第27話 (21)カントクちゃん
「あーあー!何やってんだ!お前!」
「ヴゥ?ァアア!」
「ヴゥ?ァアア!じゃねーよ!そんなんでゾンビのつもり?ちゃんと勉強しろー。な?」
「ァァアア!!」
「メイクもなんだこれ。ここは映画のテーマパークじゃないのか?ちゃんと映画のクオリティのメイクしろよー。自主映画でも今日日みねぇぞ。誰だ監修は?今年から変わったのかー?担当。年々酷くなっていくなー」
「ヴゥ…」
「おい!逃げんのか!その動きなんだ?何のゾンビ映画参考にしてんだ?流石にゾンビ三部作くらいは履修してやってんだろな?当然だよな?おーい!」
面倒な客だ、と思って逃げようとするゾンビと追いかける中性的な見た目をした小柄の(恐らく)男性。若い見た目にも関わらずその話し方は酔っ払いの面倒なおじさんのようで非常に高圧的である。
(ちくしょー。何だよこいつ。ゾンビ三部作なんて見てねーよ。ダンサーなんだからさ、こっちは。)
「ヴゥ…」
「ヴゥしか言わねーな!お前!そんなんでゾンビと思ってもらえると思ってんのか?そもそもゾンビが踊るって何ーーー」
「お客様。過剰な接触をされると、パークから出て行って頂くことになりますのでおやめください」
ゾンビを執拗に追い回す男性に、ボスのようなスタッフが声をかけて注意を促す。注意された側は不服そうな顔を続け、喧嘩腰でスタッフに話しかけるのだった。
「ん?お前スタッフ?今年のゾンビちゃんと教育してんの?初年度のクオリティはすごかったなー。あれを毎年やらないと!年々ゾンビのゾンビ感が薄れて行ってるよ?そもそもさーー」
〜〜〜
「あーーー!くそーー!何なんだよ!あの女!」
「ココロさん、荒れてますねぇ。さっき追い回してきた女の人のことですか?」
「どうしてゾンビが人間に追われるんだよ!」
休憩室に帰ってきたココロさんは、入るなら椅子にドカドカと座り、イライラした様子で机に突っ伏していた。先ほどの様子を横目で眺めていたカッピーは、ココロさんを案じていた。変な客に絡まれることは正直少なくない。少なくはないのだが、先ほどの客は少しいつもと様子が違うように感じていた。
「あの女、ずーーっと横についてきて、「あーダメ。全然ゾンビじゃないよ、人間ってバレバレ」とかダメだししてきやがって!ゾンビ三部作なんて見てねーーーよ!くそ!!」
半ば発狂にも近い様子で怒り狂うココロさん。ここまでイライラするってことはよっぽど嫌なこと言われ続けたんだな、とカッピーは思っていた。どんまいです、と笑いながらココロさんの背中をさすって励ますカッピー。そこに巨漢のゾンビが近づいてくる。
「さっきのはカントクちゃんだね。有名だよ」
「カントクちゃん?さっきの女性ですか?」
「あの子、男の子だよ。確かに小柄で可愛らしい見た目してるけどね」
「男ぉ〜?!カントクちゃんってなんなんすか!迷惑すぎるっすよ!」
先ほどの客が男だったことに驚くカッピーとココロさん。確かに、ちょっとボーイッシュな雰囲気もあったけど。それでも小柄な女の子にしか見えなかった。男の娘というやつなのだろうか、初めて見た。オラフさんがスマホの画面を見せながら話を続ける。
「ほら、このアカウント。カントクちゃん。有名だよー。確か動画も投稿してるはず。かなりの映画オタクみたいで、特にゾンビ映画は好きでコスプレとか自前でゾンビメイクとかも研究してるみたい」
「あいつ、それで俺のメイクのことも色々言ってきてたのか!メイクなんて知らねーよ、くそー!!」
さらにイライラを募らせるココロさん。それにしても、ゾンビが3人でスマホの画面を見ながら普通に喋っている姿をもしカントクちゃんが見たら、さらに怒ることになるんだろうな。これの何がゾンビなんだー!と、憤慨するに違いない。
「昔はおとなしく楽しんでたんだけど、ここ数年は何か気に入らなくなったみたいで暴走気味なんだよね。SNSでもパークの批判をしてるのをよく見るよ」
「じゃあもう出禁ですね!出禁!ゾンビに危害を加えかねない勢いでしたよ?さっき!ゾンビを追う人間って何なんだよ!逃げろよ!人間はゾンビから!」
ココロさんが怒っている様子を見ながら、ふふっと笑ってしまうカッピー。ココロさんには申し訳ないが、怒っている様子を見るのはとても楽しい。
「おい!カッピー笑ってんじゃねぇよ!他人事じゃないぞ!お前も。次出る時お前に絡んでくるかもしれねぇぞ」
〜〜〜
じーーっ。
「ヴォア!ァァァア!」
じーーっ。
「カチッカチッ。ァァァア!」
ーーココロさんの言うとおりになってしまった。
休憩を終え、門を出ると、早速話題のカントクちゃんが待ち構えていた。待ってましたと言わんばかりに、先ほどからずっと僕に着いてきている。それにしてもなんで僕をじーっとみてくるんだ。というか、この人男なの?本当に?可愛いんですけど。こんなに目が合うとドキドキするんですが。とカッピーが考えていると、しばらく続けた沈黙を破りカントクちゃんが話し出した。
「お前…やるな!」
「ヴゥ?!ァアア?」
「お前は本物のゾンビだな!いいぞ!その動き。声。ゾンビ三部作ちゃんと履修してるな。その調子で励めよ」
ニコリ、と笑ったカントクちゃんはそう言うと去って行った。何だかわからないが、僕のゾンビ所作は彼の合格ラインに達したらしい。
(何でカッピーは良くて俺はダメなんだよ!くそ!)
遠くからそう叫ぶココロさんの声が聞こえてくるようだった。半ば怨念と化したココロさんの視線を左側に感じながら、カッピーはゾンビとなり彷徨くのだった。
「あ?お前さっきのゾンビじゃねーか。死んでねーんだよ。お前、な?まだ、全然ダメだな。70年代のスプラッター映画から出直してこい!」
「ヴァ?!ァァァア!!」
〜〜〜
『最近のゾンビナイトはダメ。映画のメイクのレベルに達してない。』
『今の社長になってから、映画のテーマパークこら離れて行ってる件。』
ポンっ、ポン。
ふんふんふーん、と鼻歌を歌いながらSNSを更新するカントクちゃん。最近はSNSが収益になるのでとてもおいしい。私がパークについて批判的なことを言うと、賛同者批判者共々出てきて大いに盛り上がる。半ば炎上のようなことになる時もあるが、仕方のないことなんだよね。そもそも映画のテーマパークであることを忘れて、UPJは色んなことに手を広げすぎて初心を忘れちゃってるんですよ。炎上すればするほど、私が儲かるというシステムである。その儲かったお金でコスプレのクオリティを向上させてやる。
『カントクちゃんの言うとおり!』
『カントクちゃんのメイクの方がゾンビ感マシマシで本物感ある。』
そうなんだよなー。私のゾンビメイク研究がついにUPJを超えてしまった。UPJのレベルが落ちているのもあるが。そろそろ本気ゾンビメイクをして、『本物』のゾンビってやつをパークに見せつけに行ってもいいのかもしれない。
ーーふっふっふ、見てろよ。と呟きながら信者達のコメントにルンルンで目を通すカントクちゃんであった。
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