第175話 (161)千客万来-1
「1、2の3でボッカァ〜ン!愛の爆弾チャンネルのシャクレとっ!」
「メガネでーす!今日はなにするんですか!!」
「今日はゾンビナイトのオールナイトに来ていまーす…ぐっぐぅうう…!」
「って、お前がゾンビになってどないするねーーん!」
「あははは!!あはは!あは!」
俺たちはオールナイトへとやってきていた。本当ならシャクレさん達の撮影などせずに、メインステージの良い位置の場所取りをしたかった。しかし、シャクレさんに頭を下げられては断れない。これもシャクレさんと共にビッグになっていくためだ。メインステージを撮影するよりもシャクレさん達を撮影する方が未来の俺たちのサクセスのために必要なことなんだ。うん。きっとそうに違いない。
チラリ
——まだそんなにメインステージ前埋まってないな
そんなことを思っていても意識はメインステージへ向かってしまい、何となく埋まり具合が気になってしまう。今から地蔵すれば、それなりにいい位置で見られそうか?
「リュウ、すまんな。手伝ってもらって」
「いや!シャクレさんの頼みなんで大丈夫です!」
ゾンビの格好をしたシャクレさんが僕に話しかける。横には同じくゾンビの格好をしているメガネさん。しかし、メガネさんの仮装で気になっていることがある。あのもじゃもじゃのゾンビの格好…すごく見覚えがある…。
「あ、あの…一つだけ確認していいですか?」
「ん?なんだ?」
「あのメガネさんの仮装って…」
「あーあれな!やっぱりリュウにはわかっちゃうか?」
メガネさんの仮装、あのもじゃもじゃは間違いない。今年忽然と姿を消したもじゃもじゃゾンビの格好そのままである。まさか…嫌な予感が頭をよぎる。いや、流石にシャクレさんもそんなこと…。
「あれなー!パークの倉庫からかっぱらってきたやつなんだよー!」
——コイツやばっ!!
去年までいたもじゃもじゃゾンビが今年居なくなった理由…それはシャクレさんが倉庫から衣装を奪ったからであった。衝撃だ。シャクレさんはこんなことを平然とする人なのだ…やっぱりこの人ビッグになるのかもしれない…じゃなくて!
「い、いや!まずいですよ!何でパークで盗った衣装をパークに持ってきちゃうんですか!それにメガネさんはこの事知ってるんですか?」
「ん?いや?メガネは知らないよ?本当は俺が着たかったんだけど、サイズが合わなくてさぁ〜。泣く泣くメガネに譲ったわけよ」
何故か自信満々に話し続けるシャクレさん。この人に道徳というものはないのか。
「おーい、2人で何話してんの?」
「い、いや!あのーそのー」
「てか、シャクレ!お前が貸してくれたこの仮装、何か人気みたいでさ、さっきからめっちゃ写真撮られるんだよな〜。これ何のやつなの?」
——まずいぞこれは
ふと周りを見回すと、メガネさんのもじゃもじゃゾンビの仮装はUPJオタク達の視線を集めていた。
「えっあれ?もじゃもじゃゾンビ?本物?」
「いや、なんかメイクも安っぽいし、ただのファンじゃない?でも、服のクオリティすごいなぁ…まるで本物だ…」
——あぁやばいやばいやばい
もしこのままこれがシャクレさんが盗った本物だとバレてしまったらどうなるんだろう。出禁間違いなしかもしれない。ただでさえ俺は、ハナさんへの迷惑行為でイエローカードが出ているのに。これにより、一発退場の出禁勧告を喰らうかもしれない。
「シャクレさん、一旦撮影は無しにしましょう」
俺はシャクレさんにヒソヒソと相談を始める。このまま撮影などしている場合じゃない。
「えっ?何で!あっ、さてはメインステージのショーを見に行きたいのか?」
「え?あっああ!まぁそんなところです!そうですね、撮影はショーの後にしましょうか!オールナイトは長いですし!」
俺はシャクレさんの話に乗ることにした。しかし、このままメガネさんが盗品を身につけていてはショーの終了時までにスタッフに捕まってしまう可能性もある。悩んでいる俺にシャクレさんが話しかける。
「確かにな、焦って今からカメラ回すことないか?」
「そうですよ!あ!あと!ショーの後に撮影する時はメガネさんには着替えてもらいましょう」
「え?なんで?」
「何でって…盗品着て撮影した動画をネットにアップロード出来ないですよ…」
「えー?バレるかなー?似てるなーぐらいなんじゃ?」
「オタクを舐めないでください!バレます!それにパークの関係者が見たら、これ盗まれたやつだってなりますよ!」
「た、たしかに…!パークで着るのはまずかったか?」
ここまで話して急に焦り出したシャクレさん。どうしてここに来るまでにこの思考に辿り着かなかったんだ、この人は…。この鈍感さはやっぱりビッグになる証拠なのかもしれない。
チラリ
メインステージの方に目をやると、少しずつ客で埋まってきているのが見えた。まずい!こうしている間にも良い場所が無くなっていってしまっている。
「俺はメインステージの場所取りに向かいます!ショーが終わるまでにはメガネさんを着替えさせて下さいよ!このままだと、下手したら出禁になりますよ!」
「わ、わかった…!」
俺は急いでこの場を後にする。シャクレさんはメガネさんに何と言って着替えてもらうつもりなのだろうか。正義感の強いメガネさんのことだ。本当のことを知ったら、烈火の如く怒るに違いない。俺にまで飛び火するのはごめんだ。シャクレさん、何とか上手くやって下さいよ。




