第43話 (35)TV Maniacs
『はい!初めは緊張しちゃいましたけど、今はすごく楽しいです!先輩方も優しくて、毎日充実してます!』
『そう話す彼。しかし、彼がダンサーを志すまでには姉との姉弟の絆が隠されていたのであった…。』
もじゃもじゃとした髪の女性はテレビの画面に釘付けになっていた。テレビにはウルパーのハロウィンイベントに密着した番組が放送されており、普段ゾンビに扮していると思われるダンサーの男の子がインタビューに答えていた。
「え、待って。泣けるんだけど。」
横にいる眼鏡をかけたおかっぱ頭の女性がネットの定型文のような言葉を呟く。しかし返事はなかった。
「うっ。うううう。」
もじゃもじゃの髪型の女性が突然声を震わせて泣き出した。
「このダンサーさん素敵すぎるよぉ。亡くなったお姉さんの分まで頑張るなんて、主人公すぎるぅう。」
「しかもこの猛練習からの合格のシーン、主人公すぎるだろ。好感しかないんだが。」
「文子もそう思うよねー!本当いいな〜、このダンサーさん。なんて名前の人なんだろう。見たこともない気がするし、どのエリアでゾンビやってるんだろう。」
もじゃの言葉を聞くよりも先に、文子はスマホで先ほどテレビに映ったダンサーのことを調べ始めていた。しかし、すぐには出てこず文子はイラつくのであった。
「ずっと思ってることなんだが、番組で特集するならゾンビの姿も放送してくれ!メイク前の姿だけでゾンビ姿の写真探すのあまりにも大変すぎて鬱。」
「やっぱり調べても出てこないかー。なら、明日ゾンビナイトに行って探すしかないね!」
「もじゃちゃんの今年の推し見つかって草。やっぱりゾンビナイトからしか得られない栄養素があって、本当に捗る。全人類これやれ。」
「ねぇww文子!まだ推し見つかってないから、明日見つけてからの話ね!」
「横転。」
〜〜〜
「全然見つからなーーい!」
「すぐ見つかるとか言ったやつ、マジで恨むんだが。」
「ごめんごめん。すぐ見つかるかなと思ったんだよー。」
翌日ゾンビナイトにやってきた2人だが、中々昨日テレビに出ていたダンサーの男の子を見つけられずにいた。
「こうなったらあの人に聞いてみるしかないね。」
「待って。あの人って誰すぎて、詰んでるんですが。」
小一時間歩き続けた2人はある人に頼ることにした。
〜〜〜
「この人探してるんだけど、ディちゃん知らなーい??全然見つからなくて!」
もじゃはデイちゃんに頼ったのであった。デイちゃんとは毎日パークに来ている女性である。エブリデイ来ているから『デイちゃん』になったらしい。あくまで噂なので本当に毎日来てるわけではないと思うのだが、私が来ている日でいなかったことは一日もないのでかなりの頻度ではパークに来ていると思われる。
「あーこの子、私は話したことないんだけどもしかしたらあのエリアにいる囚人ゾンビの子じゃないかな?今日もいるはずだよ!さっき見た気がするから。」
ーーそう言ったデイちゃんはスマホの画面を見せてくれた。画面にはゾンビ達の登場の様子が収められており、囚人ゾンビも勢いよく出てきていた。
「あー!確かに似てる!この人かも、ありがとう!見に行って見ます。」
「もうデイちゃんしか頼れない。神すぎる。バグってて最高すぎ草。」
「何言ってるのか全然わかんないけど、役に立てたなら良かった。もじゃちゃんも頑張ってねー!文子ちゃんも草!ワロタ!」
文子に合わせた言葉で喋ってくれるデイちゃん。優しい人である。しかし、あの人に聞いてわからなかったことがない。ウルパーの生き字引である。何かわからないことがあるのだろうか。
「デイちゃん、知識豊富で優しくて推せる。」
〜〜〜
「ゔぅ。ゔぉぁあ!!」
ーー見つけたっ!!近くで見ると間違いない。昨日のテレビに出てたダンサーさんだ。
デイちゃんに言われた通りのエリアへと向かうと早速お目当てのゾンビを見つけることができた。近づいていくとゾンビらしく襲いかかるそぶりを見せてきたのだった。
「生で見るとカッコよくて草生える。あの苦労人が囚人ゾンビに扮してるのあまりにも表現できすぎている。これだからゾンビナイトは永遠に推せる。」
「確かに。格好良い!これは推せちゃうかも。」
「ゔぅ?ぁぁあ!?」
私たちがオタク丸出しの会話をしてしまったためか戸惑った様子を見せるゾンビくん。そこへちょうどダンス開始のサイレンが鳴り響くのだった。
『ウォオオオーーン。ウォオオオーーン。』
ーー来たっ!タイミングよくダンスタイムだ!
