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第39話 (31)オラフさんと黒い猫-4

 湖横で悲しみに打ちひしがれる男を脇目に見ながら、ビッグボスとあかねちゃんは黒猫を追いかけ走っていた。しかし、もう体力の限界だった。心臓の音はヘヴィメタルバンドのバスドラムの如くドドドドと跳ね、全身が蒸したての肉まんのようにホカホカとしてきた。お腹すいたなぁ。肉まん美味しそうだなあ。いや、そんなことを考えてる場合じゃない。


 こんなことなら日頃から鍛えておくんだった。こういう時のためにランニングくらいはしておくべきである。いや、誰がこういう時を想定出来るんだ?テーマパークで働いていて、黒猫と追いかけっこする想定をできる人間がいるだろうか。なんだか最近走ってばかりな気がする。この前は開園後にすぐ走るお客さんを追いかけて、今日は黒猫相手に追いかけっこ。なんでこんな事になってしまうんだ。こんな仕事だなんて聞いてなかった。仕事の募集要項に『黒猫と追いかけっこする楽しい会社です!』などとは書いていなかった気がする。


 追いかけられている黒猫が細い路地に入ってゆく。チャンスだ。この路地ならあかねちゃんと挟みうちにできる。私の少し後ろで走っているあかねちゃんにアイコンタクトを送る。


(あかねちゃんは、路地のあっちからお願い。)


 コクリと頷いたあかねちゃんが、体を翻して路地の反対側の出口へと向かう。黒猫め。もう逃げられないぞ。それにしても、あかねちゃんは結構体力に余裕がありそうに見えた。意外に体力があるのだろうか。流石に若いだけはある。


 路地に入ると黒猫は少しペースを落として、私から逃げていった。そして、反対側からあかねちゃんが現れるとピタリと動きが止まった。そして、黒猫も『観念しましたニャ〜』という感じでその場に座り込んだ。そろーりそろりと黒猫に近づいていく私。よし、そのまま。そのままでお願い、と祈りながら近づく。


「えいっ!!」


ーーと言う掛け声と共に黒猫に手を伸ばすと、黒猫は野生の俊敏さを見せて、スッと手の間を抜けていった。しかし、まだあかねちゃんがいる。黒猫の進路の先にはバッチこいのポーズをしたあかねちゃんが待ち構えていた。


「ねこちゃーん。怖くないからおいで〜。」


 しかし、あかねちゃんの方に向かっていた猫はUターンしてこっちへと踵を返したのであった!


「ビッグボス〜!そっちに行きました〜!」


「あっえっ?!あわあわあわ!!」


 あかねちゃんの声がしたが、急なことに対応できずあわあわとしてしまった。あわあわ状態の私の股の間を黒猫がするぅっと抜けていく。しまった。路地に追い込んで捕まえられないのなら無理だ。私は疲れもあり、ぐにゃりとその場にへたりこんだ。すると背後から男達の声がした。


「あっ、猫ちゃーん!いたいた!よしよし、良かったぁ。」


「よかった〜。ビッグボス達もいた!電話途中で切っちゃうから!」


 振り向くと、そこにはカッピーとオラフが立っていた。先程までしぶとく逃げ回っていた黒猫はオラフの腕の中でゴロゴロと鳴いて丸くなっている。


〜〜〜


「そう言うわけで、猫ちゃんに餌をあげていたのは僕だったんです。ビッグボス、本当にごめんなさい。」


「オラフ〜!パークの裏に動物がいていいわけないだろ!バカ!」


 ビッグボスがオラフさんの頭をコツンと叩く。あ痛てて、と呟くオラフさん。あかねちゃんがそんなオラフさんに近づいて、黒猫の頭を撫でながら話しかける。


「それにしてもこの猫ちゃん。オラフさんにすごく懐いてるんですね。可愛い〜。」


「な、なんか僕には初めて会った時からこんな感じなんだよね。だ、だから、人慣れしてるんだと思ってたんだけどー。」


 人慣れなど全くしてなかったことが、ビッグボスとの追いかけっこではっきりと判明してしまった。


「きっとオラフさんの優しさに猫ちゃんも気づいたんですね。おーよしよし。」


 さっき程まで追いかけまわしあってた仲とは思えない程、あかねちゃんと黒猫は戯れあっていた。僕も恐る恐る黒猫ちゃんに手を伸ばしてみる。黒猫ちゃんは僕の手を拒まず、喉元を撫でるとゴロゴロと甘えてきた。か、可愛い。


