第179話 (165)声
ガヤガヤガヤ
——今日は騒がしいな
俺の名前はダイ。みんなにはダイさんと呼ばれて親しまれている。俺の仕事は深夜が主、静まり返ったパークで塗装をするのが俺の生業だ。
——しかし…!
今日はじきに深夜になるにも関わらず、パーク内にはお客様の賑やかな声が響いている。そう、今日はオールナイト営業の日だ。そういう日は俺の作業は基本的にないのだが、今日は所謂例外というやつだ。
そう、今日の俺の仕事場はベイサイドエリア。オールナイトの間、このエリアは封鎖されていてお客様は入れないようになっている。開園していても俺が作業ができるのにはそういったわけがあるのだ。
——ここだな
作業場所に到着する。ベイサイドエリアの一角にあるもうクローズしてしまった廃アトラクション。その外壁部分を中心に塗装の修繕を行う。行うはずだったのだが…
——な、なんだ?
塗装の修復を行おうとした場所には大量の柵やポールがあり、近づけないようになっていた。
——誰だよこんなところに置いて行ったやつは!
外壁の塗装をするなら一気にやってしまわないと塗装ムラができてしまう。この柵周りを避けて作業することもできるが、ムラを作るのは避けたい。かといって一人でこの量の柵を移動させるのは少々手間だ。
「おーい、誰か!手の空いてるスタッフはいますかー?」
無線機で周囲のスタッフに連絡してみる。少し待ってみても応答はない。忙しい時間なのだろうか。オールナイト営業でスタッフの数も少ないらしいし、仕方ないか?俺は少しの間悩んで決断した。
——仕方ない。一人で移動させるか。
俺は小学校の頃の文化祭の準備を思い出していた。当時大量の荷物を一気に運ぶ俺は『人間キャリーカートのダイさん』と呼ばれていた。あれから随分と歳をとったが問題ない…はずだ。
——よいしょっ
俺は一つ、また一つと柵を移動させる。一体誰がこんなところに柵を置いたんだ。後でビッグボスに報告して犯人探しをしてやる。
「ぉ〜ぃ。誰かぁあ」
——ん?何だ?
俺は作業の手を止めて、耳を澄ませる。遠くから喧騒が聞こえはするが、その声はそれとは違い近くから聞こえた気がした。
——声?いやいや気のせいに決まっている
廃アトラクションに人がいるはずがない。まさか幽霊?いやいや、そんなわけがない。幽霊などいるわけがない。いや、いないよな?
『あそこ、出るらしいですよ』
同僚の女の子が休憩時間に話していた話を思い出す。このアトラクションが好きだった子どもが亡くなってしまい、その好きなアトラクションに幽霊となって化けて出てしまうという噂話。俺はその話を聞いた日の夜は怖くて眠れなかった。しかし、あの日の弱い俺はもういない。そう、幽霊などいないからだ。
——き、きっと幻聴だろうな
そう思って次の柵に手をかけた瞬間…
バン!
廃アトラクションの出入り口から音がしたと思った瞬間、磨りガラスの向こうに人の形をした何か影のようなものが見えた。その人のようなものはおよそ生きているとは思えない肌の色をしていて、おどろおどろしい雰囲気であることが磨りガラス越しにもわかった。するとその影はこちらに向かって叫ぶのだった。
「たぁすけてくれぇ〜」
「ぎ、ギャァぁぁあああ!」
俺は逃げた。一目散に逃げた。叫び声をあげて。出た。出た。出たのである。廃アトラクションの幽霊話は本当だった。今日俺は遂に本物の幽霊を見てしまった。あんなものを見てしまっては仕事どころではない。早く!早く!祓ってもらわなければ。誰に頼めばいいんだ?住職さん?霊媒師か?それともシャーマン?イタコか?誰でも良い!誰かあの霊を祓ってくれぇ!!




