第51話 (43)ダンサー-1
「お願い!!」
「うーん、どうしよっかなー。」
ハナさんに向かって、必死に頭を下げるビッグボス。一体何が起こっているというのか。話は数時間前に遡る。
〜〜〜
「うん、わかった。はい。気をつけてね、ゆっくり休んでちょうだい。はい、はーい。」
プツッ。
かかってきた電話を切って、スマートフォン机の上に置くビッグボス。その画面は相変わらずひび割れており、機種変更に出かける暇もないという事を物語っていた。
ーーどうしよう。
ビッグボスの脳はぐるぐると思考を巡らしていた。先ほどの電話はショーのダンサーからのものである。発熱して体調不良なので行けませんという事だった。
それ自体は仕方のない事である。このご時世、急な体調不良はつきものである。しかし、このショーについては欠員が出ては困るのだ。ショーの構成上、どうしてもこの1人が抜けると成立しないゾーンが生まれてしまう。急いで、そのショーに出るメンバーに欠員を伝える。
「〜というわけで、何とか彼女のソロパートをカバーできないかなって思ってるんだけど…。」
「ビッグボスさんの言うこともわかるんですけど、ちょっとここは無理ですね。僕たちはステージサイドで手一杯ですよ。何とかカバーしたい気持ちはあるんですが、申し訳ないです。」
「だよねー。何とか代役を立てられないか、調整してみるよ。」
「結構難しい役割なので、下手な代役よりは出ないほうがいいかもしれないですよ?」
「うん、大丈夫。心当たりがあって、ハナに頼めば何とかしてくれないかなってて思ってて。」
ハナ、と言う名前を聞いてその場にいる全員が納得した表情を浮かべた。
「ハナさんなら出来るでしょうね!わかりました!吉報を待ってます!それまで欠員でもショーが成立するようにちょっと僕らも話し合ってみますね。」
「ありがとう!」
そのまま、まだ出勤途中であるハナにショーの代打をお願いできないか連絡を入れる。すぐに既読がつき、ハナからの返信が返ってくる。
『面倒だからしたくないにゃー!』
ーーふざけてる場合じゃないのよ!急いでもう一度返信をする。
『ふざけてないで、お願い!ハナにしか頼めないのよ!』
『眠たくなってきちゃったにゃー』
駄目だ。ハナは埒が開かない。他のダンサーに当たってみるか。
「ごめんなさい!流石に今からは無理です!あそこの振り付け難しいし、あと2時間弱では完璧に出来ないですよ。」
「完璧じゃなくても良いからやってほしいの!きっと皆もサポートしてくれるし。」
「うーん。やっぱり嫌です!出来ないです!本当にごめんなさい!」
ーーという感じです、何人かに当たったが断られてしまった。何となくは踊れるかもしれないが、ミスはしてしまうだろうということだった。更に言うと、そのミスが撮影されて拡散されてしまうのが嫌だということだった。最近話題のリュウを始めとした人達は、ショーのハプニングやダンサーのミスなどを嬉々として拡散するのである。そういった動画は再生回数が稼げるらしい。そのため、『このダンサー、ダンスミスってて草www』、『奇跡的なミスでハプニング続出ww』などと言って揚げ足取りのようにミスを吊し上げられてしまう。今回のショーは難易度も高く、注目度も高い。いつもと違うダンサーが出てきた際に、そう言った層に変に注目されてしまう可能性は否めない。
ーーはぁ、困った。
〜〜〜
「〜と言うことなの!ハナしかいないの!お願い!」
「やだねー!めんどくさいにゃーー!」
ぷっぷくぷーと言いながら、手をヒラヒラさせながら口を尖らせて挑発してくるハナ。緊急事態でなければ体中から殺意という殺意が湧いて、ハナを捻り潰しているところだが、今は我慢である。その後もハナに必死に頭を下げては、はぐらかされる時間がしばらく続いた。もう無理かと思った瞬間、ハナが突然私の方に手を置き、参ったよと言いながら話し始めた。
「そこまで頼むなら、やってあげても良いよ。でも、一つ条件があるわさ!ふふーん!」
「え?!本当に??」
唐突に許諾するハナ。驚いている私にハナは耳元でコソコソと話す。
「ゴニョゴニョゴニョ。」
「バカね!そのくらい良いわよ!」
「約束だからねー!」
ハナからの条件を飲み込み、無事代役に据えることが成功した。急いでショーのメンバーやスタッフに代役が決まった事を連絡した。
「今衣装やメイク用意してもらうから、すぐ来てもらえる?このタブレットに振り付けや動きの動画入ってるから練習お願いできる?」
「りょーかい!あっ、タブレットはいらないよー。」
「タブレットは要らない?」
「うん。出勤の間にショーの動画はざっと見てきたから、もう完璧に踊れるよ。いやー調べればすぐ出てくるから、良い時代になったねぇ〜。」
「本当に?!流石ハナね。じゃあメイクルームに行って、お願い!衣装のサイズ合わせも!」
「はいよ〜。」
ビッグボスの言葉を背中越しに聞きながら、ひょうひょうとメイクルームに向かうハナであった。その様はこれぞプロのダンサーと言った具合であった。
〜〜〜
「聞きました?」
「う、うん。聞いたし、見たよ。」
「いやーすごいっすねぇ〜。」
物陰に隠れて、ビッグボスとハナのやりとりを見ていた2人が話す。
「まさかビッグボスがハナさんに頭を下げるところを見られるなんてね。」
「え?!オラフさん、そこですか?!」
「え?!カッピーはそこじゃないの??」
「僕はショーの動画をさっと見たから完璧に踊れるってところでした…。」
オラフさんと着眼点が違ったことに驚くカッピー。
「そ、そこか。僕はハナさんとの付き合いがカッピーよりは長いから、そこは知ってたんだよね。ハナさんはプロのダンサーだからね。そのくらいはできるんだよ。」
ーープロのダンサーならそのくらい出来る?!
カッピーは内心驚いたが、そんなことは当たり前であると言った感じでオラフさんが話すため追求できなかった。プロのダンサーのレベルの高さを感じつつ、カッピーはオラフさんの話を続けて聞く。
「それよりも、ビッグボスがハナさんに頭を下げるなんてレア中のレアだよ!ハナさんが怒るビッグボスに頭を下げることはあっても…。」
興奮した様子のオラフさんは何やらずっと話しているが、カッピーは頭の中で後で初めて見たダンスを一回動画見ただけで踊れるのか試してみようと考えており、全くオラフさんの話を聞いていないのであった。
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