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第65話 (55)恋のメリーゴーランド-2

『もう!嫌!冗談キツいですよ、ただの友達ですから!』


 先ほどのあかねちゃんの言葉が頭に鳴り響く。水中に潜って反響する音のように何度もリフレインされていく。


『もう!嫌!』


ーーもう?嫌?


『冗談キツいですよ!』


ーー冗談キツい?


『ただの友達ですから!』


ーーただの友達?


『ただの友達!』


ーーただの友達??


 もう手を繋ぐなんてことは不可能、ミッションインポッシブルであると全身で悟ったタテノくん。トムクルーズも完全にお手上げであろう。


「あ、そろそろ着きそうだ!見えてきたよー!“絶望”が!」


 スタッフと別れ、しばらく歩いていたら2人の眼前に巨大なジェットコースターが現れた。高く高くそびえ立つそれは、100メートル程はあろうかという高さだった。何より恐ろしいのは、一つ目の落下ポイントである。ほぼ垂直に落ちるように見える。それはまるで断崖絶壁のように見え、まさに“絶望”を感じさせるものだった。


ーーこ、これに乗るのか?!


 タテノくんはジェットコースターを目の当たりにして、あまりの恐怖に先ほどまでの“ただの友達”ショックを忘れて立ち尽くしていた。なんとかこれに乗っている数分間だけ、記憶をなくすことはできないか。残念ながらそんなびっくり特技を持っているはずもなく、自分自身の力でどうにかするしかないのだ。頑張れ!タテノくん!


「実際見ると凄いねぇ。楽しみだなー!早速並ぼうか?」


「う、うん。そうだね。」


 どんどんと顔面蒼白になっていくタテノくん。今からそんな具合では、実際乗った時には色という色を失ってしまうんではないか?


 2人が乗車列の方に向かうと何やら、スタッフさんが説明をしているようだった。他のお客さん達もざわざわとしているようだ。何だろう?


「非常に申し訳ないのですが、本日システムの不具合により、運転を停止しております。再開は未定となっております。ご迷惑をおかけして申し訳ないです。」


「そんなぁ。」


「これに乗るためにわざわざ東北から来たのにー。」


「今日は運転再開できないんですか?」


「システム復旧次第なのですが、恐らく本日中の復旧は難しいかと…。」


 話を聞いているとどうやら、ジェットコースター“絶望”は現在システム不具合で休止しているらしい。タテノくんは内心とても喜んでいた。タテノくんにとってその知らせは“希望”でしかない。しかし、あかねちゃんにとってはそうでなかった。


「そ、そんな…。」


 膝から崩れ落ちるあかねちゃん。無理もない。自他共に認めるジェットコースターラバーで、今日はジェットコースターに乗るために来たのである。その目的を失ってしまったのだ。


〜〜〜


「あ、あ、あ。」


「あ、あかねちゃん。大丈夫?」


「あ、えっ、あ、えっ?」


「あかねちゃん!しっかりして!」


 口をぱくぱくさせたまま、ジェットコースターの入り口から動こうとしないあかねちゃんを何とか近くの空いているベンチに移動させたタテノくん。タテノくんの必死の問いかけにも、あかねちゃんは上の空であった。


「これからどうすれば…。この為に、この為に来たのにぃいい!!」


「う、うゎぁぁぁああん!!!」


 鳴り響くあかねちゃんの慟哭。タテノくんは、あかねちゃんの見たことのない姿に驚きつつもギャップを感じて見惚れていた。


 あぁ、あかねちゃん素敵だなぁ。こんなに感情を揺れ動かすほど、ジェットコースターを愛していたし、楽しみにしてたのか。僕はジェットコースター乗るの怖いけど、楽しむあかねちゃんが横にいるのなら乗って見たかったなぁ。


 落ち着きを取り戻したあかねちゃん。タテノくんと2人静かにベンチに座っていた。2人の間に沈黙が続く。このままでは、折角のデートが台無しになってしまう。そう思ったタテノくんが沈黙を破る。


「あ、あかねちゃん!」


「な、なに??」


「ジェットコースター残念だったけどさ。俺、他のアトラクションも調べてきたんだ!」


「え、そ、そうなの?」


「うん。だから、ここからは俺に任せて欲しい!」


「ま、任せるって…。」


「いいから!行こう!」


 そう言ってグイッとあかねちゃんの手を引くタテノくん。


「ちょ、ちょっと!急だってば!」


「だって、急がないと!時間は限られてるんだから!」


 こうしてジェットコースター代替案となるタテノくん主導のテーマパークツアーが始まったのだった。


〜〜〜


お化け屋敷にて。


「う〜らめ〜しや〜。」


「ぎゃぁあ!!」


「タテノくん、驚きすぎ!」


〜〜〜


コーヒーカップにて。


「おりゃおりゃおりゃー!」


「あかねちゃん!回しすぎ!回しすぎ!目がまわる〜!」


〜〜〜


ゴーカートにて。


「このコーナリング!頂く!」


「あかねちゃん…っ!速い!」


「タテノくん、お前の弱点は…。右コーナーがヘタクソだってことさっ!!」


〜〜〜


観覧車にて。


「いや〜、楽しかったね〜。」


「うん…。ありがとう、タテノくん。」


「え?」


「色々連れて行ってくれて、楽しかった。ジェットコースター運休って聞いた時は、悲しくて、もう全部失ったような気分だったけど。タテノくんが色々連れて行ってくれて、楽しかったーー!!」