昨日テレビで見た何度も挫折したけど、その度お姉さんの言葉を胸に猛練習したダンスをこれから見られるのかと思うともじゃと文子は緊張してきていた。
「すぐにダンスなの最高なんだけど。昨日のテレビ見たオタク達これ耐えられるんか?私は無理。」
〜〜〜
「カッピー、お疲れ〜。」
「はぁ〜。お疲れ様です。オラフさん。」
ゾンビナイトの仕事を終えて、休憩室で休んでいる2人。カッピーの方は不服そうな顔をして悩んでいる様子だった。
「あの、オラフさん。ちょっと聞いてもいいですか?」
「どしたの?なになに?」
「ダンスタイムあるじゃないですか?」
「何??もしかして、昨日のテレビの影響で人がすごかった?」
「人もそれなりに多かったんですけど、あのー。」
何やら口籠るカッピー。オラフさんはその様子を見て、疑問符を頭の上に浮かべていた。カッピーは何やら神妙そうな面持ちである。何か嫌なことでもあったんだろうか。
「いや、嫌とかじゃないですけど。なんか何人も僕のダンスを。な、泣きながら見てて。」
「え?!泣きながら?」
「はい。何でだと思いますか?怖くて泣いてる感じじゃないんですよ。」
「それってやっぱり…。」
オラフさんにもカッピーにも完全な心当たりがあった。それは昨日放送されたテレビのインタビューである。カッピーは姉の死を乗り越えて、ダンスの猛特訓を経てゾンビダンサーのオーディションに合格したことになっていた。
「やっぱり昨日のテレビのせいですよね?!や、やりずらい!!ダンス終わった後も拍手が鳴り止まなくて、オーケストラの演奏会の後みたいでしたよ!」
「ま、まぁ盛り上がってないよりはマシじゃない?沢山の人に見てもらえるのも注目してもらえるのも、ねぇ?」
「あのテレビでやってた感動のダンス見せてくれって空気がすごくてやりづらいですよ!くそー!!」
〜〜〜
その日の帰り道。もじゃと文子はゾンビナイトの余韻で語りまくっていた。
「19時回のダンスやばかった件。泣いた。」
「わかるー。お姉さんの思いを胸に自分のダンスを踊るんだ!って決意を感じたよね!」
「カメラへのファンサを忘れないの最高すぎた。」
「あのファンサは私にやってたよー。」
「いや私だろ(白目)」
2人は今日のゾンビの写真を見せあったり、ダンスのかっこいい動きなどを語りながら帰路についていた。そして、文子がもじゃに切り出す。
「もじゃ元気でたの良かったすぎる。」
「文子、心配かけてごめん。でも決めた!」
「もじゃが決めた世界線is何?」
「私はあのゾンビさんを今年の推しにして、ゾンビナイトに今年も通うぞー!」
「惚れた。」
去年の推しゾンビがいなくなって少し元気のなかったもじゃだが、今年の新たな推しゾンビを見つけることが出来て少し元気が出たのであった。心配していた文子もほっとして、思わず笑顔になる。
「もじゃ、さよなら。当方同担拒否気味なので。」
「もう!文子、冷たいこと言わないで!明日も行くよね。」
「当然すぎて笑う。」
仲睦まじく笑う2人。こうしてオタク2人の夜は更けていくのであった。
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