃー!!!」
ハナさんのやっちゃえ号令を聞いて、ゾンビさんは僕の方に照準を合わせて近づいてくる。包帯をゆらゆらと揺らしながら、僕の目の前に立ち止まる。数秒僕とゾンビさんは見つめあった。その目は焦点があっておらず、まさにゾンビであった。流石の演技力だ。
「血をよこせぇええ!!」
「は?!え?!待って待って待って!痛い痛い痛い!!ストップストップ!」
ゾンビさんは叫んだ後、すぐに僕の腕にガブリと噛みついてきた。僕は流石に噛むまでするとは思っておらず、驚きのあまり慌てふためいていた。
「あっはっはっは!ゾンビさん面白いー!」
ハナさんはそんな僕らを見ながら、腹を抱えて大笑いしていた。オラフさんは心配そうに僕の方を見ていた。僕は噛まれた箇所を気にしていた。反射的に痛いと言ってしまったが、実際のところ甘噛みで跡にもなっていなかった。ゾンビになり切っているとはいえ、そこの加減はまだ人間のコントロール力が残っているようだ。
「やばいぞ!気をつけろ、オラフ!カッピーがゾンビに噛まれてしまった!感染したぞ!」
「え?!」
ハナさんがそう叫ぶと、オラフさんと2人して僕らを警戒する態勢を取った。僕はゾンビさんと目を見合わせて、“ゾンビごっこ”に加わるのだった。
「うぅ…。ゔぅぉあ!」
「闇よ…。闇よ!!」
「逃げろー!ゾンビが来るぞー!」
「ハナさん!バリケードを作るんだ!!ゾンビは柵を超えてこない!」
休憩室にて、僕とゾンビさんによるゾンビチームと、ハナさんとオラフさんの人間チームによる攻防が繰り広げられることとなった。それにしても仕事中はゾンビとして漂って、休憩中もゾンビの真似をして遊んで、一体僕らは何をしているのだろう。でも今はこれが何とも楽しい。学校の休憩時間にふざけているそれのようである。当時と異なるのはそれを注意してくる先生がいない点だろうかーー。
バァァン!
僕らが休憩室でふざけていると、ドアが勢いよく開かれた。驚いた僕たちがそちらを向くと、そこにはミッキーさんが立っていた。そして、休憩室にズイズイと入ってきて、僕に叫ぶのだった。
「おい!ブラザー!そろそろ“仲良し肩組み可愛こぶり”の練習するぞ!リハーサル室に来い!」
「あ、はい!わかりました!」
僕は先生のようなミッキーさんの声でゾンビから人間に戻るのだった。この後、リハーサル室でリトルナイトベアーというキャラになるのだ。ゾンビになったり人間になったりクマになったりと、全く忙しい仕事である。ミッキーさんに連れられて部屋を後にする僕にハナさん達は頑張れーと手を振ってくれていた。僕、頑張るのであります!
〜〜〜
「では、オラフくんにハナさん。お疲れ様でした。私は先に上がらせてもらいます。」
「あ、ゾンビさ〜ん。お疲れ様〜。またね〜。」
「お、お疲れ様です!」
ゾンビメイクを落とし、髪型をぴっちりと七三に分けた清潔感のある好青年へと変貌したゾンビさんは深々と僕らに頭を下げ、メイクルームを後にした。
「い、いやぁいつまで経ってもゾンビさんのメイク落とした後の変貌ぶりには慣れないなぁ。」
「何言ってるんだ!オラフくん!そこがゾンビさんの面白いところだろう!」
面白いところっていつか、本当に怖いんだよなぁ。変な人の多いダンサーの中でも特に変だよなあ、ゾンビさんって。そんなことを思っていると、疲れ切った顔をしたカッピーがメイクルームへと入ってきた。
「お疲れ様でぇ〜す。」
「あ、お疲れ〜。カッピー、本当に疲れてるね。」
「い、いや。疲れもそうなんですけど、さっきメイクルームから出てきた紳士みたいな七三の男の人に挨拶されて…。あんな人いましたっけ?」
「あ、あぁ。その人ゾンビさんだよ。」
「え?!あの人がゾンビさん?!普段あんな常識人みたいな人なんですか?!怖っ!!」
「わかってないなー。カッピーも。そこがゾンビさんの面白いところなんだよー。」
驚いているカッピーにハナさんがゾンビさんの良さを語る。ハナさん、これに関してはカッピーと僕が正しいです。あの人とあなたは変です。
そんな風に僕ら三人は、メイクも落とさずダラダラとふざけて話し合っていた。僕は仕事終わりのこの時間が嫌いじゃない。疲れてはいるけど、ここでふざけて話していると疲れも忘れてはしゃいでしまう。特にカッピーとハナさんと3人で話すと楽しい。
「そういえば、今日りゅうじんさんは帰っちゃいましたか?」
「あ、うん。ちょっと前に帰っちゃった。挨拶出来なかった?」
「いつもすれ違いになっちゃうんですよねぇ。ミッキーさんとの練習も長引いちゃったし。オールナイトの話もしたかったんですけど。」
「オールナイトねぇ。全ゾンビ大集合って、すごいよねぇ。こんな事はゾンビダンサー歴長し、と言っても初めてだよ。」
「ハナさんとオラフさんも経験ないんですね!一体どうなるんだろう。もう少ししたらリハーサルも始まるし、忙しくなりますね。」
〜〜〜
「これはどういうことですか?」
「い、いやそのー。」
ジョージは部屋でビッグボスに詰め寄られていた。ジョージの方が上司のはずなのに、その構図はまるで先輩に怒られる新入社員のようであった。
「ソ、ソーリー。『アレ』の波乗れると思ったんだよ!パ、パークの為にと思って…!」
ジョージの部屋のパソコンにはSNSのタイムラインが映し出されていた。そこには、UPJの公式アカウントでの数刻前の投稿があった。
『今年のハロウィーンはオールナイトで、あれやこれやの大盛り上がりしましょう!全ゾンビ大集合&ノベルナイトの生演奏でDANCE DANCE DACE!!チケットはカミングスーン!』
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