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第59話 (50)乾いた花-2

「すいません。」


「いや、いいのよ。気をつけて帰ってね。」


 調子の悪そうなハナが早退するのを見送るビッグボス。ハナから話を聞いて驚いた、そんな事をする奴がいるなんて。次から、ハナの周りにスタッフを配置して注意しておかなければならない。しばらく休むことも提案したが、ハナ本人は大丈夫なのでやらせて下さいとのことだった。


「はぁ〜。とんでもないやつがいるものね。」


 そう呟くビッグボスの言葉にビクッと驚くタテノくん。


「ご、ごめんなさい!!」


「え?何が?」


「あの男を逃してしまったことかと思って…。」


 ビッグボスは何のことかと思ったが、すぐにタテノくんが男に振り払われた事を思い出した。今回は別にタテノくんが悪いわけではない。人を取り押さえるためのテーマパークのスタッフではないのだから、仕方ない。


「大丈夫よ、タテノくん。今日のことはしょうがないわ。気にすることないわよ。」


「そ、そうですか。」


 しょげているタテノくんを慰めながら、ビッグボスは考えていた。今一度お客様に禁止行為の周知を行わなければならない。今回のはかなりのレアケースとはいえ、早急に対策を行わなければならない。ハナが変なやつに絡まれているのに、スタッフがすぐに対応できなかったのは良くない。もっと迅速に対応できる術はないものなのか。


「あのー、問題が起こりそうなゾンビダンサーさんにマイクとかつけるのはどうでしょうか?」


 先程までしょげていたタテノくんがビッグボスに進言する。


「今回のも変なお客様が話しかけてきたりしたわけで。話しかけてられている内容に違和感を感じたらすぐに対応できるし、もし人が殺到してたりしたら、叫び声とかも聞こえやすいだろうし。ど、どうでしょう?勿論全員は現状無理だと思いますがーー。」


「それ、アリね!早速ハナやカッピーの分は手配出来るように上司さんに相談してくる!」


 脅威の速さでタテノくんのアイデアを採用するビッグボス。ジョージに相談するために急いで部屋を出て行ってしまった。


「ビッグボス、流石行動が早いなぁ。」


 タテノくんは、ぼそっとそう呟く。心の中では自分のアイデアが採用されそうなことに嬉しさを感じていた。嬉しさでニヤニヤとしていると、先ほどビッグボスが出て行ったドアからドタドタと音が聞こえ、すぐに扉がガチャっと開いた。ビッグボスが部屋に戻ってきて、タテノくんに一言伝えるのだった。


「ありがとうね。タテノ!ナイスアイデアよ!また何か思いついたら、すぐに言って頂戴ね。」


 それだけ言うとすぐにまたビッグボスは去って行ってしまった。慌ただしい人だなぁ。そう思いつつも、ゾンビナイトで起こるトラブルに何か自分が貢献できる対応策はないかと考えてみるタテノくんだった。


〜〜〜


ーーあぶねー。危うく捕まるところだった。


 スタッフから何とか逃げ出したリュウは先ほど撮った動画を見ながら、ニヤけていた。動画には、ゾンビの表情を崩し、動揺するハナが写っていた。


ーーこの動画に傑作なタイトルをつけて投稿すればバズるだろうなー。やったぜやったぜ。


 パークを出て、しばらく外を歩き帰路についていると正面から二人組の男が歩いてきた。


「あれ?リュウ何やってんの?」


「あっ、シャクレさんにメガネさん!お疲れ様です。」


 その2人は『愛の爆弾チャンネル』の2人であった。話を聞くと、ゾンビナイトを楽しむ動画を撮るためにパークにやってきたところのようだった。


「そうだったんですねー。言ってくれれば、僕も撮影協力するのに!」


「さっき急に暇だから行こうってなったからさ。今からはどう?」


 今からパークに戻るのはまずいと思ったリュウは、「いやー今からはちょっと…。」と口籠るのだった。


「実は今この動画撮ってきたところで。ちょっと逃げてきたところなんですよ。」


「逃げてきたってどゆことよ、お前。」


 メガネさんが怪訝な表情を浮かべながら、リュウを問い詰める。シャクレさんはニヤニヤしながら、その様を見ていた。


「実は今、このハナってダンサーがSNSで話題になってて。それで突撃してきたんす。」


 そう言って、撮影してきた動画を2人に見せるリュウ。2人は黙ってその動画を見ていた。動画の再生が終わり、まずシャクレがリュウに話しかける。


「お前、えぐー。悪いやっちゃなー。」


「こんくらいしないとバズんないかなって思って!へへ!」


 話しながら乗ってきたリュウはどんどんと饒舌に話し始める。


「この動画に『オーディションに負けて落ちぶれたダンサーの末路www』的なタイトル付けたらバズると思うんですよねー。」


 ヘラヘラと笑うシャクレとリュウ。しかし、楽しく笑っていたリュウの後頭部に突如として衝撃が襲う。頭に隕石でも衝突したのではないか、という衝撃に思わずリュウは体勢を崩す。少しして、鈍痛が後頭部を襲う。痛い、痛い。痛みで後頭部を押さえながら振り向く。そこには腕を振りかぶったであろうメガネさんが激昂した顔で立っていた。メガネさんがリュウをぶん殴ったのだった。


