第76話 (66)違う月
ビッグボスの呼び出しを終えた僕らは迷惑をかけた人たちへの謝罪行脚へと回っていた。皆さん、優しく許してくれた。中には、かっこよかったよと言ってくれる人もいた。身に余る言葉である。そして、社会人としてあんな勝手なことはしてはいけないよ、と注意してくださる方もいた。ごもっともである。
一通り謝れる人には謝った後、僕らはパーク内のベンチに座って休憩していた。
「今残ってる人には謝れたかなー。」
「流石に夜遅いこともあって、全員は残ってなかったですね。」
「んーまー。そんなに焦ることないさ。ゆっくり謝って、これから態度で示してゆこうよ。」
「そうですね。」
そう言いながら、ハナさんは上司さんにもらったガトーショコラをガブリと口にした。僕も羊羹をパクリと食べる。正直僕もガトーショコラが良かったが、ハナさんが当たり前のように先にガトーショコラを貰ったので、余っている羊羹をもらう他なかった。しかし、羊羹は羊羹で美味しいなと思って、食べていた。緑茶がよく合うほどよい甘さである。
「いや〜。こうやってカッピーとゆっくり話すのも久しぶりな気がするね〜。」
「そうですね。最近色々あったから…。」
そう言って言葉に困ってしまう。ハナさんに直接話をしていいものなのか。チョウチョさんとの話、オーディションの話、迷惑男の話、気軽に話していいものか。ハナさんは話して欲しくないのかもしれない。
「なんだよ!カッピー!口篭っちゃって!私と君の仲だろう?あけすけに話してくれよ!」
「すいません…。ハナさん、色々大変だったんだなと思って…。」
「なははー。隠しててごめんよ。まぁ中々言うタイミングってないじゃん?」
空を見上げながら、足をバタバタさせるハナさん。その姿はいつもの頼れるお姉さんではなく少女のように見えた。
「色々隠し事があった方が、影のある大人の女性って感じだろう?…。まぁ冗談は縦置きーー。」
「あっ、横置きでもいいですけど。冗談の置き方知らないんで。」
「おっ、カッピーやるねぇ。」
ケラケラと笑うハナさん。その姿は最近の元気のないハナさんではなく、いつもの出会った時のハナさんであった。
「実際、本当に気にしてないんだよ。でも時々、嫌な記憶がフラッシュバックして、それを塗りつぶすように、身体が勝手に動いちゃうんだよね。『アレ』もその一種というか。根が負けず嫌いなんだ、私。」
悪い癖だよねー、と言って笑う彼女をジーッと見ていた。
「チョウチョにインタビューされてるテレビ見たよ。お姉さん亡くなってたんだね。」
「いや、亡くなってないですよ!ハナさんに前話したことあるじゃないですか!ピンピンしてます!さっきもメッセージ来てたんですから。」
そう言って姉からのメッセージをハナさんに見せる。
『『アレ』見たよー。有名人じゃん。友達にこれ弟って言いふらさせてもらってるー。今度遊びに行くねー!』
「ふふっ。いいお姉さんだね。」
「意地悪姉さんですよ!」
「まぁ、それはそうとさ。カッピー、インタビューの時チョウチョの胸見てたよね?」
「…。」
「あいつ、胸は大きいからなー。すけべなカッピーはそりゃ見ちゃうかー。」
「見てませんよ!やめてください!」
「ほんとかなぁ〜。」
ニヤニヤとした顔で僕をからかってくるハナさん。その顔はほんの少し影があるように感じた。薄い雲が月に少しかかり始める。
「月、綺麗だなぁ。あれ、なんで言うんだっけ?半月?」
「そうですね?上弦の月?とかな気がします。」
「後少ししたら満月だね。楽しみだ。」
「ハナさんは月より団子でしょ!」
「失礼な!私は綺麗なもの見るのは好きなんだよ!」
そのまましばらく2人で夜に浮かぶ月をじーっと眺めていた。こんなに近くで同じ場所にいるにも関わらず、同じ空の下で違う月を見ているように感じた。ハナさんには今日の月はどう見えているんでしょうか?僕に見えているのとおんなじでしょうか。
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