第192話 (178)帰れない二人
「随分長い間喋っちゃいましたね」
「そうですね…今何時なんだろう…」
「カッピーさん、時計とかないんですか?」
「メイクしてからすぐ抜けてきちゃったんで、手ぶらなんですよ。まだショーまでは時間があると思うんだけど」
「私も荷物預けてきちゃって…」
「急いで出ましょう!もしオールナイト始まっちゃってたら、端っこで休んでたら閉園時間なの気づかなかったとかで何とかなりますよ!僕が困ってたのをたまたま見つけた事にしましょう」
「ふふ、嘘が上手ですね。もしかしてこういう経験始めてじゃないですか?」
「そんなまさか!」
私達は扉の前に立つ。この扉を出たら、私とカッピーさんは赤の他人。ダンサーさんと、その推しになるんだ。
「じゃあ、僕が先に外に出て様子確認しますね!大丈夫そうなら、ノックします!」
「わかりました」
これがカッピーさんとの最後の会話になるんだ。さよならじゃなくて、ノックしますが最後の言葉なんて可笑しいな。
ガン!!
「…?」
ガン、ガン!!
「…ぱれ…??」
ぱれって何だと思ったが、あれ?という事なんだろうか。カッピーさんがドアを開けようとするが、数ミリ動いただけで開く様子がない。カッピーさんは目を丸くしながら、こちらを見て話す。
「ひ、開きません…!」
「え?どういう事ですか??」
ガン!ガン!
「な、なんかつっかえてるみたいです!」
「え?どういう事ですか??入る時は普通に入れたのに…!」
「ぼ、僕も全く…!え?え?」
ガン!ガン!
「ちょ、ちょっと変わって下さい!」
私はカッピーさんを押し除けて、扉に手を伸ばす。
ガンっ
開かない。鍵がかかっているというわけではなく、扉が数ミリ動きはするが、カッピーさんの言うとおり外側で何か支えている感触だった。
「うぐぐぐぐ…!」
私は扉に思いっきり体重をかけてみる。ダメだ。全然変わらない。私はカッピーさんに状況を確認してみる。
「え?え?これって閉じ込められたってことですか?」
「そうっぽいです…」
「こ、ここ以外に出口は…」
「ないです…」
「そ、そんな…!!」
〜〜〜
2人が入ってきた扉の外側には、入る時にはなかった大量のポールや柵が置かれていた。それらはタテノくんがビッグボスの指示により、移動させたものである。一時的に廃アトラクション前に移動させて、後で移動させるつもりだったが、オールナイトの怒涛の事件でタテノくんとビッグボスはこっちにまで手が回らなくなっていたのだった。
〜〜〜
「大きい声で助けを呼べば誰か来てくれるんじゃ…」
「た、確かにそうですね…!」
「だれかぁ、助けてくださーい!」
「閉じ込められちゃってますー!誰かー!」
私達はしばらくの間助けを呼んでいたが、全く人が来る気配はなかった。
「おかしいです…こんなに人が通らないなんて…」
「もしかしたら、もうオールナイトが始まっちゃってるのかも…このエリアはオールナイト中封鎖されるんですよ」
カッピーさんがそう話す。私は最悪のケースを頭に思い描いてしまう。
「え?じゃあここ誰も来ないって事ですか?」
「いや、多分見回りの人とかは来るかも…」
「来ないってことも?」
「あるかも…?」
「このまま気づかれないって事も…?」
「あるかも…?」
——私達やばくない?
こんな時に限って、スマホも持ってない。外との連絡手段がない。やばい。詰んでる。私はともかくとして、カッピーさんはもしかしたらショーに間に合わないかもしれない。
「カッピーさん、ショー大丈夫…ですか?」
「た、多分…いない事に気付いて、ビッグボス達が探してくれるはず…でも、始まるまでに間に合うかな…ここに来る事誰にも言ってないし…え?やばいですかね?誰も来ないって事ありますかね?」
「…マイナス思考はやめましょう!きっと誰か来ます!気付いてくれます!」
私は不安な顔をしているカッピーさんを何とか励ます。きっと大丈夫…誰か来てくれるはずだ。多分…きっと…。