第181話 (167)ゴーゴー幽霊船
「うぅ…行かなきゃ…!」
「ダメデース!その体調で無理させる訳には行きませーん!」
「あら?じゃあ、アナタ何か案があるの?アナタが踊ってくれるの?」
「僕?!僕は無理デース!」
僕はオールナイトのショーについて、ココロくんの様子を見ながらニセ姉と話していた。ココロくん本人は踊りたがっているけど、どう見ても踊ることが出来るような状況には見えなかった。
「先輩の分も…俺が…俺が…やらなきゃ…」
「ほら、本人がこう言ってるんだから踊らせてあげなさいよ」
「いや!ダメデース!こんなフラフラで踊って、もしものことがあったらどうするんデスカー!」
「じゃあアタシの作ったショーは不完全でもいいって言うの!!どれだけ頑張って作ったと思ってるのよ!!」
「こんな状態の人を踊らせる方が不完全でショー!」
——ニセ姉の気持ちもわかる…わかりマスけど…
責任者として従業員に無理をさせる訳にはいかない。どう考えてもココロくんは働けるような体調じゃない。なのに。こんなにフラフラになってまで、何とか職務を全うしようとしている。
——これがサムライタマシイというやつでしょうか
僕はココロくんの燃えるような眼差しにサムライのスピリットを感じた。義理と人情、という言葉が日本にはあります。僕もなんとか彼の思いを汲んで、ショーを変更なしで成功させたい。
「僕が今から他のダンサーに代わりができないか聞いてきマース!」
「いいわよ!そんなこと!アナタがしなくても!」
ニセ姉の言葉にビックリしてしまう。てっきりそうしなさい!といつもの調子で捲し立てられると思っていたからである。
「イッツマ〜イビジネス」
ニセ姉はそう言うと扉の方へとカツンカツンと足音を鳴らして歩いて行った。
「それは私の仕事。アナタはアナタの仕事をしてちょうだい!余裕があるなら探して欲しいけど!」
バタン
こちらに向き直るとニセ姉はそう言い放った。そして、僕が呆気にとられていると颯爽と部屋を後にした。そうか、彼女もプロ。大事な仕事を人に極力任せたくないと言うことなのでしょうか。それなら僕は僕で仕事をするだけだ。
「あのお姉ちゃん怖いね〜。すごく気が立ってたよ〜」
突然それまで黙っていたユーが話し始める。
「ユー、さっきまで黙ってたのに!」
「他の人がいる時に喋らないでって言ったのはジョージじゃん!」
「そ、それはそうですねー」
「あーあ!それにしても俺が生きてたら、代わりにダンス踊っても良かったのにな〜」
「え…?」
「ルッタッタダンスでしょ?俺がダンサーだった時のダンスだも〜ん!かなり練習したから身体に染み付いてるよ〜ルッタッタ〜ルッタッタ〜ってね」
そう言うとユーはすいすいっとダンスを踊り始めた。それはリハーサルで見たダンスそのままであり、ルッタッタダンスだった。
「だ、誰だあんた…踊れるのか…?」
——え?
ココロくんがユーの方を見て話し始める。どういうことなのでしょう?もしかして、ココロくんにはユーが見えてる?
「え?君、俺が見えるの?」
「見える?ちょっと視界がぐわんぐわんなってて、わかんねぇけど…声はバッチシ聞こえるぜ…」
僕は驚いた。ユーの存在を認識できたのは、僕以外では初めてだ。どうして、ココロくんはユーのことが見えるようになったのだろう。もしかして、体調を崩して死が近くなったからなのだろうか。三途の川がどうのという話をテレビで見たことがある。ココロくんはそんな死を身近に感じるほど今体調が悪いのだろうか。
「誰だか知らないけど…頼む…踊れるなら…先輩と俺の分まで…」
「俺?!踊れるは踊れるけど、そんな人前に…ましてやステージに立つなんて…」
「た、たのむ…」
ココロくんはユーの方に手を伸ばす。しかしその手はユーに届くことなく、パタリとベッドの上に落ちる。
——え?ココロくん死んだ?
僕は焦ってココロくんには近寄る。
「すぅ…すぅ…」
ココロくんが息をしている音が聞こえてくる。ほっ。良かった。眠っただけなんですね。
「…」
ユーはじーっと寝ているココロくんを見つめていた。その目は迷いの中にあるように見えた。
「ユー、もし君が良かったら踊ってくれマスカ?この前みたいに衣装を着れば、よーく見ても幽霊が踊ってるなんて誰も思わないですよ」
「…。ちょっと考えさせてよ」
——でも流石にユーに踊ってもらうのはどうなんでしょう
猫の手も借りたい。忙しくて人手が足りない時のことわざだと勉強しました。今はまさに幽霊の手も借りたいという状況の様です。しかし、もしユーが踊ってくれることになったらニセ姉には何と説明したらいいんでしょう。




