第79話 (69)ピーナッツ&ビターステップ-2
「ーっていう話があるんだけど、どう?もちろんカッピーの気持ち次第なんだけどさ。」
『アレ』の後、僕はビッグボスに再び呼び出されていた。話の内容としては二つで、一つは顔が分かる状態でストリートには出せないということと、もう一つは着ぐるみでショーに出ないかということだった。最初は着ぐるみを着ることに不安があったが、『アレ』の後から僕には考えていることがあった。
「僕、最近ゾンビやってて楽しくなくて。それで、辞めようかなと思ってたんです。それで、『アレ』もやっちゃって。ハナさんは僕のこと庇ってくれたけど、僕も多少ヤケになっちゃってたところがあって。」
言葉を慎重に選ぶように話をする僕をビッグボスは優しい顔でゆっくりと聞いてくれた。
「でも、間違ってたと今は思います。子どもだったと。『アレ』はやり過ぎだったって。なので11月上旬までの契約の間、後一ヶ月ちょっとの間は、与えられた仕事を責任持ってやり遂げたいなって思います。こんな僕に任せてもらえるのなら!それがダンサーでしょう?」
〜〜〜
『カッピーにチャンスを与えるであります!』
「ハ、ハナさん?」
突然動いて喋り出したリトルナイトベアー。どうやら中には、ハナさんが入っているらしい。どうしてわかったのかというと、この部屋からハナさんの姿だけが消えていたからである。
「嬢ちゃん、チャンスってなんだい。」
『ミッキーさんが出す課題を明日までにカッピーが完璧にマスターするのであります!そしたらリトルナイトベアーとしての出演を許可するのであります!』
「まぁ構わねぇが。その課題も、合格かどうかも俺が決めて構わねぇんだな?」
『そうであります!』
「ははっ。面白ぇ。1日でやれるもんならやってみろよ。着ぐるみは甘くねぇ。下積みを3年はやってもらわねぇとマスターはできねぇんだ。」
〜〜〜
課題を告げてミッキーさんは部屋を出ていった。僕とハナさん、オラフさんの3人はビッグボスが撮っておいてくれた課題の動画を見ていた。そこにはリトルナイトベアーの着ぐるみを着たミッキーさんが映っていた。
『最低限マスターする動きは三つある。まず一つは、歩きだ。』
そう言うとミッキーさんはぴょこぴょこと歩き出した。あの歩き方はあの渋いおじさんが中に入ってるとは思えないほど小刻みで可愛らしかった。
『次は手を振る動作だ。お客様に手を振る時に人間味を出しちゃいけねぇ。』
そう言うとミッキーさんはパタパタと手を振って愛嬌を振り撒き出した。何度も言うがまさかあの渋いおじさんが中に入っているとは到底思えない。可愛いキャラクターに見える。中から渋い声が聞こえてくる以外は。
『最後はダンスだ。お前らも踊ってるゾンビダンスを簡略化したダンスになるが、着ぐるみで踊るのは普段のソレとは勝手が違う。まぁ見てろ。』
リトルナイトベアーは先程までの可愛らしい動きを辞め、ゆらゆらと直立し始めた。そして、突然可愛らしい裏声を出して踊り出した。
『踊るのであります!踊るのであります!ナイトベアー様と悪夢を踊るので、ありまーす!』
そのダンスはゾンビが踊っているダンスと同じであるが、着ぐるみでできる範囲のみをなぞっておりとても可愛い動きだった。しつこいと感じるだろうが、まさかまさか中にあの渋いおじさんが入っているとは(以下略)。
「この3つの動きをマスターすればいいんだよ。カッピー、あの爺さん。口は厳しいけど、優しいよ。これなら1日でマスターできるさ。」
そう言うとハナさんは着ぐるみを着て、先ほどの動きを完璧になぞってみせた。
「まぁこんなもんだね。」
「すごい!ハナさん、完璧ですよ!着ぐるみの経験あるんですか?」
「んにゃ。ないよ。」
んにゃ、ないよ?何だ?んにゃ、ないよって。着ぐるみの経験がないってこと?初めてであんだけ出来たってことですか?
