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第52話 (44)ダンサー-2

ーーあーこの感覚久しぶりだなぁ。


 ハナは踊りながらそんなことを考えていた。初めてのショーにも関わらず、ステージの上の誰よりも慣れた雰囲気でダンスを踊り、ショーの主役のナイトベアーとも上手に連携をとっていた。


 ナイトベアーのショーが行われるステージは凸の字型になっており、花道のようなものがある。ハナはそのステージを30分のショーの中で、目まぐるしく動き回る役目なのだ。なので、動線や順路を間違えてしまうと他のダンサーとぶつかったり、背面のモニターに映る映像と齟齬が生まれてしまう。簡単に言うと非常に難しいのだ。


 しかし、ハナはその難しい立ち回りを完璧にこなしていた。他のダンサーも心の中で少しだけ『いつもよりやりやすいかもしれない。』と思ってしまっていた。それ程までにハナのパフォーマンスは安定していたのだ。


ーー身体が勝手に動く。考えるよりも先にどんどんと。


 脳にインプットした動きを身体でなぞっていく。2Dの動画で見ただけであるが、ハナはそれを脳内で自動的に3Dに変換し、理解していた。天性の才能なのか、努力の賜物であるか。それはハナ本人のみぞ知ることである。そんなダンスを踊りながら、ハナはこの状況を楽しんでいた。


ーーこのショーへの参加は言わばハプニング。不意の出来事だけど、そういうのがなんというか、“滾る”瞬間なんだよね〜。


 そして、問題のソロパートへと傾れ込んでゆく。ハナのソロダンスにより、ナイトベアーにエネルギーが溜まり、ナイトベアーのテンションがマックスとなり、高位の存在となったナイトエンペラーナイトベアーによるハイテンションダンスタイムへと流れていくのだ。何を言ってるかわからないかもしれないが、とにかくすごいダンスをハナがソロで踊り、盛り上がるというパートである。


 音楽に合わせて、体を動かす。ダンスなんてそれだけである。と、ハナは考えている。BPMに合わせて緩急をつけて、ステップを鳴らして行く。ポップコーンステップ、時には流行りのランニングマンでおどけて見せたり、華のあるダンスを踊る。他にも弓を引くような動きのブルックリンなど様々な動きを混ぜつつ、観客の興味を引いていった。


ーーあー私今最高に楽しい。


 そうしてハナのソロパートは大盛り上がりで終わる。ナイトエンペラーナイトベアーとなったナイトベアーが、パワーを放出しステージの演出も熱を帯びて行く。ショーはクライマックスに向かっていった。そして、観客達の目もハナに釘付けになってしまっていた。今日のステージの中でハナのダンスには圧倒的な“華”があった。ショーの本来の主役であるナイトベアーを霞ませる程に。ナイトエンペラーにまでなったのにも関わらず。可哀想なナイトベアーくん。


ーー最後の決めポーズっ!


 花道の先端に向かい、ハナを始めとしたダンサー全員がナイトベアーの周りに集まり、それぞれポーズをとる、はずだったのだが。


 ハナはナイトベアーの前にぐいっと出て、ナイトベアーを遮るように仁王立ちのポーズをとった。その様はまるで力強く立ち往生する弁慶のようであった。


ーーちょっとハナ!何やってるのよ!


 ショーを見ているビッグボスが思ったが、時すでに遅し。ナイトベアーの前にドカドカとハナが立ったまま、最後のナイトベアーのセリフがステージに鳴り響くのだった。


『貴様らも踊る阿呆にならNight〜!』


 ナイトエンペラーのナイトベアーよりもよっぽどナイトエンペラーなハナに全員の目線が集まる。そして一瞬の静寂があった後、拍手と歓声がステージに向けられた。


「あの女性ダンサーかっこいいー!」


「きゃー!!」


「ふぅー!!」


「いつもはストリートにいるゾンビのハナが、セントラルのショーに?!なぜ?!」


ーーやってしまった。


 ハナは拍手を受けながらそう思っていた。テンションが上がって、つい前に出てしまった。背後にはナイトベアーがいる。ステージから観客席の後ろの方を見ると、ビッグボスがこちらを睨んでいるのが見えた。


ーーあーあ。また怒られちゃうかも。


 逃げるようにナイトベアーと共にステージ裏に帰っていく中、なんとも言えない達成感とテンションが上がり過ぎてしまったことへの後悔の念が、ハナの頭の中でぐるぐると回っていた。そして、蓋をしていた記憶がちらりとハナの頭の中に浮かんでしまった。それは、ダンス後のハナの熱を急速に奪っていった。身体に余計な力が入って強張ってしまう。


ーー嫌なこと思い出しちゃったな。


 ハナはかつてのチョウチョとの間にあった出来事を思い出していた。今のハナにとってはかすり傷のような、深く肉を抉られたような、もはやどちらだったのかわからないようなことであった。

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