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第58話 (49)乾いた花-1

「ハナさんですよねー??」


「ゔぅ??」


 ゾンビとなって漂っていたハナに怪しい男が近づいてくる。その手にはカメラを持っていて、ハナの方にレンズを向けている。


「この画像見て下さいよー。これこれ。」


 男が手にしたスマホをひらひらとさせて、ゾンビに見せつける。スマホの画面には、チョウチョとカッピーが映っており、その後ろにハナの姿が小さく映っていた。


ーー?!


 ハナの心臓がドクンっと跳ねる。この男は何を言おうとしてるのだろう。この画像が当時を知る人たちの間で少し話題になっていることはハナも知っていた。しかし、パークに来てまでそれを見せつけるような輩がいるとは考えもしていなかった。


「差がつきましたねー。かたやテレビで活躍するタレント、かたや地方のテーマパークでゾンビとして漂うって。明暗別れたなー。」


 スマホのカメラを向けながら、ニヤニヤと話す男。ハナは一瞬で理解した。こいつと関わってはいけない。早くこの場を離れなければいけない。耳障りな言葉を浴びせられながら、ハナはゾンビのていを崩さずにその場を離れようとする。ハナは体は冷たくなり、ひんやりとした汗が体を伝うのを感じていた。


「オーディションで最後のダンス、何でミスしちゃったんですかー?」


「あれがなかったら、Rainで踊ってるのはチョウチョじゃなくて貴方だったのに。一生後悔してもしきれないですよね〜。」


 逃げても逃げても追ってくる男。周囲の様子を見るが、スタッフも見当たらない。嫌な状況に視界がぐにゃあと曲がっていくのを感じていた。ブザーを鳴らそうか、という考えが頭をよぎる。迷惑な客や非常事態の際、スタッフを呼べるようにゾンビ達には非常ブザーが渡されている。小学生が持っている防犯ブザーのようなものである。しかし、ハナは出来るなら鳴らしたくないと考えていた。それは、他のお客さんのゾンビの世界に没入している気分を害したくないと考えているからであった。


「チョウチョさんが不倫のニュース嬉しいですかー?ザマアミロって感じ?ははっ!」


「もしかしてこのスキャンダルリークしたのも、ハナさんだったり?ずっと憎んでたり?平家物語?なんつってー!あは!あは!あははは!」


ぴゅりりりりりりりりりり!!


 死ぬほど寒い男のギャグとしつこさに我慢の限界を迎えたハナはポケットの非常ブザーを鳴らした。変な男に絡まれるストレスで朦朧としつつ、やっとの思いで堪えてその場に立ち尽くしていた。


〜〜〜


ぴゅりりりりりりりりりり!!


ーー何だ?!


 ゾンビの非常ブザーの音が鳴っている。ビッグボスは辺りを見回し、すぐに音の出処を探った。非常ブザーが鳴るのはそんなに珍しい事ではない。初めてゾンビナイトに来た外国のお客様がゾンビに手を出してしまったり、テンションの上がった学生がゾンビと肩を組んで写真を撮ろうとしたり。ゾンビ絡みの事件は後を絶たない。しかし、その日ビッグボスは何だか嫌な予感がしていた。


 すぐに音が鳴っている辺りに辿り着いた。そして、ブザーを鳴らしたゾンビは人混みに囲まれていた。


「すいませーん。ちょっと通して下さーい。」


 人混みをかき分けて、その中心に辿り着く。そこには顔を伏して、座り込んでしまっているハナがいた。異変を感じて、ハナに近づいて肩を貸すビッグボス。立ち上がったハナがとある男を指差しながら、ビッグボスの耳元で囁く。


「あの人が、迷惑行為をーー。」


 その言葉を聞ききる前に、その男に向かってビッグボスは叫んだ。


「お客様、少し来てもらえますか?」


 キッとその男を睨むビッグボス。こちらの方にスマホを構えていたその男は、その言葉にとても動揺しているようだった。


「あっえっ、僕、、。その。違うんです!」


 何やら言葉にならない言葉を残し、その人混みから去ろうとする男。しかし、逃げられない!


「おい、待てよ。さっきから少し聞いてたぞ。そのゾンビになんか変なこと言って動画撮ってただろ。」


 人混みの中にいるお客様が、迷惑男の腕を掴む。迷惑男は振り払おうとするが、力が強いらしく振り払えない。


「私も見てました。その人、ずっとそのゾンビさんに付き纏ってました。」


 周りのお客様が口々に迷惑男の行為を話し始める。その間にも往生際の悪い迷惑男は、叫びながら暴れていた。その様は罠にかかった鼠のようだった。


「ぐっ。なんだよ!離せよ!僕、ちがう!違うんだよ!くそぉ!!」


「とりあえず一緒に事務所の方に来てもらえますでしょうか?」


 取り押さえられた男にビッグボスが話しかける。迷惑男は観念したのか、静かになり俯いていた。


「な、何事でしょうか?!」


 騒動を聞きつけて、やってきたタテノくん。走ってきたのか、顔は汗だくになっていた。スタッフが走っちゃダメだろうとビッグボスは一瞬怒りかけたが、早く助けが来てくれたということへの感謝の念がそれを塗りつぶした。


「タテノくん。その取り押さえられてるお客様に事務所に来て頂くから、連れて行ってもらえる?」


「え?!何が起こったんですか?」


「それをこれから確認するから、とにかく一緒に連れてきてくれるかな?」


「あ、はい。わかりました!」


 取り押さえた迷惑男を受け取るタテノくん。協力してくれたお客様に感謝と謝罪をしつつ、ゾンビがいつも出てくる門の方角へと歩き出すのだった。しかし、そこへ向かう途中迷惑男が再び暴れ出したのだった。


「やめろぉおお。くそぉおお。」


「う、うわぁ〜。な、なんだぁ〜。」


 情けない声を出すタテノくん。ヒョロヒョロとしたタテノくんの拘束は簡単に解けてしまったようで、迷惑男はシュタタタと逃げ出してしまった。


「う〜、痛いよ〜。」


「う〜、痛いよ〜。じゃなくて、タテノくん早く追いかけて。」


「ふ、ふぁい!!」


 返事をして、すぐに男を追いかけるタテノくん。その間に体調の悪そうなハナを休憩室へと運ぶビッグボス。タテノくんはちゃんと迷惑男を捕まえられているだろうか。情けない子だけど、ああ見えてしっかりしている男だから、大丈夫だろう。


 しかし、そんなビッグボスの期待も虚しく、しばらくして逃げられちゃいました〜と情けない声を出して帰ってくるタテノくんを休憩室にて迎えることになるのだった。

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