「この黒猫ちゃん、どうします?このままパークに置いておくわけにもいかないですよね?オラフさんの家はペット禁止らしいし、僕もダメなんですよね。あかねさんは厳しそうですか?」


「カッピーも厳しいのかー。私も飼いたいのは山々なんだけど、金銭的に厳しいかなぁ。家も狭いし。なので可能性があるのはーー。」


 一同の目はビッグボスへと注がれる。ビッグボスなら、家も広そうだし可能性があるかもしれない。でも、ビッグボスの家ってどんな感じなんだろう。そもそも結婚してるのか?指輪はしてないから結婚はしてないのか?彼氏と同居とかしてるのだろうか?その辺のプライベートな話は知らない。かといって、今大胆に踏み込めるような気はしない。


「わ、私の家ー?!か、飼えないことはないけど。私も猫は嫌いじゃないし、むしろ好きだけど。」


「何か不安なことがあるんですか?」


 僕の問いにビッグボスはうーんと考え込んでいた。やはり何か事情があるのだろうか。ビッグボスが口を開く。


「いや、私に懐いてくれないんじゃないかと思ってね。さっきも逃げ回ってたしさ。」


 確かに。先程まで必死に追い回してきた人間に黒猫がすぐ懐くのだろうか。少しの間預かるだけでもお願いできないでしょうか?とオラフさんがお願いする。うーんとビッグボス悩んでいると、腕の中でじーっとしていた黒猫がオラフさんの腕からピョンと飛び降り、歩いてビッグボスの足元へと向かった。


にゃ〜


 黒猫は泣きながら、ビッグボスの足に頭を擦りつけていた。可愛い。すごく可愛い。


「ほら〜、猫ちゃんもビッグボスの家行きたいんじゃないですかね?」


「た、確かに!すごく懐いてる気がします!さっき、は猫ちゃんも遊んでたつもりだったのかもしれないよね!」


 ビッグボスがそうかな〜と言いながら、黒猫を抱き上げ、猫撫で声で話しかける。


「猫ちゃん、うちでも大丈夫ー?」


にゃ〜!!


〜〜〜


「ビッグボス!じゃあ、ヨルちゃんをお願いしますね!」


「うん、あかねちゃん色々ありがとう!カッピーもありがとうね!」


 結局黒猫はビッグボスが連れて帰ることになった。黒猫をどうやって家に持って帰るのかと言う問題は、バックヤードにあった金網で出来た箱をペットケースとして使わせてもらうことになった。さすがは映画のテーマパークである。それっぽい小道具達が展示や装飾用に沢山あったのである。ラッキー。


 ちなみにヨルちゃんと言うのは先程名付けられた黒猫の名前である。ビッグボスが、「ホーリーナイトちゃん」と呼び出したのを僕達で流石に長すぎると言って、ナイト→夜→ヨルちゃんにさせたのであった。中々に良い名前になったものである。ゾンビナイト中だしね。


「じゃあ、ビッグボス。よ、よろしくお願いしますね。ほ、本当にありがとうございます。」


 オラフさんはケースの中でスフィンクスのようになっているヨルに向かって、元気でねと話しかけて手を小さく振っていた。するとヨルは『にゃ〜』と小さく鳴いてオラフさんに返事をした。


 こうして無事にUPJに巻き起こった黒猫騒動は一応の完結を迎えたのであった。これ以降、ビッグボスがヨルの可愛い自慢を頻繁にして、飽き飽きする程写真を見せてくるようになることを、この時の僕達はまだ知らなかった。

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