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第40話 (32)カルーアちゃん、燃ゆ-1

イライラ。


 あーイラつく。ゾンビナイトの動員が年々目に見えて増えている、それと同時に迷惑な客も増えている。これは完全に私の肌感で正確な数字などは知らないが、間違いないと思う。


 走れば危ない、ゾンビに触っちゃいけない、普通に考えればマナー違反だと分かりそうなことを平気でする輩がいる。何よりも私が許せないのは、ダンスの時に割って入ってくる奴らである。ゾンビがダンスをする時は1人のゾンビを円形で群衆が囲む形で観覧することになる。例えるなら『かごめかごめ』の要領である。異なる点は囲むのはカメラを持ったオタク達で、真ん中は鬼でなくゾンビで踊ると言うことか。しかし、最近人が増えたせいかその円形の中に無理やり割り入ってくる奴がいる。そう言う奴が来ると、途端にカメラでの撮影が難しくなる。ゾンビダンス中はシャッターチャンスの宝庫なのだ。


『ウォオオーーーン、ウォオオーーーン』


 ゾンビナイト開始のサイレンが鳴り響く。そして、ゾンビ達が門の向こうから登場する。今日はりゅうじん君がやってくる日だ。出勤してくる様子を喫茶店の窓から見ていたので間違いない。


「うぅ。ゔぉああ!」


ーーー来た!


 りゅうじん君扮する囚人ゾンビが近づいてくる。はぁ、ビジュやばすぎ。神だろ。今年の囚人ゾンビの格好はオタク心をわかっている。オレンジ色のツナギは毎年の恒例だが、所々に黒いベルトがアクセントで入っていて格好良い。そして、何より顔面である。顔面の白がかかった儚げな化粧、キレのある目、白髪長めのセンター分け!往年のヴァンパイアゾンビの要素を取り入れてきやがった!これは推せる!!


 ダンスタイムの為にりゅうじん君ゾンビを追走する。この時、付かず離れずの距離をとっておくことが大事である。ある程度ダンスの位置が決まってはいるが、その時々のオペレーションで異なる場所で踊ることもあるので目を離さないことが大事である。勝負はダンスタイム開始のサイレンが鳴った瞬間である。


『ウォオオーーーン、ウォオオーーーン』


 ダンスタイム開始のサイレンが鳴り響く!その瞬間ゾンビの周りを人々が取り囲む。中心のゾンビ周辺は半径2メートルほどはスペースがあるが、その周囲の円になった群衆はぎゅーっとおしくらまんじゅうのようになってしまっている。それにしても、今日は混雑がすごいな。後ろからどんどんと押されてしまう。耐えかねて私が声をだす。


「すいませーん。押さないで下がってもらえますかー!」


 こう言う注意はスタッフが本来なら言うべきなのだろうが、見回してもスタッフがいない。スタッフを配置しておけよ。人手不足か?しかし私の声も虚しく、混雑度は変化せず相変わらず押されたままであった。


「なになに?すごーい!」


「これダンス始まるんじゃない?」


 わけもわからず『かごめかごめ』に参加してしまった女の子達が話す声が聞こえた。オタクではなくとも何となくこの円に参加してしまうことはよくある。しかし、りゅうじん君ゾンビの円はかなりの競争率である。こいつら運がいいな。私は息をひそめ、カメラを構えていた。


 ーーりゅうじん君が踊る!あと数秒で!


 彼のダンス姿を最高のアングルで撮る。その為に今私は存在しているんだ。どんな方向を向いてダンスを踊り出しても、完璧なショットを収められるよう、ベストな角度を頭の中でイメージする。


 ついに、重低音の響く音楽とともに、りゅうじん君がダンスのモードへと切り替える。薄暗いライトの下、彼の美しい顔立ちがゾンビメイクと相まって神々しい。はぁ尊い。


「…っ!キタキタキタァ!」


 静かに撮影に集中しようと思っていたのに、感情が抑えられず、小さく興奮を漏らしてしまう。何故ならりゅうじん君の顔身体が私の真正面を向いていたからである。


ーードセンきたぁぁ!!


 ドセンとはドセンターと言うことである。円形に囲んでも、ダンスを背中側で見ることになることはよくある。なのでダンサーと正面から向き合う形になるのはとても貴重な機会なのだ。私の中に緊張感が走る。完璧なショットを撮るため、指をシャッターボタンにそっと置く。その瞬間ーー


ひょこ。


 突然、横から見知らぬおじさんがヌルリと割り込んできた。


「えっ……?」


 突如現れたのは、一眼レフを手にしたおじさんだった。どうやら、りゅうじんくんが自分の方向へ来るのを見て、急に前へ滑り込んできたらしい。そのおじさんを追うように人の波がどんどんと円の中へと割り込んでくる。


「ちょ、ちょっと!何やってんの!?」


 思わず声を上げるが、おじさん達は私の声など届いていないようで無視されてしまった。レンズを覗き込むも前のおじさんの後頭部が映るだけである。私は最前列にいたはずなのに、2列目になってしまった。なんだこれ。現実?


バシャバシャバシャ!


 カメラの連写音がむなしく響く。何枚撮っても、目の前のおじさんの後頭部がフレームに入り込む。カルーアの手が震えた。


ーーふざけるな……こんなの、許せるわけない……!!


 私は迷わずカメラの上に取り付けているスマホを動画モードにした。そして、割り込んできたおじさんの後ろ姿を撮影した。これをSNSに投稿して、「マナーの悪い客」として晒してやる。一眼レフを持っていると言うことは常連オタクだろう。常連オタクのくせにルールを破りやがって。クソ野郎が。


 りゅうじん君のダンスが進んでゆく。このままじゃいられない私は、前のおじさんの間にぐいっと割って入って何とか最前を取り戻す。そして何とかりゅうじん君のドセン姿を撮影出来た。


 ダンスタイムが終わり、それぞれが散っていく中で割り込んできたおじさんにブチ切れに行こうとしたが、するりとどこかへ逃げていってしまった。むかつくむかつくむかつく!何だあいつ!このままじゃ腹の虫がおさまらない。道の脇に移動し、スマホをいじり、そのまま怒りに任せてSNSに先程の動画を投稿する。


『これさっきのゾンビダンスの映像。急におじさんが割り込んで来て、これはありえなくない?折角りゅうじん君のドセンダンスだったのに。視界おじさんの後頭部で鬱。』


 よし。フォロワーたちが大炎上させてくれるはずだ。ザマァみろ、おじさん。


〜〜〜


 そして再び、カルーアちゃんはりゅうじん君の姿を写真に収める為ゾンビと人のひしめくエリアへと戻ってゆくのであった。その間にもカルーアちゃんの投稿は思惑とは異なる形で炎上してしまっていた。しかし、カルーアちゃんはそんな事もつい知らず、りゅうじん君のお尻を追いかけてゾンビナイトを楽しんでいるのだった。

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