第165話 (152)真夜中遊園地-3
「まぁまぁドンマイ!フラれるよりいいじゃん!この写真やるよ。本当は成功のプレゼントってことで渡したかったんだけど、それは次の機会ってことだな」
スタッフさんはそう言うと、写真を手渡してくれた。その写真にはボリゴリに乗る僕達が写っていた。ジェットコースターの出口で売っている記念写真だが、僕達の分も撮って印刷しておいてくれたらしい。笑顔で楽しむあかねちゃんの横で、重力の恐怖に震えて恐怖している自分が写っていた。
ーーふふ、僕こんな顔して乗ってたんだな
その恐怖に震える表情に、我ながらクスリと笑ってしまう。いつかちゃんとあかねちゃんに気持ちを伝えて、この写真が笑い話になる日が来るだろうか。いや来るようにしなくちゃいけない。そのためにも…。
「よーし!頑張るぞ!」
〜〜〜
『ナンをいくら食べたって〜♪』
ガタンガタン
「あれ?ボリゴリ動いてるんですね?」
「んー?カッピーの気のせいじゃにゃーい?」
「気のせいな訳ないじゃないですか!ほら、見てください!完全に誰か乗ってますよ、誰だろう?」
僕は前日の最終リハーサルを終えて、ハナさんと閉園後のパークを散歩していた。ちょっと歩かないかい?と誘ったのはハナさんの方だった。深夜のパークは肌寒く、冬が近づいていることを嫌が応にも感じさせられた。
「それにしても震えました!ノベルナイトの演奏で踊る人生だなんて!」
「やっぱり生演奏で踊るのはたぎるよねぇ〜。明日が楽しみだぁ〜!」
こうして2人で歩いているとデートをしているみたいな気分だ。しん…としたパーク内。普段はBGMが鳴っているので、静かなパークを歩けるのはここで働いている人の特権だな。まだ電柱の明かりは所々灯っているが、僕たちが歩いて時間が経つにつれてどんどんと消えていく。
「おっ、クリスマスツリーだ!」
道を歩いていくと巨大なクリスマスツリーが僕たちの前に立ちはだかった。まだ、ハロウィンも終わってないのにクリスマスツリーが建っているなんて時期尚早ではないだろうか。
「そんなこと言ったらゾンビナイトだって9月から始まってるんだから、時期尚早も尚早じゃないか」
「むむ、たしかに」
「それにこのツリーも点灯式があるまでは光らないんだよ。だからこれは今の所ただの置物さ」
ハナさんは笑いながらそう言った。30mを超そうかと言った高さのツリーは、どうだデッカいだろうと言わんばかりに夜空に突き刺さっていた。僕はそれを見上げながら色々なことを考えていた。ゾンビナイトが始まったばかりの頃は暑かったのに、いつの間にやら衣替えもして、もう冬が来ようとしている。そりゃそうか2ヶ月も経っているんだ。それだけの時間が流れたんだ。ツリーの先端には何やら綺麗な飾りが付いていそうだったが、今は暗くて見えなかった。ライトアップされたらどんなふうになるんだろう。
ーー点灯したツリー、見に来てみようかなぁ
点灯式が行われる頃には僕はパークにいない。バイトを辞めてしまった後に1人でパークに遊びに来てみようかな。なんだかんだ働いているとパークを純粋には楽しめなかったしな。ゾンビナイト期間じゃなかったら、もっと余裕があったのかな?
「あっ!そう言えば、冬のショーってハナさんも出るんですか?」
「そりゃあ出るさ〜。私は看板ダンサーだからねぇ、もうすぐそっちのリハーサルも始まるよ」
「え?!すぐに?!休む暇ないんですか?」
「にゃいねぇ〜。まぁこの仕事なんてそんなもんさー!」
すごい。ハナさんはオールナイトの振り付けを習得しつつ、冬に始まるショーのダンスも練習していたのだ。そんなそぶりは微塵も感じさせなかったのに…。自分がプロになる場合、そんなことができるだろうか。
「僕、ハナさんが踊る姿見に行きますね…!」
「おうおう!見に来い!そして、私とのダンスの実力の差にひれ伏せ!」
「嫌なこと言うなぁ!もうひれ伏してますよ!」
「まだ足りん!もっとひれ伏せ!」
僕たちはクリスマスツリーの下でいつものようにふざけ合っていた。この「いつも」が「いつも」じゃなくなる日も近い。
〜〜〜
じーー
ーー『アレ』の2人だ!本物だあー!
俺はリハーサルを終えた後、あの2人に話しかけるタイミングをずっと窺っていた。しかし、2人はリハーサルを終えるとどこかへ消えてしまっていた。くそう!どこに行ったんだ!そう思った俺はトイレに行くと嘘をついて、こっそり彼らを探しに出た。大きなクリスマスツリーが目に入り、もうツリーなんて飾っているのかと近づいてみるとあの2人が何やら談笑していた。
ーー何を話してるんだろう…今話しかけちゃまずいか?
談笑する2人を見ながら、リハーサルの風景を思い出す。俺たちの演奏をバックに踊る2人のゾンビ。『アレ』の映像と重なって、眩しくてかっこよくて見惚れてしまった。本物はかっけぇなぁ。明日はこの人達と一緒に演奏できるんだ。サ、サインとか貰えるかな…。やっぱり、俺のことなんてあんまり知らないかな。ダンサーの人はやっぱりダンスミュージックとかヒップホップを聴いてて、ロックバンドには興味ないかなぁ。
そんなことを考えていても仕方がない。何のためにここまで来たんだ。俺は決意を固めて2人の方へと近づこうとした。
ーーサインくれますかって言うぞ…!
「あの…!」
「え?」
突然背後から声がする。誰かと思って振り返ると、そこにはパークのスタッフさんが立っていた。