「俺も楽しかった!あかねちゃんと遊べてよかった。」


「…。」


 2人の間を沈黙が包む。タテノくんは、向かいの席に座っているあかねちゃんを見つめる。あかねちゃんもこちらを見て、ニコッと微笑む。あかねちゃんの後ろに夕焼けが沈もうとしているのが見える。強い日差しが僕らのゴンドラへ差し込む。逆光にあかねちゃんが包まれる。眩しい。眩しいよ、あかねちゃん。この眩しさはきっと太陽のせいだけじゃない。君の可愛さ、素敵さが眩しさを増長させているんだね。目を細めるタテノくんに、あかねちゃんが話しかける。


「タテノくん、そっち眩しくない?こっちの席においでよ。」


「えっ?あ、う、うん。」


 あかねちゃんの提案にドキっとするタテノくん。あかねちゃん側の座席に移動するタテノくん。ゴンドラの揺れを感じるタテノくん。あかねちゃんの右側に座っているタテノくん。左腕にあかねちゃんを感じるタテノくん。2人の体温の違いで、はっきりとした境界線を感じるタテノくん。しかし、その境界線を感じなくなる程ドキドキと心臓が脈打ち始めていた。タテノくん。タテノくん。あぁ、タテノくん。これはチャンスじゃないの?タテノくん。急接近する2人。


「お、大人が2人で座るにはちょっと狭いね。」


 タテノくんは緊張しながら、あかねちゃんに話しかける。左側を見ると、あかねちゃんの顔がすぐ近くにある。不意に唇に目が行ってしまう。いや、流石にキスはまだ、まだ速い。速いじゃない、早いだ。あわあわあわ。心臓はドクドクと早く動いているが、脳に必要な量の血液が達していない感覚がする。落ち着け、僕よ。


「うん。そうだね。」


 妙にしっとりとした声で答えるあかねちゃん。その視線はずっとタテノくんの方を向いていた。


ーーえ?!これどうなんだ??えっ??


 あかねちゃんがずっとこっちを見ているということは?!どういうことだ??手を繋ぐか、キスをするか。キスは流石に違うか。でも、これはキスの雰囲気なんじゃないのか。キスして嫌われたらどうしよう。ならば、手くらい握ってみるか。でも、気持ち悪がられるかな。どうしようかな。


「…。」


 思考がまとまらないタテノくん。そんな彼の方を向いてじーっと見つめているあかねちゃん。そして、あかねちゃんは何かに気づいたような顔をして突如声をあげる。


「あーーっ!!」


「え?!な、なに?!どうしたの??」


「あれ、見て!メリーゴーランド!」


「え?!メリーゴーランド??」


 あかねちゃんが僕の背中の方角を指差す。体をグイッと捻って後ろを向くと、その指の先にメリーゴーランドがクルクルと回っていた。どうやら、彼女が見ていたのはタテノくんではなく、その背後にあるメリーゴーランドのようであった。残念、タテノくん!どんまい!


「そう、遊園地来たのにメリーゴーランドに乗ってない!」


「た、確かに乗ってないけど…。」


「メリーゴーランド乗らないと、遊園地を完全に楽しんだとは言えないよ!早く行かないと終わっちゃう!」


 あかねちゃんは、早く回れ〜早く回れ〜、と観覧車に念じ始めた。観覧車はそんな彼女の願いを聞き入れたのか、僕らのゴンドラはずいずいと地面に近づき始めていた。そして、地面に着くと、急いでメリーゴーランドの方へと向かうのだった。タテノくんの手を握り、引っ張って走るあかねちゃん。


ーーっ!手を…!!


「急いで!タテノくん!」


「う、うん。待って。はぁ。はぁ。」


 少し走ると、メリーゴーランドの元に着いた。もう閉園間近のためか、人はまばらであった。スタッフさんは、まだ搭乗頂けますよー、と僕らを案内してくれた。


「私はこれにするー!」


 そう言って、馬の上に跨る彼女。あたりはすっかり暗くなり始め、メリーゴーランドの電飾が点灯し始めていた。キラキラとした光が僕らを包む。あかねちゃんの少し右後ろの馬に跨る僕。あかねちゃんはこちらを向いて、その馬なんかタテノくんに似てるねと言ってケラケラと笑っている。


 他愛もない話しているとゴゥンと言う音と共にメリーゴーランドが回り出した。馬たちは上下に動き、僕らもそれに合わせて上下していく。


「わぁ、綺麗。」


 電飾でキラキラと輝いているメリーゴーランドの中を僕たちはずっと回っていた。僕の少し前を走るあかねちゃんの横顔を、少し後ろから眺める。決して距離の縮まらないメリーゴーランドに乗りながら、タテノくんは今朝よりも少しあかねちゃんとの距離が縮まったことを感じていた。


ーーいつか君の真横で一緒に走れるのかな。


「う、うわぁぁぁあ!!」


 甘いことを考えていたタテノくんは突如バランスを崩し、馬から崩れ落ちる。それに気づいた、スタッフさんはメリーゴーランドを緊急停止させ、タテノくんに駆け寄る。


「お、お客様!大丈夫ですか??」


「は、はひぃ。大丈夫れすぅ。」


「もう、何やってんのタテノくん!」


 そんな僕の姿を見てケラケラと笑うあかねちゃん。先ほど近づいた気がした距離分遠ざかってしまった気がしていた。


〜〜〜


「じゃあ、またね。今日はありがと!楽しかった!」


「うん、また!」


「次はジェットコースターリベンジしよう!」


「う、うん。そうだね。」


 手を振ってタテノくんと別れるあかねちゃん。電車に乗って去っていく姿を見送り、1人駅のホームを歩く。先ほど、振っていた手のひらを見つめる。


ーー今日何回もタテノくんの手握っちゃったな。


 そう思いながら、帰路に着くあかねちゃん。彼女の目には、メリーゴーランドのキラキラがまだ残っていた。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

ここまで読んで頂いて本当に嬉しいです。

このキャラのエピソードもっと読みたいなどあれば、コメントで教えて頂きたいです!

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