第172話 (158)Run Run-2
「先生!ココロくんが倒れちゃって!」
「…。とりあえずそこのベッドに寝かせてください」
オラフくんがココロくんをベッドへと運ぶ。先生はそこに近づいて行って、手をココロくんの額へと当てる。
「熱がすごいですね。顔のクマもすごい」
「あっ、顔のクマはゾンビメイクだと…」
「いや。メイクで隠してはいますが、これは血行不良によるクマですね」
「クマ…?寝不足ってこと?そう言えばショーの代役やるってことでかなり根を詰めて練習してたみたい…」
「でしょうね。私も昨日彼がずっと練習してるの見かけました。過労と睡眠不足、それにストレスによるものの可能性があります」
『ウォオオーーーン、ウォオオーーーン』
そこに突然サイレンの音が鳴り響く。ダンスタイム開始のものではなく、ゾンビが出現する合図のものだ。
「あっ!ま、まずい!僕もう行かないと…!」
ゾンビの格好をしたオラフくんが焦り始める。本来なら彼はゾンビとして漂わなければいけない時間だ。私は彼に声をかける。
「オラフくん、ありがとう!ここは任せて、持ち場に戻ってくれる?」
「わ、わかりました!ココロくんを宜しくお願いします!」
ガチャ
オラフくんはそう言い残して、急いで持ち場へと向かった。私もそう長くはここにいられない。今ストリートはどう言う状況なのだろう。他にトラブルは起こってないだろうか。私は医務室で足を押さえるお客様やベッドに伏しているココロくんを眺めながら考え事をしていた。
——ここまでトラブルが続くなんて
お客様の骨折にココロくんの過労。ココロくんの代わりはどうしよう。ショーの代役の代役を当日に用意するなんて不可能だ。快諾してくれるダンサーもいなそうだ。一体どうすれば…。ココロくんの部分を削る?とりあえずニセ姉に相談するしか…
ピリピリピリ
そう考えているとケータイの着信音が鳴り響く。こんな時に誰よと思って、画面を見るとタテノからの連絡だった。
——全くこの忙しい時に何よ!
そう思いながら電話に出ると、タテノは焦った様子で話し始めた。
『あっ、ビッグボス!た、たたた大変ですっ!』
「大変も大変よ。こっちはもう対応してるわよ。お客様の怪我?ココロくんが倒れたこと?」
『え?いや違います…あのー』
「じゃあ、さっきの柵の話?柵くらいだったら、端っこに一旦…」
『柵のことじゃないです!本当に大変なんです!』
慌てた様子のタテノに少しイラついてしまう。これ以上大変なことなどあるだろうか。いやない。タテノのことだ、きっと大したことではないだろう。あかねちゃんが可愛すぎるとかその程度の話だと思う。
「これ以上大変なことなんてないわよ!」
『カッピーさんがいません!』
——ん?
「え?ごめん。待ってね。誰がいないって?」
『カッピーさんがずっと見当たらなくて、連絡もつかないんです!』
——カッピー君がいない?
私はそれを聞いて卒倒しそうになる。ココロくんが倒れて、カッピーくんもいない?あれ?私はまず何をすればいいんだっけ?えーっと、まずお客様を救急車に…ココロくんの代演を探して…それで…ニセ姉に相談で…ええっと…。
ぷしゅ〜〜
頭がショートしそうになる。というか、ショートしている。ここ1時間、お客様の追い出しからノンストップで動き続けている。しかも今は夜中、本来なら仕事をしていない時間だ。いつもなら家に帰って、メイクを落として、録画していたテレビ番組を見ながら、めんどくさいけどお風呂に入らなきゃなーってゴロゴロしながら、ヨルを撫でている頃だ。そういえば、メインステージのお客様の誘導もしないといけない。と言うか、それが私の主な仕事のはずだ。
『もしもし?ビッグボス?あのどうすれば…』
「えーっと、待って頂戴ね。あのー」
私が糖分の足りない頭を何とか働かせて、どうすればいいのか考えていると、電話口のタテノくんが何やら騒ぎはじめた。
『あっ、ちょっ!お前何するんだ!放せ!』
ガタガタン
『ビッグボスのネェちゃん!話は聞いたで!カッピーはオレにまかしとき!ショーの開始までにステージに届けたるわ!』




