第166話 (153)真夜中遊園地-4
「あの…ノベルナイトのボーカルさんですよね!」
「あっ、はい。あなたはスタッフの…」
「そうです!よかったぁ、マネージャーさんがボーカルがトイレ行くって言ったっきり行方不明だから探してほしいって。パーク広くて迷いますよね?」
「あ、いや迷ったわけじゃ…!」
「トイレは行けましたか?メンバーの皆さんも待ってますよ!」
「あっでもそのー」
俺はなんと答えたらいいのか口ごもってしまう。あのダンサーさんと話したくて探してたんだと正直に言ってしまおうか。メンバーとマネージャーを待たせてしまったのは申し訳ないが、最後に彼らにサインだけもらいたい。
「あの、サインを、えーっと」
「え?!サインくれるんですか?!私ノベルナイトの大ファンで…!ゾンきみの主題歌とかも毎日聴いてますー!」
ーー違う!俺はサインがしたいんじゃなくてサインをもらいたいんだ!
どうにも噛み合わないスタッフとの会話。焦ってクリスマスツリーの方を見ると、先ほどの2人の姿はもうなかった。くそう!ここで話してる間にどこかへと行ってしまったようだ。もう仕方ない。このスタッフさんにサインしてあげて、メンバーの元に向かうか。
「いつも応援ありがとうございます。サインどこに書けばいいですか?」
「あっじゃあこの手帳に…」
そう言うと彼女は年季の入った手帳を差し出した。パラパラとめくったページにはびっしりと色んなことがメモされていた。パークのスタッフも大変なんだなと思っていると、彼女は最後の方の綺麗なページを差し出して、ここに書いてくださいと指差してくれた。
さらさらさら
サインを書いた後、宛名を書こうとしてこの人の名前を知らないことに気付いた。転売対策のためにサインに宛名は書くようにとマネージャーに口酸っぱく言われている。自分のサインが転売されるなんて、変な話だなと毎回思う。
「あの…お名前は何ですか?」
「あ、名前は…」
「ビッグボスぅーー!!!」
彼女に名前を聞いた瞬間、遠くから別のスタッフが叫びながら近づいてきた。そうか、この人はビッグボスというのか。
「ビッグボスさんへ、で大丈夫ですね」
さらさらさら
「あっ?!いや!!」
俺はサインを書いた手帳をビッグボスさんに返す。しかし、彼女は何だか不服そうな顔をしていた。どうしたんだろう。サイン書く場所間違えちゃったかな?でもここを指差してたし…。もしかしたら他のメンバーのスペースを空けておくべきだったのか?デカデカと自分のサインを書いてしまった…。申し訳ない…。
「ビッグボス〜!!ボーカルさん見つけてたんですねぇ、良かったぁ」
「もう!あかねちゃんのせいで!!」
「え?私のせい…?そんなことより!マネージャーさんカンカンですよ!早く戻らないと!」
「え?それはまずいですね…。急いで戻ります!」
俺はスタッフさん方に案内されながら、無事にメンバー達の元へと戻った。結局『アレ』の2人には会えなかったけど、明日も会えるからまぁいいか。サインも明日お願いしてみよう。
〜〜〜
「えへへ〜。私もボーカルさんのサイン貰っちゃった〜」
休憩室であかねちゃんが嬉しそうにしている。スマートフォンの裏にサインをもらったようだ。何より羨ましいのはちゃんと“あかねちゃんへ”と名前を書いてもらっていることだ。
「いいなぁ〜!あかねちゃんは名前で宛名書いてもらって!私は“ビッグボスへ”だもんなー!あかねちゃんがビッグボスって呼んだせいで!」
「別にビッグボスでもいいじゃないですか!現にビッグボスなんだから!」
「でもサインは名前でもらいたいじゃない!」
「じゃあ明日もう一回貰えばいいじゃないですか!」
「こいつ昨日も貰ってたのに…まさかサインを転売する気か!って思われるかもしれないじゃない!」
「そんなこと思うかなぁ…」
私は手帳のサインを見ながら悩んでいた。明日もう一度サインを貰うかどうか。さっきはああ言ったけど確かに“ビッグボスへ”でも別にいいかもしれない。ビッグボスなんてあだ名の人はそういないわけで、そう考えるとこれはこれで良いのかも。
「うーーん!でもやっぱり名前でも貰いたいよー!」
やっぱり、明日メンバー全員のサインをお願いしてみようかな。その流れでボーカルさんのサインももう一度お願いしてみよう。それなら自然な流れだよね?




