第159話 (146)二十九、三十-5
「い、いや…あれはデスネぇ…」
「どういうことですか!あの軍服ゾンビと知り合いなんですか?」
僕はビッグボスに迫られて狼狽していた。僕の部屋に突然ビッグボスとオラフくんが入って来たのはつい先刻の事だった。彼女達は入るなり、軍服ゾンビの衣装がどうとか、オラフくんが軍服ゾンビを見たとか、僕が話してたのを見たとかを順を追って話し始めた。そして、軍服ゾンビの彼は怪しいと、そう話したのだった。
まさかこんなことになるなんて…。ユーのやつ!ユーが軍服ゾンビの衣装を着るからこんなことに…!かつてないほどに頭がぐるぐると回る。しかし、激務で寝不足の頭は起死回生の一手を捻り出すことは出来ず、古のウィンドウズPCの如く処理落ち状態になってしまう。
ーーどうしよう…正直に幽霊のユーなんです!と言っちゃおうか
その考えが頭を支配する。もう全部吐き出してしまいたい。だってユーのせいなんだもん。こういう時に限ってユーは姿をくらませている。もう言ってしまおう。うん。
「ユ…」
「ゆ?なんですか?『ゆ』って?」
ーーいや、危ないだめだ。
幽霊の仕業でーす!なんて言ってしまったら、おかしな外人だと思われてしまう。良くない。それは良くない。ここは誤魔化そう。そうだ。僕はウルトラ本社から日本のパークを任されて来日した男だ。このくらいの修羅場潜り抜けてみせる。落ち着きを取り戻した僕はビッグボスの方に向き直る。
「彼は知り合いデス!」
「やっぱり知ってるんですか?」
「いや…知ってるというか…そのー」
「どっちなんですか!」
「どっちかというとイエスで…」
「上司さん!!はっきりしてください!あの人、衣装泥棒かもしれないんですよ!」
「…!それはないです!ノーノー、泥棒だなんて!実際衣装も戻って来てるでしょう?」
「じゃあ、その衣装はどこで見つけたんですか?その人に手渡されたんですか?」
「え?いや、それはそうデスネ…渡されたというか…」
「…?渡されたんですね?じゃあ、その人は今どこに?それはいつの話で、何でその人と話してたんですか?」
ーーあわあわあわあわあわあわ
バン!!
「正直に話しマース!!」
僕はビッグボスの追求に限界を感じ、気づくと机を叩いて大きい声を出していた。もう無理デース。日本語で言い訳するの難しいデース。ユー、ソーリー。
〜〜〜
僕はビッグボスと上司さんが話すのをずっと聞いていた。その話は衝撃的で僕は言葉を出せずに、ただただ耳を傾けていた。
「ユーは幽霊で、僕にしか見えないみたいなんです。何でここにいるかというと、昔パークでダンサーをしていたらしくて、その時の名前もユウで…あっユーってのは最初は僕がYOUって呼んだからなのでタマタマなんだけど…」
ーー幽霊のユー?
ユウ君が幽霊でここにいるってこと?あの日会えなかったユウ君が?いや、決めつけるには早いか。でも、ユウ君はパークで働いてたらしいし、数年前に亡くなっている。偶然にしてはあまりに共通点が多い。何よりも自分の中の感覚がそうだと言っている気がした。さっきのあの軍服ゾンビ。あれはユウ君だったんだ。ユウ君。ユウ君。どうして僕には話してくれなかったの?
「幽霊って…!上司さん、もう少しまともな言い訳を…」
「本当なんデース!オールナイトの発表もユー君が…」
「…。あの…そのユーってこんな感じの人ですか?」
ビッグボスと上司さんの会話を遮り、僕はスマホにユウ君と撮った写真を表示して、上司さんに見せた。上司さんは目を丸くして驚いた表情をして話す。
「え?そう!今はもうちょっと大人だけど、これは間違いなくユーです!オラフくん何で写真を…?」
「え!どういうこと?何?私わからないんだけど?」
「そうですか…ユウ君…。今ここにいますか?」
「いえ、今この部屋にはいなくて…」
「…。失礼します!」
「あっちょっと待ってよ!オラフくん!どういうこと?え?幽霊って本当なの??」
「本当デース」
「上司さんに聞いてないです!」
バタン
ビッグボス達の話をスルーしながら、僕はたまらなくなって部屋を飛び出した。今はもうとにかく外に飛び出したかった。このパークのどこかにユウ君がいるんだ。




