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第81話 (71)ママレード&シュガーソング-2

「まずはこっちに歩いてきてもらおうか。」


 ハナさんの大見得により、バチバチとした空気がリハーサル室に流れる中、ミッキーさんによる着ぐるみ課題の審査が始まった。パイプ椅子に3人が座り、じぃっとこちらの様子を見ている。僕は、リトルナイトベアーの着ぐるみの中に入っているため、視界が悪くちゃんとは見えないが、ハナさんとミッキーさんが睨み合っている様子が少し見えた。あまり険悪な空気にしないでくださいよ、ハナさん。


ーー小刻みに動くイメージ。昨日練習した通りに。


ぴょこぴょこぴょこ


 リトルナイトベアーの身体をイメージし、可愛らしく歩く。ステップはダンスの要領だ。少しずつ3人の方へ近づく。着ぐるみの身体分距離に注意しながら、程よい距離感で立ち止まる。


「ちゃんと着ぐるみの距離感わかってるじゃねぇか、歩き方も申し分ねぇ。そのまま、こっちがお客様だと思って手を振れ。」


ーーバタバタと可愛らしく。


パタパタパタ


 リトルナイトベアーになりきって、可愛らしく手を振る。その際も身体をゆらゆらと横に揺らしてみたり、片足を上げて見せたりして、可愛らしい動きを意識する。


「ほう。」


「カッピー流石!ひゅっひゅー!可愛いよー!リトルナイトベアーそのものだよー!きれてるきれてる!」


 ハナさんはボディビルの大会の如く、僕にやじを飛ばしてくる。僕も悪い気はせず、リトルナイトベアーの愛嬌を振り撒く。


「まぁここまではな。最後はダンスだ。」


「カッピー、リトルナイトベアーちゃんのダンスを見せつけてやれ!」


 ハナさんの応援に応えて、片手をぐっと上に上げる。僕は位置につき、音楽が流れるのを待つ。オラフさんがスマートフォンから音源を流し始める。


『ウォオオーーーン、ウォオオーーーン』


 この一ヶ月、何度も何度も聞いたダンスタイム開始の音楽。この音を聞くと否応にも踊り出す体になっている。無意識にでも踊ってしまうのだから、きっと自分が死んで本当にゾンビになってしまっても身体が覚えて踊ってしまうかもな。しかし、今回は少し違う。着ぐるみを着て踊るのだ。振りが大きくは変わるわけではないが、勝手は違う。


ちゃらちゃちゃちゃーちゃー


 AメロからBメロへ、ステップを刻む。着ぐるみのため俊敏な動きではないが、歌を聴きリズムに合わせ踊る。僕の身体がいつになく高揚していくのがわかった。それはミッキーさんに見られている緊張感のせいか、それとも着ぐるみの中で熱されているせいか、その両方なのか。


ーーやっぱり楽しいな、踊るのって。


 歌を聴いて踊る、甘い甘いご褒美のような時間。時間が経つ感覚をも鈍らせる甘いリズムに酔っていると、いつのまにか曲はサビに突入するところだった。


『ゾンビ ゾンビ 踊らにゃゾンビ〜』


 サビの腕を振り上げて左右に動く振り付け。単純だが、なんだか癖になる振りである。癖になるこの曲調にも合っている。初めは踊らにゃゾンビって何だよ。ゾンビは踊らないだろ。思っていたが、今は踊ってこそゾンビだと思う。


 その後も、音のままに体の動くままに僕は間奏〜2サビと難なく踊りつづけた。


「カッピーここまで完璧ですけど、こりゃ流石に合格ですよね?ミッキーさん?」


「どうだろうな。」


 そう言うと、ミッキーさんは椅子から立ち上がりカッピーの方へと歩き出した。ハナさんとオラフさんはそんな彼を不思議そうに見ていた。


「…?」


ジャジャンジャジャジャジャーン!


 僕は曲の最後の盛り上がりに合わせてポーズを決めた。よし、完璧にやりきったぞ。踊りきったぞ。そう思っていると、目の前に人影が急に現れた。着ぐるみの死角にいるため、顔はよく見えなかった。するとその人影は突然こちらの身体を突き飛ばした。


ーーんなっ?!


 僕は体制を崩し、その場に着ぐるみのまま倒れ込んだ。一瞬何が起こったかわからなかった。どうやら、僕はミッキーさんに突き飛ばされたようだ。一体なぜ?


「ちょっとおっさん!何してるの!」


「黙れ!嬢ちゃん!」


 僕は必死に頭を回転させていた。ミッキーさんは何を求めて、こんなことをしたのだろう。僕が何かミスをして、それに怒っているのか?いや、それはない。完璧にやりきったはずだ。ならば、何か理由があるはずだ。僕が何を求められているのか。


ーーショーマストゴーオンだよ。


 いつかオラフさんが言ってた言葉が脳裏に浮かぶ。そして、ハナさんがゾンビとして漂っている姿が脳裏に浮かぶ。『アレ』もそうだった。やり切ること、演じ抜くこと。それが1番大事。ですよね?ハナさん、オラフさん。


ーーこういうことか?


ぴょこぴょこ


 僕は上半身を起こし、頭を両手で押さえながらフリフリと可愛らしく振る舞った。そして、ゆらゆらと立ち上がり首を傾げてみせた。


『こけちゃったのであります!』


「…。」


 ミッキーさんは、腕を組み、眉間に皺を寄せ、睨みつけるように僕の方を見ていた。そして、少し目を瞑り、ゆっくりと目を開くと僕に話しかける。


「今日終演後、ナイトベアーショーのリハーサル、遅れんなよ。ショーのイメージはニセの姉ちゃんが作ってくれてるから、ビッグボスに貰えよ。」


 そう言うとスタスタとミッキーさんは部屋を出て行った。これ、どういうことだ?


「カッピー!やればできる子だと、私は思っていたよー。公式お姉ちゃんとして胸が高いよ!」


「ハナさん、胸じゃなくて鼻が高いですよ。いやー、良かったねカッピー!」


 2人が駆け寄ってくる。僕は着ぐるみを脱ぎ、2人の顔を見る。不安な顔をしている僕に2人は満面の笑顔で応えた。


「「合格ってことでしょ!(だよ!)」」

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