第189話 (175)はじまっていく、たかまっていく-3
『ウォォーン、ウォォーン』
「あ、ショー始まっちゃいそう…」
「もじゃいなくて草」
僕たちはメインステージの最前列でショーの開始ともじゃちゃん達が帰ってくるのを待っていた。しかし、ショー開始のサイレンが流れても2人が帰ってくる様子はなかった。2人の分の場所がぽっかりと空いたままだ。
「もじゃちゃんもだし、カルーアちゃんも結局戻ってこなかったね…」
「もじゃはきっと今もじゃもじゃゾンビとの逢瀬を楽しんでるはず…知らんけど」
「知らないんかい!」
「カルーアちゃんもメインステージのショー見ないのアホすぎてアホ」
「いやアホっていうか…もう!僕じゃ文子ちゃんにツッコミきれないよ!もじゃちゃん戻ってきてー!」
そんなこんなしていると、ステージ上にバンドの人たちが現れた。これが噂のノベルナイトか。やっぱりバンドの人たちって格好いいなぁ。
「え、待って。ショー始まるんですけど、無理無理マジ無理」
「…」
相変わらずネットミームを炸裂させる文子ちゃんに僕はもう突っ込む言葉を失っていた。
〜〜〜
「皆さん!よろしくお願いします!僕たちはノベルナイトと言います!」
俺はステージに上がって客席に挨拶をする。流石にいつもの客層とは違うな。いつもライブに来てくれているような子達も見かけるが、大半はテーマパークに遊びに来ているついでに見ている人たちのように見えた。
「こんなにたくさんの方々に集まってもらって嬉しいです。今日は最後まで楽しんで行きましょう!」
パチパチパチパチ
俺は客席を見回す。フェスに出た時の景色に近いな。こんなに沢山の人に集まってもらえるなんて。客席が自分たちのファンだけじゃないという状況は嫌いじゃない。アウェイであればあるほど燃えるタチだ。
「じゃあ、早速一曲目を。僕たちのメジャーデビューシングルです」
「きゃーーー!」
「今日は特別ゲストも呼んでます!盛り上がっていきましょう!」
ジャーーン
「貴様らも踊る阿呆にならNight〜!」
「キョドリー!キョドリー!」
俺達の演奏が始まると共に、パークのキャラクター達の声も響き渡り、ゾロゾロとダンサーさん達やキャラクターの着ぐるみ達が出てくる。
「きゃーーー!!」
「ナイトベアー様だ!キョドリーもいるー!!」
「キョドリーいるの激アツすぎるだろ」
——盛り上がってよかった
ショーの内容を聞いた時、ライブ中に着ぐるみが出てくるのはロックバンドとしてどうなんだろうと少しだけ思ったが、それは古い考えだったようだ。パークのキャラクター達のおかげでグッと客席との距離が縮まった気がする。俺達も別に客席を冷ましたいわけじゃない。盛り上がるに越したことはないのだ。パークのお客さんはゾンビナイトのテーマソングは知ってくれているだろうけど、他の曲はどうだろうと心配していた。この歓声を聞くと大丈夫そうだ。
「踊らNight!踊らNight!」
——それにしてもこのナイトベアー…
俺はバックヤードでこの着ぐるみの中身がおっさんだと知ってしまった。あんな渋いおっさんがこんなに可愛さを振りまいているなんて…。いや、余計なことを考えるのはよそう。忘れるんだ。着ぐるみに中なんていない。あれは可愛い可愛いナイトベアー様なんだ。
〜〜〜
熱狂の最中にあるパークの中。時を同じくして、仲間外れのように静まり返ったエリアにもがく3人の姿があった。
「ぐっ!!ダメだ!やっぱり全然動かない!」
「3人でせーの!で押してみましょう!」
「あら?何で私も手伝わなきゃいけないの?」
「協力してくださいよ…このままじゃ…」
『ウォォーン、ウォォーン』
「やばい!!ショーが始まっちゃった!」