第46話 (38)ghost-2
俺はドリームビリーバーのココロ。スターを夢見る踊り人。スターになるという夢を叶えるために日々踊る男だ。夢は見るものではなく叶えるもの、と日々胸に言葉を刻み生きている。
俺には最近お気に入りのダンスの練習場所がある。それは俺の働いているテーマパークのレストランだ。湖の横にあるそのレストランはガラス張りになっている。ガラス張りの場所はダンサーにとっては格好の練習場所である。ガラスが鏡のようになり、写った自分のダンス姿を見て練習できるからだ。こう言った場所はなかなかないので、本当に助かる。それに、ここは静かで波の音が聞こえるのみ。練習していて気持ちが良い。
柵を乗り越え、レストランのデッキへと到着する。さあ、練習を始めようか。新曲のフリを早くマスターしなければいけない。今回の振り付けには自信がある。特に最後のソロダンスパートをかっこよく決めてモテたい。あーモテたい。チヤホヤされたい。その為にもダンスを完全に習得しなければ。
目を閉じて集中力を研ぎ澄ます。耳につけたイヤホンからはチッチッとクリック音が鳴っている。このリズムをまず体に叩き込むことだ。
目をパッと開く俺。まずは両手を上げるフリからだ。そして、右足を横に出す。そして、緩急をつけて体の重心を右から左へ。そこでガラス張りに映った自分の姿に違和感を感じる。
ーーガラスに映った自分が動いていない?
ガラスに映った自分は棒立ちのまま、こちらをじっと見ている。正確には、反射して映っている影もあるのだが、それが分裂して動いていない影もある。そんなバカな。まさか噂に聞く幽霊だろうか?ガラスの方に近づいて、目を凝らして覗いてみる。
「何やってるの!!あなた!!」
その大声と共に影がガラスを叩き、バン!という音が鳴る。
「うわぁぁあ!!!」
俺は思わず大声をだして、驚いた。あまりの驚きに腰を抜かして、その場にへたり込んでしまった。
〜〜〜
「かくかくしかじかで、ごめんなさい!」
「そういうことだったのか。」
座り込んでいたココロくん扮するゾンビが立ち上がって2人に頭を下げる。
「ココロくん、ごめんね〜。そんなに驚くとは思ってなくて。ずっと、おーいって言ってたんだけど。聞こえてなかったみたいだから、大きい声を出しちゃったのよ。」
「何もガラスを叩くことないのに。ガラスがブロークンしちゃったらどーするんだよー。」
「すいません…。こちらを睨みながら、近づいて来るので舐めてんのかコイツと思っちゃって。気付いた上で煽って来てるのかと…。」
「そ、そんなわけないじゃないですか!」
「はは!なにこれ!おもしれー!」
三人の様子を見て、ゲラゲラと作業員の男が笑う。ジョージはそんな男の様子を気にしているが、他の二人は気にならないようであった。
「結局、お化け騒ぎの原因はココロくんだったってことね。」
「全くお騒がせボーイだよー。」
「ごめんなさい。でも、開演時間には練習してない気がするんですけどねー。」
そう言いながら、頭をぽりぽりと掻くココロくん。
「あなたのことだから、時間勘違いして練習しちゃったんじゃないの??ピンポイントでここで目撃されてるんだから、あなたに間違いないわ。ここでの練習は禁止ね。」
「そんなー。じゃあどこで練習したらいいんですかー。」
「そもそもこんな立ち入り禁止の場所で練習しちゃダメでしょ!」
「オーケイ!僕にアイデアがあるよー。ショーの練習とかで使ってるパークの練習室を、空いてる時間に貸し出せるように調整するよー。」
「え?!マジっすか??あの鏡張りの部屋ですか?!」
「使ってない時間もったいないし、検討してみるよー。」
喜ぶココロくんと事件が解決して安心するジョージとビッグボスであった。ジョージが付き合わせてごめんねーと作業員の男に声をかけようとすると、男はいつの間にかいなくなっているようだった。
「…?まぁ、いっか!これにて“一件ラクタク”ですね!」
「上司さん…。一件落着ね。」
「そ、そうかそうか。ソーリーソーリー。」
〜〜〜
後日、騒動が一件落着し、ジョージは練習室の貸し出しについての資料をまとめていた。事務作業に疲れたジョージは閉園後のパークを散歩するのだった。
そして、お化け騒動のあったベイサイドエリアに到着し、先日と同じ場所で作業をしているスタッフが目に入った。しかし、先日とは違い明るくライトで照らされた場所には、若い男ではなく40代程の別の男性スタッフが塗装の作業をしていた。この前いた男は休みなのだろうか?
「もしもし!作業中ソーリー!」
「あっ、ジョージさんお疲れ様でーす。」
「ここにいる若い男の子は今日休み?」
ジョージの質問に男は首を傾げる。
「若い男の子??そんなのいませんよ。」
「え?」
ーーいませんよ、とはどういうことだろう。もしかして辞めてしまったのか?
