第78話 (68)ピーナッツ&ビターステップ-1
『ナイトベアー様、行くのであります!』
「ぷっ!あはははは!」
「ちょっと、ハナさん笑っちゃダメだよ!」
思わず吹き出してしまったハナさんをオラフさんが注意する。2人の視線の先には、ナイトベアーのようでナイトベアーではない着ぐるみのキャラクターが立っていた。萌え袖のようにだらんとした両手を上にあげてプラプラとさせている。
「行くのであります!」
「ぷっ。ちょっとハナさん、やばいよそれは。」
「行くのであります!」
「あっはっは。ひぃ〜やめてぇ。」
ハナはしきりに先程の着ぐるみの真似をする。裏声で小馬鹿にしたような真似をするハナさんに可笑しくなってオラフさんはついつい吹き出してしまう。2人して大爆笑である。
「ちょっと、2人とも酷いですよ!僕は真剣にやってるんですから!」
「ごめんごめん。だってさー。」
「だっても何もないですよ!」
着ぐるみが人のように喋り出す。そして、背面のチャックを開けて中からカッピーが出てくる。そう、着ぐるみの正体はカッピーだったのである。着ぐるみの中は暑いのだろうか、カッピーの髪の毛は汗で額に張り付いていた。
「遊びじゃねぇんだ!ヘラヘラすんじゃねぇ!!」
「はい!すいません!」
そこに年配の渋い男性の怒号が鳴り響き、場が一気にピリッとする。先程まで爆笑していたハナとオラフさんも一気に緊張感を纏い、口を一文字にして直立した。
「ミッキーさん!どうでしょう!」
そんな様子を見ていたビッグボスが、怒号を飛ばした男性に話しかける。どうやら男性の名前はミッキーと言うらしい。とてもこのスキンヘッドのおじさんからミッキーと言う可愛らしい名前は想像できない。名前に反してミッキーさんは眉間に皺を寄せ、吐き捨てるように話す。
「ダメだ。これじゃだせねぇ。」
〜〜〜
「確かに。あるにはあるんだけど。今日すぐには出せないですよ?」
「すぐじゃなくてもいいの!いつくらいには出せそう?」
「不具合箇所がないかのチェック次第なので、何もなければ明日には使えるようになると思います。」
「本当に?じゃあ急で悪いけどよろしくね。」
ビッグボスは衣装班のスタッフにお願いにやって来ていた。その理由はカッピーに着ぐるみを担当してもらう為である。今年のナイトベアーのショーには構想の段階では、ナイトベアーの弟分のリトルナイトベアーというキャラクターがいたのだ。しかし、着ぐるみ担当の人員確保が難しく、今年はナイトベアー単体のショーになっていた。そこでカッピーである。『アレ』により、カッピーを素顔でストリートにダンサーとして出演させるのが難しくなった。その事を演出家であるニセ姉に相談するとーー。
『それなら、リトルナイトベアーちゃんとしてショーに出てもらいましょうよ。ちょうど着ぐるみもあるじゃない。』
ーと言う鶴の一言ならぬ、オネエの一言でカッピーはめでたくリトルナイトベアーとして着ぐるみデビューすることになったのだ。しかし、それをよく思わない男がいた。そう、ミッキーさんである。
「ダメだ。許可できねえ。」
ミッキーさんはカッピーの出演に断固として首を縦に振らなかった。ミッキーさんはUPJで長年着ぐるみの中に入っているベテランである。パークにいる着ぐるみ担当のスタッフはみんなミッキーさんのお墨付きを得てから、やっと表に出られるのだ。
「昨日今日着ぐるみ始めた奴がすぐ表に出られるかよ。」
「でもニセ姉もカッピーならできるって…。」
「あの姉ちゃんがなんと言おうと俺には関係ねぇ。それにリトルナイトベアーとして出るんなら、俺の横に立つって事だろう?バイトの素人に並ばれたんじゃ迷惑でしかねぇよ。」
「そんな…。」
話も聞いてくれない様子だったミッキーさんを説得し、何とかカッピーと会ってから決めてくれませんかと頼み込んだ。そこまで頼まれるなら、と言って一度挨拶がてらレッスンを受けることとなったのだった。
しかしーーー。
〜〜〜
「話は終わりだな。こんなんじゃ出せねぇ。」
ミッキーさんは早々に帰ろうとする。そんな彼の肩をビッグボスが掴み、帰るのを阻止する。
「待ってください!そんなロクに教えもしないで、ダメだからハイおしまい!なんて納得できないですよ!ねぇ?カッピー?」
「は、はい…!僕頑張ります!悪いところあれば指導して欲しいです!」
「なんか伝わってこねぇなぁ。兄ちゃん、やる気あんのかい?『アレ』みたいな勝手な事されちゃ困んだよ。なぁ?」
ミッキーさんがカッピーに近寄り凄む。背格好はカッピーの方が良いのだが、一回り小さなミッキーさんの方が迫力があり、その気迫に押されてしまう。
『ナイトベアー様、行くのであります!』
ヒリヒリした空気の中、リトルナイトベアーの着ぐるみが突然動き出し喋り始める。
ーー果たして誰が入っているのか?!
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
ここまで読んで頂いて本当に嬉しいです。
このキャラのエピソードもっと読みたいなどあれば、コメントで教えて頂きたいです!
ぜひよろしくお願いします!