第168話 (154)なぜか今日は-1
「おねーさん、ありがとお!」
「いえいえ!この後もパーク楽しんでくださいね!」
私はお客様をグッズショップへと案内していた。お礼を言ってくれたお子さんが私に向かって名残惜しそうに手を振ってくれている。
ーーあぁ、可愛いなあ
パークに遊びに来た人たちの笑顔は、ここで働く者にとって何よりの原動力だと思う。特に子どもの笑顔を見ると元気になってくる。このグッズショップまで一分程度一緒に歩いただけなのに、長年の友と別れる時のように手を振る子どもを見ながらそんなことを考えていた。
今日はハロウィン当日、10/31。今日の深夜にはゾンビナイト初のオールナイトイベントが行われる。今はまだ通常営業だが、油断はできない。こう言う特殊なイベントの日は何が起こるかわからないのだ。そう思っていたのだが。
ーー今日は平和だなぁ
今日はクレーマーのように騒ぐお客様もおらず、変な混乱も今の所ない。先ほどのような家族連れやカップルが、楽しそうにする姿を見かけるのみだった。心なしか常連の人たちも少ない気がする。
「ビッグボス!お疲れ様ですー」
「あっ、デイちゃん久しぶりですー!」
デイちゃんに声をかけられる。この人はやっぱり今日も来ているのか。
「良かった〜。今日あんまり常連さん見かけないから、デイちゃんも居ないのかと思ってましたよ〜!」
「まぁ、私は当然毎日来ますよ。みんなはどうやら仮眠してから来るみたいですよ?オールナイトのために体力温存してるんじゃないですかね?」
「なるほど…そういうことなのか」
合点がいった。常連さん達は今、オールナイトのために力を貯めているところなのか。それが今のパークの平穏の原因だったのだ。と言うことは、今日の忙しさの本番はやはりオールナイトイベントが開始してからになるのか。そう思うと気が重くなる。
「あ、おねーさんいたぁ!!」
「え?」
突然子どもが背後から下半身にしがみついてくる。誰かと思って見てみると、先ほどグッズショップに案内した家族の子どもだった。
「すいません…。この子さっきのお姉さんと写真撮りたいんだって聞かなくて…」
ーーかっ可愛い…!
「写真大丈夫ですよー!一緒に撮りましょう!」
「あっ!じゃあ私撮りますよ!」
デイちゃんはそう言うと親御さんからカメラを受け取る。私は子どもの後ろに立って、親御さん達と一緒にカメラに向かってポーズを取る。
「じゃあ、撮りますよー!はい!チーズ!」
カシャ
「わぁ、おねーさんありがとうー!」
「すいません…写真まで一緒に…」
「いえ!全然大丈夫ですよ!楽しんでもらえてるようで嬉しいです!」
「おねーさんもいっしょにいこうよー」
「こら!お姉さんはお仕事中なんだから邪魔しちゃだめでしょ!ほら!行くわよ!」
「えー!おねーさん!はなれたくないよー」
「私はずっとパークにいるから、また遊びに来てくれたら会えるよ。離れないよ」
「ほんとう?わたし、またあそびにくるー!」
「うん、また遊びにきてね」
そう言うと安心したのか、その子は親御さんの元へと戻ってばいばーいと手を振って去っていった。その姿を見ながら、あの子がまた遊びに来てくれる時も元気に働けるように頑張らなければと思った。
ーーよし、頑張るぞ!
〜〜〜
「ゔぅ…ぐぅ…」
ーーなんか、今日のココロくんのゾンビ感すごいな…
「はぁ…はぁ…ぐぅぉ…」
僕はゆらゆらとストリートを漂うココロくんを見ながらそんなことを考えていた。今日のココロくんはフラフラとして、今にも倒れそうな死んでいるゾンビの雰囲気を完璧に再現していた。
ーーすごい、すごいよ!ココロくん!
ココロくん、前にカントクちゃんにダメ出しされたのを気にしていたみたいだから、ずっと練習していたのかもしれない。ココロくんの迫真のゾンビ演技を見て僕も刺激を受ける。先輩ダンサーの代演のダンス練習に加えて、ゾンビを極めるなんてすごいよ。
「ゔぅ…!ゔぅわぁぁ!!」
「わぁ!びっくりしたー!」
「このゾンビおっきいー!」
ココロくんに刺激を受けて、僕もいつもに増してお客様を驚かして回った。ココロくんもカッピーも成長してる。僕も自分のペースで負けないように頑張らなきゃ!そうしたら、ユウくんも僕の前に姿を現してくれるかもしれないし。