ハナさんがリトルナイトベアーの着ぐるみを脱いで、汗を拭きながら近づいてくる。
「カッピー、難しく考えるな。これは要はダンスなのさ。ダンスであり、演技だ。ゾンビと同じさ。」
さぁ、やってごらんと言って着ぐるみを差し出す。差し出された着ぐるみにはハナさんの匂いが充満していた。『アレ』で密着した際にも嗅いだ匂いだ。『アレ』の光景がフラッシュバックする。ゾンビで演技をしていて、ダンス中だったとはいえ『アレ』は男女を意識せざるを得ない行為だった。今更ながら思い出して赤面してくる。勢いとはいえよくあんなことできたな、僕も。
「エロカッピー。変なこと考えてるな。集中しろ、集中!」
ハナさんは着ぐるみを着た僕にキックを入れてくる。柔らかい着ぐるみの上と言えど、少し痛い。
『エロいこと考えてないですよ!』
「いいから、さっきの動きやってみな!」
〜〜〜
「カッピー、何と言うかイマイチだね。そんな苦くて苦しそうな動きをしてる着ぐるみがあるかよ!」
『マジすか…。自信無くします。』
「まず歩き方だけど、歩幅を狭く小刻みに動くイメージだよ。カッピーは大股すぎる!」
「それに手を振るのも遅い!もっとバタバタと可愛らしく振らないと!動画の通りに!」
「や、やってみます!」
「オラフくんの身体になったイメージだよ。ほら、オラフを見るんだ。そしてイメージして…。」
「え?僕??僕も流石に着ぐるみ程は大きくないよー!」
「なるほど、オラフさんのよう。僕はオラフさん…。」
「カッピーまで!そんなに大きくないよ!」
3人での練習は夜遅くまで続いた。ビッグボスは忙しいのか、いつの間にかいなくなっていた。途中、オラフさんも着ぐるみに入ってみようとしたが、大きすぎて入らず断念する事件なども起こった。オラフさんは意気消沈し、終電もあるからと言って帰って行った。オラフさんが帰った後もハナさんは僕にマンツーマンで指導をしてくれた。
〜〜〜
「カッピー!だいぶ良くなってきたよ!」
「本当ですか!ハナさんのお陰です!」
「いやいや、まぁそれはそうなんだけどさ。」
「謙遜してくださいよ。」
「だって事実じゃん。」
時計の針は夜の12時を周り、2人は疲れて座り込んでいた。
「ハナさん、ありがとうございます。こんなに付き合ってくれて。」
「なんだよ、急に改まって!私も申し訳なさがあるのさ。」
「申し訳なさ?」
「私のせいだろう?こんなことになったのも。改めて謝らせて。ごめんよ、カッピー。」
「そんな改まって謝らないでくださいよ、僕も僕で自分の意思でハナさんの話に乗ったんですから。」
「確かに。私カッピーにあんな事されちゃって…。もうお嫁に行けないよ…。」
「変なこと言わないでください!」
「『アレ』とは言ったけど、まさかあんな事までするなんて。カッピーも獣ね〜。」
「ニセ姉みたいな口調になってますよ。」
そう言うと、はははと笑うハナさん。あー疲れたと言ってゴロリと横になって、再び話し出す。
「カッピーと居ると楽しいよ。気の置けないというか、だから甘えちゃったんだろうね。」
「僕もハナさんは先輩ですけど、親友というか、心を許せてる感じがあります。」
「ただの親友…かい?」
「え…?」
ハナさんの声が、いつものふざけた声から真剣な声色に変わる。親友かい?とはどういう意味ですか。途端に緊張して、言葉が口から出て来なくなってしまう。これ以上踏み込んでいいものか。ハナさんにとって僕はどんな存在なんだろう。僕はハナさんのことをどう思っているのだろう。心臓がドキドキと鳴り響く。ハナさんに聞こえてしまっているのではないかと思い、チラリとハナさんに目をやる。ハナさんは僕の反対側を向いて横になっている。どうやら大丈夫のようだ。
「ハナさん…。あの、ゾンビナイトが終わったら、ふ、2人でどこか遊びに行きませんか??話したいこともあるし、いや!変な意味じゃなくて!そのーー。」
「ぐごぉおおお!!ぐがぁぁあ!」
ーーは?
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