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第44話 (36)続・デイちゃんの1日

「デイちゃ〜ん。この前はありがと〜う。」


「もじゃちゃ〜ん!上げてた写真見たよ!カッコよかったね!」


 いつものようにパーク内のカフェテラスで一息ついていたデイちゃんの元に、もじゃがやってきて元気よく話しかけていた。デイちゃんは、手にしていたコーヒーカップをコトリとテーブルの上に置き、ナプキンで口元をサッと拭いた。そして、空いている席に座るように促す。ありがとうと言ったもじゃはデイちゃんの正面の席に腰掛けるのであった。


「うーん。なんかカッコいいってわけではないんだけど、何となく推せるんだよねー。」


ーーカッコいいと言うわけではないけど推せるのか。今の若者の価値観はよく分からないな、とデイちゃんは思ったが、適当にそうだよねーわかるーと返事をしてしまっていた。若くみられたくて、若者の価値観に同調してしまうのは自分の悪い癖だと自覚していた。


「まぁ、デイちゃんには分からないかー。」


「ギクリ。そ、そうだね。」


 適当に同調していたのが、もじゃにバレバレだったことに赤面する私。気まずい空気がコーヒーカップを私の口へとはこばせる。そして、慌てて話を逸らすのであった。


「そういえば、あのダンサーさん『カッピー』って呼ばれてるらしいよ!知り合いに聞いたんだけどね。」


「あっ、そうらしいですね!私も昨日知りました!SNSに載せてる人がいて。変な名前ですよねー。何が由来なんだろう。」


 私も由来までは聞いてなかったなーと言った後、もじゃは今まで撮った写真を私に見せつつ、カッピーがいかに推せる存在かと言うことをすごい熱量で語ってきた。もじゃのマシンガントークの最中、私は相槌を打ちながらも眠気を感じてしまっていた。申し訳ない、もじゃ。だって物凄い一方的なんだもん。コーヒーのカフェインがなければ寝てしまっていたかもしれない。


 一通り話しきったもじゃはハッとした表情をして、私に話しかける。


「ご、ごめん!一方的に話しまくっちゃった!」


「大丈夫よー。もじゃちゃんの推しへと気持ちはすごーく伝わったから。」


「そう?良かったら、今日デイちゃんも見てみなよ!見てて楽しいよー!」


 またね〜と言って席を立つもじゃ。その後ろ姿を見送りながら、コーヒーカップに少しだけ残ったコーヒーを眺めていた。もうすっかり冷たくなってしまったなぁ。そろそろ、席を立つかと思っていると少しぽちゃりとした男性が近づいてきた。


「デ、デイちゃん…。お、お久しぶりです…。」


「あれ??リュウくん?久しぶり!」


 そこに立っていたのは動画クリエイターとして活動しているらしいリュウくんだった。そのぽちゃりとした姿を見て違和感を感じていた。


「リュウくん、もしかして太った??」


「そ、そうかな。シャクレさんに良いもの食べさせてもらってるからかな。」


 何年も前にパークに通い出した頃は、素朴な男の子だったことを思い出す。あれから随分経ってこの人も変わってしまったなぁ。汚れたパーカーを着ているリュウくんを見て時の流れを感じていた。


「デ、デイちゃんさぁ〜。最近人気のゾンビ知らない?」


 毛玉だらけのニット帽をくいっと眉の上に上げて、リュウくんはそう問いかけてきた。そんなこと聞かれるなんて珍しい。


「人気のダンサーかー。私はあんまりそう言うことに詳しくないからなー。」


「いやー、最近動画の伸び悪くてさ、なんか良いネタねぇかなーって思って聞いてみただけ。」


 そう言うと、リュウくんは向かいの席にどかっと音を立てて座った。そして、持ち込んだと思われる炭酸飲料のペットボトルを大きいリュックから取り出し喉を鳴らしてごくごくと飲み出した。


 リュウくんは動画投稿をしだしてから少し変わってしまったように感じる。昔はパークを純粋に楽しむ男の子だったが、現在は再生回数とフォロワー数やいいねに取り憑かれたようになってしまった。色んなショーの初日に必死になって最前列に向かうリュウくんの姿を何度も見たことがある。


「あっ!そう言えば人気のゾンビいるかも!」


「えっ本当に?どのゾンビ??」


「このね、カッピーって言う子がやってる囚人ゾンビが最近人気らしいよ。推しにしてる子が増えてる見たい。」


「ふーん、そうなんだ。見た目はパッとしない感じなのに、人気なんだ。」


 見た目はパッとしないのか。私は見た時かっこいいと思ったんだけどなぁ。もじゃちゃんもあんまりカッコ良くはないと言っていたし、好みが分かれる顔なのかもしれない。


「あっ!この人この前テレビ出てた人か!お姉さんが亡くなって大変みたいなこと言ってた人だ。」


 どうやらその話はすごく有名らしい。私はその事を知らなかったが、先程もじゃちゃんが話していたので知った。この話みんな知っているのか、そのテレビ番組の視聴率はUPJオタクだけで言うと100%なのかもしれない。


