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第54話 (46)バタフライ

「っ…!!ふざけるな!!そんな事しなくても私は勝てるっ!!」


「念には念をって事だよ。どちらにしても勝てるのならば、より勝てる方法を取ったっていいだろう?」


「…。何よ、それ!」


バァァン!


 チョウチョは苛立ちを隠さずに部屋のドアを閉めた。それ程に耐え難い話をされた。廊下を歩きながら、先程の男の言葉が頭でリフレインされる。


『明日のオーディション、ダンスの課題動画はこれになるから。君は前にも踊ったことがあるから、完璧に踊れるだろう?そして、対戦相手にはこっちの別の課題動画を見せる。こっちは最後の振り付けが違うから、もし完璧に踊ったとしても落選間違いなしってわけさ。』


ーー馬鹿にするな!


 そんな狡い事をしてまで合格したくない。そんな事しなくて結構だ。


『もう合格者はチョウチョって台本に書いてあるんだ。それにこれからのRainでの売り出し方も事務所で考えている。君は明日のオーディションで、踊り慣れているダンスをさも初めて踊るかのように踊ればいいだけなんだ。それに、お母様も君の合格を後押しされている。期待に応えろよ、チョウチョ君。』


 “お母様の後押し”という先程の男の言葉が脳裏にチラつく。ママも余計なことをするものね。ママは今や大女優と呼ばれてはいるが、出自はアイドルでリリースした曲も当時軒並みヒットを飛ばしていたらしい。Rainの偉いスタッフ達も当時からずっと懇意にしていたらしい。その事もあって、私のことを今回のオーディションで絶対合格させるように話を通したと言う。そんな事しなくても、オーディションに合格できる自信があった。


ーーそう、ハナのダンスを見るまでは。


 オーディションでトーナメントに参加することになった32名が一堂に会した時に、それぞれがダンスを踊る機会があった。その時にハナのダンスを初めて見たが、一目で『レベルが違う』と感じてしまった。ダンスの技術や技の多さだけでない、ダンサーとしての“華”が段違いだった。この子とだけはトーナメントで当たりたくないなと思っていた。なので、トーナメントで一緒の山になった際は少し諦めもした。しかし、勝ち上がっていくに連れて、やっぱり勝ちたい、Rainで踊りたいと欲が増してきた。


 そんな中、オーディションを統括するプロデューサーからのあの言葉。ここまで勝ち上がった事にママの二世と言う忖度があるのではないか、と言う疑念を拭いきれずプロデューサーに確認しに行った。案の定、それはあった。ここまでのトーナメントも自分の得意ジャンルが多いような気はしていた。そこまで気を使われているとは思わなかった。


ーーしかし。この計らいなしでハナに勝てる気がしない。


 ズルをしてまで勝ちたくないと言う思いとRainのオーディションに合格したいと言う思い。チョウチョはその間でパタパタと羽ばたいて揺れるのだった。


〜〜〜


「どうしてこのタイミングで彼女にこの話を?」


「次の対戦相手のハナはダンスの実力は相当のものだろう?言っておかないと勝てないと思ったんだよ。」


 先程チョウチョが扉を豪快に閉めて出ていって部屋でプロデューサーとその部下の男が話している。


「そんな事するなら、ハナとチョウチョのトーナメントの山を離せば良かったのに。どうして一緒にしちゃったんですか?」


「くじ引きで決めちゃったからねぇ。」


 プロデューサーはバツが悪そうに首筋の後ろを掻きながら答えた。すかさず部下は追求する。


「だから!そのくじ引きでも何でも!細工すれば良かったじゃないですか!何を馬鹿正直にくじ引きやっちゃってるんですか!正直ハナを落とすのは勿体無いと思います。」


「ごめんごめん、だってさー!」


「だって、何ですか?」


「だって、くじ引きでランダムに決めた方が盛り上がるでしょ!こことここが当たっちゃうのかーとか、私だって盛り上がりたかったんだよ!出来れば別の山になってくれー!って私も願ってたんだよ!」


 このプロデューサーは何を言ってるんだと思いつつ、部下はため息をついた。こんな運営でこのグループは大丈夫なのだろうか、Rainの今後を案じて頭を抱えるだけだった。


〜〜〜


『審査員の全員の札に、チョウチョの名前!よって、合格者はチョウチョ〜!!』


ーー勝った。


 私は弱い女だった。結局言われた通りにダンスを踊り、そのまま勝利した。誰かが書いてくれた筋書き通りの道を右足、左足と指示の通りに出して進むことを選んだのだ。対戦相手のハナの方は見れなかった。彼女はこの勝負についてどう思っているのだろう。オーディションの動画も一度も見返していない。


 時々今でも考える。彼女、ハナはどこで何をしているのだろうか。あの時の私の選択は間違っていただろうか。あの時強くなれなかった私は、今もあの時と同じく弱いままのような気がした。

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