「いやいや、辞めたんじゃなくて。この辺のエリアで深夜作業するスタッフに若い男なんていませんよ。男だと30代の僕が一番若いくらいです!」
40代かと思ったら30代だったのか。年齢の目算を誤ったことに申し訳なさを感じつつ、それにしても老けて見えるなとジョージは思っていた。
「えぇ?!じゃあ昨日ここで話した男の子は別のスタッフなのかな?作業道具も置いてあったんだけどなぁ?」
「昨日、確かにここでも作業して道具ここに置いてましたけど、向こうの橋の作業も並行してやってたんで、私はほとんどそっちにいましたよ。」
「あっ、えっ、えっ??」
混乱して言葉が出てこないジョージ。では、昨日の男は?気さくなあの男の子は誰だったのだろう。
「何か夢か幻覚でも見たんじゃないっすか!はは!」
ちょっと今日は作業急ぐんで、と言って男性は作業に戻った。ジョージは恐ろしい気分になり、寒気がしていた。昨日話した彼は誰だったのだろう。まさか、お化け?ゴースト?いやいや、お化け騒動は解決した。パークにお化けゾンビはいない。あれはココロくんだったはずだ。でも今にして思うと、昨日話した彼の格好は、この男性の格好とは異なる格好のようだ。塗装の作業員ではないのか。じゃあ、一体彼は何なのか。
あまりの変な出来事に頭を抱えるジョージ。そういえば昨日のあの男は名札もつけていなかった。僕にも敬語じゃなかったし、一応僕はパークでは結構偉い方なのだから普通の日本人なら敬語で話して来るはずなのに。気さくなのは嬉しかったんだけど、なんだったんだろう。
気づけばジョージの足は先日騒動のあったレストランへと伸びていた。デッキに立ち、ガラス張りに映る自分の姿をなんとなく眺めていた。
「あっ、昨日のおじさんだー!」
「ん?」
聞き覚えのする声がして振り返ると、そこには昨日の男の子が立っていた。昨日と同じ格好で。
「嬉しいなー!今日も来てくれたんだね!」
「あっ!ユー!探してたんだよ!君は一体…。」
「いやー、やっぱりおじさん以外には話しかけてもダメみたいでさー。」
「?」
なんだか心臓がバクバクしてくる。おじさん以外に話しかけてもダメ?
「お、おじさんじゃなくて、ジョージだよ…。」
「そうだったね、ごめんごめん!でも、人と話すの久しぶりだから本当に嬉しくてさ!」
人と話すのが久しぶり?おじさん以外に話しかけてもダメ?人と話すのが久しぶり?
「ど、どういうこと…かな?」
ジョージは嫌な予感がして、冷や汗をかいていた。おじさん以外に話しかけてもダメ?話すのが久しぶり?どういうミーニングですか?その二つのワードが頭の中をぐるぐる回る。
「いやー俺実は幽霊でさぁ。死んでから他人と会話するのおじさんが初めてなんだよね。」
えへへーと言いながら話す男。男の衝撃のカミングアウトにジョージはショックと恐怖でフラフラとし始めていた。よく見ると男の子の足元に足はなく、ホログラムの如く半透明になっている。全くもってホーリーシットであった。
「俺、生きてる時の記憶がなくて。色々漂ってたら、この辺に居ついちゃっててさー。ここ人がいつも多くて退屈しないじゃん?そしたら…。あれ?おじさん?大丈夫?おーい??」
遠のく意識の中で男の子の声が微かに聞こえる。この子、幽霊だったってこと?オーマイガー。恐ろしい国だ、なんてことだ。助けてビッグボース、僕怖いよー。てか、おじさんじゃなくてジョージだよ…。
〜〜〜
「あーあ、おじさん倒れちゃった。驚かせるつもりなかったのに、申し訳ないことしたなぁ。」
幽霊の男は、ジョージへの謝罪の気持ちを抱えながら、空をゆらゆらと漂っていた。彼は自分の体を上手くコントロールすることができず、時々ふっと空高く体が浮いてしまうのだ。高く、と言ってもそこまで高くはなく、5〜10メートルぐらいだろうか。しかし、高所恐怖症の彼にとっては充分恐怖を感じる高さである。
ジョージが先日彼が突然消えたと思っていた時も、実は頭上数メートルの位置に彼は存在していたということである。しかし、彼は高所の恐怖のためか浮いている間は声が出せないのだった。
今彼は再び高く浮いてはいるが、いつものような恐怖心は少し薄れていた。それはジョージという話し相手を見つけたことによる安心感からなのかもしれない。体が地面から離れ浮くたびに「あぁ、自分はこのまま空高く浮かび上がって消えてしまうのかもしれない」という思いを胸に抱いて目をギュッと瞑っていた。しかし、今はもう目を開いて、気を失いデッキに横たわるジョージを眺めている。
「次会えたら驚かせないように話しかけなきゃなぁ!何ていったって唯一の話し相手だし。」
自分がなぜ幽霊になったのかも、自分の名前もわからないその幽霊は初めて出来た友達を眺めて次会った時に何を話そうかと考えを巡らすのであった。
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