「亡くなった姉の思いを背負ったゾンビの感動のダンスで号泣ってタイトルでショート動画にすればバズるかもな…。」


 何やらぶつぶつと呟いて考え事をしているリュウくんを見ながら、私はすっかり冷たくなったコーヒーをぐいっと飲み干した。


「じゃあ、私はそろそろ行こうかな。」


「あっ、俺ももう行くわ。ありがとね、デイちゃん!また!」


 そう言って立ち上がったリュウくんは、立ち上がって椅子をガガガガという音を立てて、乱暴にテーブルの下の位置に戻した。そして、大きなリュックをガシャガシャとした音を立てて背負ってどこかへと向かっていった。


ーーあの大きい荷物何が入っているのかしら。


 遠ざかってゆく年季の入っていそうな汚れたリュックを見ながらそんな事を考えていた。


 空っぽになったコーヒーカップが載ったトレイを店員さんに渡してカフェを後にした私は、特に目的地があるわけでもなくぶらぶらとパークの中を歩いていた。ハロウィンの時期でも、ゾンビナイトが始まっていない昼過ぎのこの時間はピーク時ほどの人はおらず、平時の賑わいを見せている。しかしゾンビナイトが始まると、この賑わいは一変し、地獄の人の海と化す。この程よい賑わいを保ったまま、ゾンビナイトを開催する術はないものなのだろうか。


「わっ!!」


「う、うわぁぁああ!!!」


 背後から突然驚かされて、大きい声を出してしまう私。先程飲んだコーヒーが胃から逆流して心臓と共に飛び出してしまいそうなほど驚いてしまった。跳ね上がる心臓の音を抑えつつ振り返ると、そこにはカルーアちゃんがいた。


「ご、ごめん。そんなにびっくりするとは思わなかった…。」


「わ、私もごめんなさい。考え事をしていたものだから…つい。」


 カルーアちゃんも軽い気持ちで声をかけたのだろうに、私がびっくりしすぎたせいで気まずい時間が流れてしまった。何かこの空気を一変させる話題はないものか。頭を必死に回転させ、会話の糸口を必死に手繰り寄せる。そうだ。カッピーの話がある。カルーアちゃんがカッピーのかっこいい写真を投稿していたのを思い出す。


「きょ、今日はカッピーの写真を撮りに来たの??この前SNSにあげてた写真カッコよかったねー!本当にタケティーにそっくりだったよ!」


 違和感があるくらい早口で喋るデイちゃん。そんな彼女を見てカルーアちゃんは浮かない表情で返事をするのだった。


「そうそうあの投稿、ちょっとバズっちゃって。そのせいもあって、前に炎上した時のことをほじくり返して返信する人いてさ。私も反省してるのに、そんなことお構いなし。嫌になっちゃうよね。」


ーー気まずい。選択を誤ってしまった。そう言えばカルーアちゃんは炎上して、アカウントを作り直したんだった。まだだ、まだ取り返せるはず。


「そんな外野の言うこと無視しなさい。確かにカルーアちゃん悪いところあったけど、もう反省してるんだから。関係ない人の言葉なんか気にしないこと!」


「そうだよね。私悪いところあったよね。」


 再び落ち込むカルーアちゃん。だめだ、もう私には取り返せない。ごめんね、私が話題に乏しいばかりに変な空気にしてしまって。


「まぁ、でも気にしてないよ!ゾンビナイトの時間は限られてるんだから、落ち込んでたら秋終わっちゃうもんね!」


 そう言ったカルーアちゃんは、あっけらかんとした顔で私に笑いかけた。一瞬無理して笑っているのかとも思ったが、その笑顔はいつも通り楽しそうに笑う彼女のそれであった。


「良かった!また写真投稿してね、楽しみにしてるから!」


「ありがとうー。デイちゃんの投稿もいつも助かってるよー。」


 私がいつも何となくSNSにあげているゾンビの登場する動画。あれを見てシフトを把握する人もいるらしい。私の良い画質とはいえないあの動画も何かの役に立つんだなぁと思った。


〜〜〜


 そして夜になり、ゾンビナイトが始まる時間になった。実はデイちゃんはゾンビやお化けといった類は得意ではなく、この時間はゾンビのでないベイサイドエリアに避難することが多いのだ。この日も人混みやゾンビから離れ、ベイサイドエリアで湖を眺めていた。


 湖の横にあるレストランに目をやると、ゾンビのようなものがゆらゆらとしているのが見えた。まさか、ありえない。このエリアはゾンビが登場しないのだ。それにあのレストランも夜は営業していないので、人がいるはずはない。


ーーでは、あれは何だ?


 デイちゃんが目をよーく凝らして見ると、そこには確かにゾンビのようなお化けのようなものが暗闇の中漂っていた。


ーーえ?まさかお化け?本物の?


 暗闇のため、目を凝らしてもう一度よく見ると、こちらに気づいたのか、目が完全にあった。


ーーっ!!今目があったよね??


 そう思った瞬間、そのゾンビは横にスーッとスライドするかのように移動し、消えていったのだった。


ーー消えていったのだった、じゃなくて!じゃあ、あれは…!!


「きゃぁぁあーー!!」


 ゾンビのいないはずの夜のベイサイドエリアに女性の悲鳴が鳴り響くのだった。


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

ここまで読んで頂いて本当に嬉しいです。

このキャラのエピソードもっと読みたいなどあれば、コメントで教えて頂きたいです!

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