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第71話 (61)milk-2

 囚人エリアの混乱から抜け出したカルーアちゃんは、フードカートでコーヒーを買い、ベイサイドエリアのデッキにあるベンチで一息ついていた。


ーーはぁ。


 この分だと今日はもう囚人エリアはゾンビが出てこないかもしれない。一般の客は他のエリアのゾンビを見て回ればいい話だが、推しのいるオタクはそうはいかない。私にとって、囚人エリアのゾンビだけがゾンビナイトの全てなのだ。今日何のために来たんだろう。『アレ』って結局何だったんだろう。


「「はぁ…。」」


ーー?!


 ため息をふとついてしまったカルーアちゃん、そのため息にユニゾンするように横からも男のため息が聞こえた。


「あっ、ごめんなさい。ため息、同時に出ちゃいましたね。」


「い、いえ!私こそごめんなさい!なんか…、ごめんなさい!」


 お互い、ため息が被ってしまったことへの謎の謝罪をし合う。気まずくなった空気に耐えられず、カルーアちゃんは先ほど買ったコーヒーをカップからグイッと飲む。


「…っ!!苦っ…!!」


 先ほどの騒動で疲れていたせいか、ミルクと砂糖をもらうのを忘れていた。苦いものがそんなに得意でないカルーアちゃんは思わずその苦さに声を出してしまった。


「ミルク貰わなかったんですか?」


「え?!あ、はい!わ、忘れちゃったみたいで…。はは!」


「良かったらこれ使ってください。僕、使わないんで。」


 そう言って、男が差し出したのはコーヒーミルクだった。僕使わないけど貰っちゃったんでどうぞ、と言って男が笑う。ありがとうございます、と言って受け取ったカルーアちゃん。お礼を言った後、男の顔をチラリと見てみる。あれ?何か見覚えがある。誰だ、知り合いだろうか。いや、こんな好青年の知り合いはいない。では、誰だ。そう考えた瞬間、脳裏に『アレ』の映像がフラッシュバックする。この人、もしかしてーー。


「あ、あの!!もしかして、カッピーさんですか??」


「あっ、え??どうして…。」


 目を丸くして驚いているカッピー。その顔にどことなくタケティーの面影を感じる。間違いない!オタクとしての私の直感が冴え渡る。ゾンビメイクしている時の方がタケティーに似てるけど、ノーメイクでも少し似てる。何よりあのテレビ番組のインタビュー映像に出てた顔に相違ない。そう確信した瞬間、カルーアちゃんに緊張感が走る。えっ、推しが目の前にいる。私、推しと喋ってる?推しにコーヒーミルクを貰った。え、待って。無理なんだけど。え?死ぬの?私、今日死ぬの??


「あ…!いつも写真撮ってくれてる方ですよね??」


「えっ!私認知されてるんですか??」


「認知…?あ、はい。わかります!いつもありがたいなって…。」


 お、推しが私を認知している…!もう何も思い残すことはないです。本当にありがとうございました。推しが私にコーヒーミルクをくれたから、今日はコーヒーミルク記念日。


「オラ、同僚にSNSに上がってる写真とかも見せてもらったりしてて…。いつも綺麗に撮って頂いてて感謝しかないです…!」


「しゃ、写真まで届いてしまっているーー!!」


ーー憤死っ!!オタク、私、憤死っ!!ここに散る!


 嬉しさと恥ずかしさでベンチでバタバタと暴れてしまうカルーアちゃん。てか、素のカッピーさん低姿勢で素敵すぎる。話し方も優しいし、嫌なところが全然ない。推せる。推せすぎる。推しの致死量を摂取してしまっている!!


「だ、大丈夫ですか?!」


「大丈夫でふっ!」


 思いっきり舌を噛んでしまうカルーアちゃん。それを誤魔化すために、コーヒーに先ほど貰ったミルクを入れて急いでゴクゴクと飲む。そして、一気に飲んでしまったため咳き込んでしまう。


「ゴ、ゴボォオゥエ!!」


「ちょ、本当に大丈夫ですか??」


「大丈夫だ。問題ない。」


「え?あっそうですか?」


〜〜〜


 一通り取り乱し切ったカルーアちゃんは、落ち着きを取り戻していた。そして、2人の間を沈黙が包む。ベイサイドエリアの波の音が流れていた。カルーアちゃんは我慢できず、気になっていたことを尋ねてしまう。


「あの、今日はもうゾンビとしては出ないということでしょうか?」


「そうです!あ、こんな事お客様に言っていいのかな?やっぱり今のなしで!」


「ふふ。何ですか、それ!」


「すいません!」


 お客様にどこまで話していいんだろう、と焦るカッピー。そんな姿を見て可笑しくて笑ってしまうカルーアちゃん。和やかな雰囲気が2人を包む。カルーアちゃんは一つ気になることを、カッピーに質問する。


「今日出ないのって、やっぱり昨日の『アレ』のせいですか?」


「あっ…。誤魔化してもバレちゃいますよね。そうなんです。本当にごめんなさい。」


「『アレ』って何だったんですか?」


「…。すいません。『アレ』については、僕の口からは何とも言えなくて。説明するのも難しいというか…。ごめんなさい。」


「そうなんですか…。でも、動画で見たんですけど、『アレ』のカッピーさんすごくかっこよかったです!」


 カルーアちゃんのその言葉に素直に喜べない曖昧な表情で応えるカッピー。そして、時計の時間を見て、焦ったような表情を浮かべてベンチから立ち上がる。


「僕、もう行かないと。ビッグボスに呼び出されてるんだ。」


「ビッグボス…?わ、わかりました!すいません、なんか。ただのオタクが色々ズケズケと…。」


「いや!謝らないでください!こちらこそいつも応援ありがとうございます…!」


「いえ…!私はただ推すだけですから!これからも応援してます!!」


「…。じゃあ、失礼します。」


 去っていくカッピーを見ながら、頭を下げるカルーアちゃん。その少し元気のない後ろ姿を心配しつつも、推しと話してしまった高揚感が残っていたのだった。


〜〜〜


 ビッグボスの元へと向かうカッピーに、先ほどのカルーアちゃんの言葉が重くのしかかっていた。


『これからも応援してます!!』


ーーこれから、か。


 あんな勝手なことをしてしまったんだ。これからクビになってもおかしくない。ゾンビの仕事する際にも説明があった。ゾンビのイメージを外れる勝手なことをしてはいけない、と。それに、クビにならなくとも自分はもう辞めようと思っていたのだ。


 こんな自分にファンができるなんて思ってなかった。そのファンを裏切ることになってしまうかもしれない。その重圧がカッピーにのしかかっていた。

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