「馬鹿お前。何やってんだ。」


「え?」


「え?じゃねぇよ。お前、これはやりすぎだろ。全然笑えない。面白くねぇよ。」


「ぼ、ぼくぅ。ふぅ、ふぅ。これバズるかなぁと思ってぇ〜。ふぅー。」


 涙を我慢し、か細くなった声でヒューヒューと喋るリュウ。そんな彼にどんどんとメガネは詰め寄るのだった。その圧にどんどんと涙目になっていくリュウ。


「バズるために人の心踏み躙るのか?お前の中にモラルはないのか?なぁ?」


「…?」


 リュウは普段温厚なメガネさんの豹変ぶりに驚いていた。また、彼は人に殴られた経験がなかった。その為、殴られた箇所のあまりの痛みに涙がポロポロと溢れ出していた。痛い、痛いよう。


「こんなの迷惑系インフルエンサーと同じだろ。最近思ってたけど、お前やりすぎだぞ?注目を集めればいいってもんじゃないんだよ。それに最近のお前の動画のタイトルや、内容本当に品がないぞ。ああいうのやめろ。」


 メガネさんのリュウに対する追撃は止まらない。どんどんとリュウの日頃の悪いところを指摘していく。その目は完全にブチギレており、ジリジリとリュウに近づき胸元を掴みガンを飛ばす。


「お前、聞いてんのか?!あぁ?!」


「ご、ごめんなしゃいぃ。聞いて、ひっぐ、ますぅ。」


 泣きじゃくるリュウ。我慢しようとしていたが、メガネさんの恫喝に完全に圧倒され、怖くて泣くのを我慢できなくなってしまった。彼の横隔膜は痙攣し、しゃっくりのような振動を繰り返す。大の大人がここまで泣くのを今日日見ないなと、シャクレさんは思っていた。


「仲良くて、お前がいいやつだって知ってるからこれまでは目を瞑ってたけどな。これは流石にやりすぎだ。ダンサーへのリスペクトとかないのか?」


「うっ。うぇえあ。ひっぐ、ひっぐ。」


「この娘の顔見ろよ。怖がってるじゃないか。言われた側の気持ち考えたことあるのか?」


「ぐっ。ぐっ。ひぃぐぅ。」


 流しても流しても流れる涙を一生懸命拭うリュウ。擦りすぎた目は涙のせいもあり真っ赤になっていた。


「お前はコンテンツを0から作ったわけじゃないだろ?他人が作ったコンテンツをただ撮影して、ネットにアップしてるだけの人間なんだよ。極論な?ダンサーさんは練習して、毎日頑張ってんだよ。な?」


「ひっぐ。ひっぐ。」


「泣いてるばかりじゃなくて、わかってんのかって言ってんだよ。お前俺を怒らせるなよ?返事しろよ!!」


「はっはひぃ!ご、ごめんなしゃい〜。」


 叫び怒り狂うメガネさんに、号泣しながら謝罪するリュウ。


「俺、ひっぐ。動画がバズればぁ、ひっぐ。愛の爆弾チャンネルにも良いかと、ひっぐ、思っででぇえ。ぐっ。」


「いや、良くないよ。こういうのは。悪い方法でバズっても虚しいだけだよ。こういうのはさ、コスパとかじゃなくて地道に頑張っていこうよ?な?」


「ぼ、ぼぐぅが間違っでぇえ。ぐぅひぇえ。」


 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているリュウ。そんなリュウを見かねて、メガネさんはタオルを差し出すのだった。真っ赤なそのタオルには、『愛の爆弾チャンネル』と書かれていた。


「このタオルもお前がデザインしてくれたんだよな。あの時の事、俺忘れねえよ。まだ登録者462人しかいないチャンネルだけどさ。これから頑張っていこうよ。」


「は、はぃいい。ごめんなじゃあぃいいい。」


 リュウはまだまだ溢れ出る涙と鼻水やら何らかの液体をとにかくタオルで拭きじゃくる。


「まぁまぁ、な?メガネもリュウも。な?」


 何も言うことが思い浮かばず、当たり障りのない言葉を音として発するシャクレ。下手なことを言うと、自分もメガネの怒りの的になるのではないかと恐れていた。


「なぁ、シャクレ。お前もあれはやりすぎだと思ってたんだよな?」


 鋭いメガネの質問にギクリとするシャクレ。


「そ、そうだな。お前が行かなかったら、俺が言ってたところだったよ。」


「まぁ、お前は優しいから。言えなさそうにしてるなと思って、俺が言っちゃった。ごめんな。変な空気にして。」


「い、いや。僕が悪いんですぅ。ごめんなさいぃ。」


「おい、スマホ貸せ。」


 そう言ってリュウのスマホを奪うと先程の動画を消去してから、ポイっと投げて返した。


「シャクレ悪い。今日ちょっと気分じゃなくなったから、帰るわ。」


「お、おう。またな。」


 スタスタと去っていくメガネを見送る2人。気まずい沈黙が場を包むのだった。


「お、俺らも帰るか?な?」


「はい。」


 しかし、今帰るとメガネと同じ電車になり気まずいと思った2人は駅の近くにあるベンチにしょぼんと2人並んで座って時間を潰すのだった。あぁ、なんて情けない2人であろう。

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