第61話 (52)Re:Re:デイちゃんの1日
「はぁ…。」
「どうしたの?リュウ君、元気なさそうじゃない?」
「いや、実は…。」
かくかくしかじかと最近やってしまった失敗を話すリュウ。要約すると、ゾンビダンサーに罵詈雑言を浴びせたらしい。聞いていてショックを受けた、まさかそんな一線を超えたことをしてしまっていたなんて。
「でももう僕反省してるんです。昨日までの僕は余りにもバズりに取り憑かれていた。もう行きすぎた行動はせずに、地道に頑張ろうかなってそう思ってるんです。」
「反省してるんなら、いいわね。でも、そのダンサーさんに謝ったりした方がいいんじゃない?」
「僕もそう思ったんですが、中々ダンサーさんにコンタクト取るのは難しくて。デイちゃんの方からお願いできないですか?」
「私の知ってる人なのかしら?」
「ハナさんってダンサーなんですけど…。」
余りにも知っている名前で拍子抜けする。ハナになら、普通に話せそうだ。でも、ハナの性格的に色々言われたからといって気にしなさそうだとデイちゃんは思っていた。
「ハナなら知ってるわよ。次会った時にでも伝えておくわよ。とりあえず今はリュウ君も反省しておくことね。」
「はい。反省します。」
明らかに元気のなさそうなリュウ。目元はまだ赤くなっていた。泣いていたのだろうか。今日はもう帰りますと言って、そそくさと去って行った。それにしても罵詈雑言とはどんなことを言ったのだろう。動画はもう消してしまったから、確認できないと言っていた。それに、内容ももう口にも出せない程酷いことを言ったらしい。気になる。どんなことを言ったのだろう。口にも出さない酷い言葉。ファック!とでも言ったのだろうか。その程度のことならば、ハナはファック!と中指を立てて返してきそうではある。
「デイちゃん。ちょっといい?」
「あれ。ビッグボス、どうしたんですか?こんな時間に珍しいですね。」
「ちょっと事情があってね。実はハナのことでーー。」
そう言ったビッグボスは昨日のハナの事件を詳細に話し始める。その詳細には、先程リュウが伏せていた暴言の内容が入っていた。リュウ君、流石にそれはやりすぎよ。反省しているとはいえ、許されるラインを超えている。
「ハナにそんな過去があったなんて。それで私に聞きたいことって何ですか?」
「実はそのハナに暴言を浴びせた男の人に心当たりがないかと思ってね。昨日は結局逃げられちゃったから。顔は見たから似顔絵をかいてみたんだけど、どう?見覚えある?」
そう言って紙を差し出すビッグボス。そこには決して上手とは言えない似顔絵が描かれていた。休日のショッピングモールで近所の保育園のパパママの似顔絵が飾ってある中に混ぜてもバレないだろう。大人が描いた似顔絵とは思えない程、下手であった。
「…。」
「どう?見覚えある?」
「この絵では、わからない。」
「わからないかー。」
この絵では本人も自分が描かれているとは思わないだろう、とデイちゃんは思った。絵のことはさておき、犯人については心当たりしかない。どこまで言うか迷いながら、口を開く。
「実は、私さっきまでその犯人と話していて。」
「え?!そうなの?ハナに酷いことを言ったやつと?」
「そう。で、その人は今すごく反省していて、ハナに謝罪したいって言ってて。」
「え??誰なの??その人、知り合い?」
言っていいものか、悩むデイちゃん。しかし、ビッグボスは信頼のおける人だ。それに、謝罪したいという話もビッグボスに話せばスムーズに進みそうである。よし、言っちゃおう。
「あの、リュウって言う人なんだけど。」
「リュウー?!リュウってあのリュウちゃんねるをやってるリュウー?!あんのクソトラブルメイカーが!!」
苛立ちを隠せないビッグボス。
「リュウのやろう、碌でもないわね本当に。反省してるってのも怪しいもんだわ。」
「それはでも本当に反省して元気なさそうでしたよ。泣いてもいたみたいですし…。」
ザザザザザー。
ビッグボスの無線機が音を立てる。どうやら、呼び出しのようだ。
「ごめん!デイちゃん、私もう行かなきゃ!その話はまた今度させて頂戴!ありがとう!」
足早に去っていくビッグボス。相変わらず忙しそうである。名前を出した途端にあの反応ということはリュウ君はよっぽど問題児なのだろう。その極め付けが今回の事件だったというわけだ。ハナは大丈夫なのだろうか。
「あれっ!デイちゃんじゃ〜ん!お久しぶりぶり〜!」
声がして振り返るとそこには中年男性が立っていた。見た目の貫禄に対して、話し言葉がファニーで釣り合っていない。
「あっ!ラブさんだ!久しぶりね〜。」
「ラブさんですっ!ラブゥ〜。」
「ラブゥ〜。」
ラブゥ〜と言いながら、両手でハートを作って送り合う二人。そこそこいい年をした二人が何をやってるんだと思われるだろうが、本当に何をやってるんだろう。このラブさんというのは、ゾンビナイトの期間にUPJに現れて女性ゾンビ達にハートをラブゥ〜と言いながら送りまくるおじさんである。ゾンビナイトでアイドルゾンビという謎のゾンビがいた時代があり、その時にパークに通うようになった。アイドルにハートを送るというアイドルオタクのノリをとにかくずっとやるので、ゾンビダンサーからも一般のお客様からも謎のラブおじさんとして注目を集めていた。
「今日もゾンビにハート送ってきたの??」
「もちのロンロン!送りまっちゃってるよ〜ん。」
すごく元気そうでよかった。アイドルゾンビはもうゾンビナイトからいなくなってしまった。アイドルゾンビがいなくなった年のラブさんのあの全てを失ったような表情を今も覚えている。今では、アイドルゾンビに関係なく女性ゾンビに手当たり次第にハートを送るおじさんへと変貌を遂げた。ゾンビダンサーもラブさんも楽しいのでウィンウィンである。
「でも、ちょっと気になることがあってね。」
「気になること?なに?」
「いつも楽しくハートのやり取りをしてるゾンビちゃんがいるんだけど、なんだか今日構ってくれなくてさ。」
「どんなやり取りするの?」
「いつも通りにこう、ハートを送って。そしたらゾンビが『ゔぉあ!』って叫んでハートを断られるっていう楽しいやつなんだけど。今日はハートを送っても無視されちゃったんだよね。いつもノリノリで返してくれるゾンビちゃんなんだけど。」
いつもはノリノリ、今日は元気ない。先程まで色んな話と繋がっていく気がした。点と点が線となる感覚。
「もしかして、ハナじゃない?そのゾンビ?」
「うーん。名前はわかんないんだけどねぇ。昔からいるゾンビちゃんだよ。」
昨日色々あったから、少し元気がないのかもしれない。ハナの様子が気になってきた。
「この後もう一回リベンジしに行こうかな!」
「私も気になるから行ってみようかな。」
「おー?デイちゃん珍しいね?じゃあ、一緒に行こうか?ハートのやり方わかるかい?」
「私ハートはやりませんから。」
「そ、そうか。ノリ悪いな。」
こうしてラブさんと共にハナの元へ向かうことになったデイちゃん。この後ハナが引き起こす『アレ』に遭遇することになるのだが、今は気楽にラブさんのハートレクチャーを受けるのだった。
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