第191話 (177)君の好きなとこ
「まずは、本当にごめんなさい。カッピーさんの迷惑も考えずに待ち伏せをしてしまって…」
「…」
「私、時々暴走してしまうところがあって…。自分でも止められなくなる時があって…いい年した大人が情けないですよね…」
「そんな!人間だからそういう時はありますよ!」
「優しくしないでください!厳しく糾弾して欲しいです!」
「きゅっ、糾弾って…!で、でも正直待ち伏せされた時は…少し怖かったです…」
「やっぱり…そうですよね…私カッピーさんが通報するなら、大人しく捕まります…罪を償ってきます…」
「いや…いやいや!そこまではしなくて大丈夫ですよ!」
「でも、何かして償いたいです…本当にごめんなさい!」
「何かって…」
私は頭を深々と下げて謝罪をした。これだけで済むことをしたとも思ってない。かと言って、代わりに何をすればいいのかもわからない。罪の意識が私の心臓をぎゅうっと握りしめる。自分のした行いは消えることがないんだ。
「あ!良いことを考えました!」
「何ですか?」
「カルーアさん、オールナイトのチケット持ってるんですか?」
「あ、はい!一応…」
「僕、オールナイトのショーの最後に出て踊るんですけど、その写真を格好良く撮って下さい!」
——え?
頭にハテナが浮かぶ。この人は何を言ってるんだろう。
「…なんですか、それ。ふざけてるんですか?」
「え…ダメですかね…?それでこの件はチャラにしましょう!もう終わり!ってことで!」
「ふふっ。何ですかそれ!」
「何か違いましたかね…こんな経験初めてなんでわからなくて…」
「あははは!多分違うと思います!」
何だか可笑しくなって笑ってしまう。謝る側の私が笑うのも違う気がするけど、とぼけたような表情で話すカッピーさんを見ていると緊張がほぐれていってしまった。こんな経験初めてって、そりゃそうだろうとも思ってしまった。
「はぁ…本当好き…」
「え?」
「私今日でカッピーさんと話すの最後だと思うんです。最後に全部話しちゃっていいですか?」
口が動いた。もう全て話すんだ。最後に私の思いの丈を。
「カッピーさんがゾンビの時、少し右肩を下げて歩くのが可愛くて好きでした。叫び声を上げる前に、ちょっと伏目がちになるところが好きでした。お客さんを驚かした後に、少し照れ臭そうにしてるのが好きでした。ダンスの時に、子どもが踊ってるのを優しい目で見ているのが好きでした。ダンスを間違えちゃった後、ミスを誤魔化そうとしてまたミスするのが可愛くて好きでした。風が吹いて、髪がボサボサになってるのが可愛くて好きでした。私にミルクを差し出してくれる優しいカッピーさんが好きでした。待ち伏せした時も、くしゃっと笑って優しく対応してくれるカッピーさんが好きでした。こんな私なんかに…まだ優しくしてくれるカッピーさんが…かっこよくて…」
「…」
「好きでした!ごめんなさい!気持ち悪いですよね!」
「い、いや…嬉しいです!」
「本当は怖いですよね…?」
「え?ちょ…ちょっとだけ怖いかも…」
「やっぱりそうですよね…」
「いや!でも本当に嬉しいです!でも、僕カルーアさんの気持ちには…」
「…」
「ごめんなさい!応えられないです」
「…はい」
——わかってた
わかっていたけど、目に涙が滲む。私の気持ちは伝えた。この世に推しに気持ちを伝えられる人がどれだけいるのだろう。推しに気持ち悪がられた人も。
「ごめんなさい!私一方的に話しちゃって…」
「いや…本当に…ありがとうございます…」
「これからは、唯のダンサーとファンに戻るってことですね…!私カッピーさんのこと、これからも応援します!それにしても、ショーの最後に踊るなんてすごいですね…!」
「あ…その事で僕からも話があって…」
「…?」
「実は僕…このゾンビナイトでダンサー辞めちゃうんです」
「え…?それって…」
「いや、カルーアさんのことは関係ないです!何も言わずにいなくなっちゃったら、カルーアさんが自分のせいだと思っちゃうんじゃないかと思って、ちゃんと伝えたかったんです。辞めちゃうのは僕の個人的な思いからなので…」
「そんな私に気を遣わなくても…」
別に私になんか何も言わずにパークを去ったって良いのに、私のことを気遣ってわざわざ伝えに来てくれたのだ。カッピーさんは優しすぎる。
「だから、ダンサーなのは後数日なんですけど…短い間にはなるんですが、よろしくお願いします!」
「…わかりました!後少しの間、応援させて頂きます!」
「そういう事もあって、これからメインステージで踊るのはすごい僕にとって大事なステージというか…最後の晴れ舞台になるわけでして…」
「なるほど…」
「思い出にカッコよく撮っててくれると嬉しいなと…」
「任せてください!私がカッピーさんを最高に格好良く撮らせて頂きます!UPJオタクの実力をフルに発揮します!」