表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/206

第197話 (183)Zombie / Specter

「ユウくん!」


「…」


「ユウくん…だよね?」


 目の前の軍服ゾンビは、数日前と同じように何も喋らない。しかし、去らずにそこに立ち止まっているのが、自らがユウくんだという答えなのだと感じた。


「ユウくんのダンス!かっこよかったよ!」


「…」


「僕、ユウくんのおかげで今ゾンビダンサーやってる!楽しく生きてるよ!笑って生きてる!ありがとう!ありがとう、ユウくん!」


「…」


 いろんな思い出が蘇ってくる。子どもの頃1人で不安だった僕に寄り添ってくれたユウくん。ユウくんも同じく不安だっただろうに、僕らよりも年上だったから、ムードメーカーになってくれていた。いつもは年上のお兄ちゃんって感じだったけど、時折ふざける時は子どもっぽく無邪気に笑ってたユウくん。僕が子役として活躍しても、ただの友達として接してくれたユウくん。コンビニの前で駄弁って食べるアイスが美味しいって事を教えてくれたユウくん。


「あと…あと…もっと伝えたいことが…」


「…」


「カッピーとかハナさんとか友達も沢山出来て…」


「…」


「毎日本当に楽しいんだ。今…こんな毎日過ごせてるのはユウくんのおかげだよ…本当に…ありがとう…」


「…」


「あ、あれ…」


 涙がボロボロと溢れてくる。止めることができない。あの日流せなかった、流さなかった涙。どんどんととめどなく流れるそれを、拭くこともせず僕はユウくんに話しかけ続けた。


ふわり


 すると突然、目の前の軍服ゾンビがふわりと浮かんだ。そのまま、少しずつ空の上の方へと上っていく。


——ユウくん、行っちゃやだよ


 そう思ったけど、言葉には出さなかった。これが最後になるかもしれない。お別れの言葉は明るくなくちゃいけない。そう思った。


「ユウくん!ありがとうー!またいつか、いつか遊ぼうね!!」


 そう言って僕は空に浮かぶユウくんに手を振った。すると——


ぽとっぽとっ


 ユウくんが着ていた衣装が地面に落ちてくる。僕はそれに駆け寄って、拾い上げる。その衣装に温もりはなく、ひんやりとした感触があった。


——ユウくん…


 そして、空を見上げるとそこにユウくんの姿はなく、ただ夜空に綺麗な月が光っているだけだった。


——急すぎるよ…


 何の前触れもなく、突然パークに幽霊のユウくんがいると知って、やっと会えたと思ったら、もうどこかに消えてしまった。死ぬのも急だったし。


「でも、ユウくんらしいか…」


タッタッタッ


 僕が空を呆けてみていると、誰かが走ってくる足音が聞こえる。


「オラフくん!!さっきの…はぁはぁ…軍服ゾンビはどこ?」


 走ってやってきたのはビッグボスだった。ビッグボスは辺りをキョロキョロと見回しながら、僕に近づいてくる。


「さっきの軍服ゾンビなら…」


 僕はふと先ほど見上げた空に月が光っていたのを思い出した。


「月に…月に行っちゃったみたいです」


「つき…??」


 僕の言葉を聞いたビッグボスは不思議そうな顔をしながら、空を見上げていた。


「どういうこと?月って…」


カツンカツン


タッタッタッ


「ちょっとぉ〜。急に走らないでよぉ〜ビッグボス〜!」


「そうだ…はぁはぁ…体力自慢のシャクレと言えど、深夜の全力ランは身体に堪えるぜ…」


 そんな僕らの元に2人が走ってくる。ニセ姉とシャクレさんだ。さっきまであんなに静かだったとは思えないほど、騒がしくなって来た。どうしてシャクレさんが、バックヤードに入って来ているんだ?何故かゾンビメイクを決めているシャクレさんを不思議に思って見つめていると——


ガタン!!


 突然遠くの方から音がする。僕ら4人はびっくりして、全員意識をそっちにとられる。関係者用の出入り口から勝手に入って来たと思われる男が、入り口のすぐ近くでカメラを構えたまま転がっていた。


——今度は誰なんだ…?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