第158話 (145)二十九、三十-4
「え?ココロくんじゃないの?」
「はい…。だってオレその時、ベイサイドエリアにいたし…」
リハーサルを終えて休憩室に戻った僕は、同じく戻ってきたココロくんに先程のことを尋ねてみた。すると、帰ってきたのは驚きの答えだだった。あの時の軍服ゾンビがココロくんじゃないとしたら…
ーーさっきのは一体誰?
「それ、カッピーもさっき衣装がいつの間にか無くなってたって言ってたんで、泥棒かもしれないっすよ?」
「ど、泥棒??なんのために??」
「いやわかんないっすけど…」
「ってことは、軍服ゾンビの衣装無くなっちゃったの?」
「いや、それが戻ってきたんですよ。さっきビッグボスが持ってきてくれて…。オレもわけわかんないっすよ!とりあえず一安心ですけどね!」
ココロくんはそう言うと、荷物をまとめて部屋を出て行こうとしていた。
「ココロくん帰るの?」
「いや…ちょっと練習室で練習してから帰ります…もう本番まで時間ないんで…」
「そう…あんまり根詰めすぎないようにね?」
「あざっす!でもオレまだまだですから!」
ガチャ、バタン
練習しすぎているココロくんも気になるが、さっきの軍服ゾンビも気になる。一体誰だったのか。僕に正体がバレたくないから、喋らなかったのだとしたら合点がいく。とりあえず、こんなやりとりをしたってことをビッグボスに伝えに行くか。
〜〜〜
「はぁ…」
スタッフの事務所にビッグボスの姿はなかった。あちこち探して回ると、自販機の近くでため息をつくビッグボスの姿を見つけた。
「ビッグボス!探してたんですよ!」
「あぁ、オラフくん…。ちょっと聞いてくれる?」
話したいことがあるのはこっちなんだけどな、と思いつつも僕はビッグボスの話を聞くことにした。
「最近上司さんの様子がおかしいの…。ずっとひとりごとを言ってて…」
「ど、どういうことですか?ひとりごとくらい僕もたまに言いますよ?」
「いや、違うのよ。もっとなんか会話してる感じなのよ」
「上司さん見た感じ、いつもと変わらないですけど…ハンズフリーで電話してるんじゃないですか?」
「いや、それはないわ。イヤホンもつけてないし…上司さんの部屋から話し声が聞こえても、中に入ると誰もいないのよ…イマジナリーフレンドと話してるんじゃないかと疑ってるのよ」
ーー心配しすぎじゃないかなぁ
僕はビッグボスの話を聞きながらそんなことを考えていた。特に上司さんは外国の人だし…そういうひとりごとの多い国民性がもしかしたらあるのかもしれない。いや、待てよ?
「ビッグボス、そのひとりごとって日本語ですか?」
上司さんは英語圏の人だ。なので、ひとりごとを言うとしたら、英語なんじゃないだろうか。もし日本語で話しているのなら、確かにビッグボスの言う通り違和感がある。もちろん、完全に日本に馴染んだということなのかもしれないけど。
「多分日本語と英語混じりな気がするのよね。「ユー、何してるんですかー!」とか、「全く困ったユーです」みたいな…」
ユウという言葉にドキリとする。ユウと言えば僕にとってはユウくんだけど、そんなはずはない。恐らく英語のYOUなのだろう。
「確かに…それはYOUっていうイマジナリーフレンドと喋ってるのかも…」
そう言いかけた僕はリハーサルの時のことを思い出した。
「そういえば、ココロくんの軍服ゾンビの衣装がなくなったって話があって…」
「あ、それなら私がさっきココロくんに渡しといたわよ」
「そ、そうなんですよ!ビッグボスはその衣装どこで見つけたんですか?」
「いや、私が見つけたわけじゃなくて上司さんから手渡されたのよ」
「え?!本当ですか?」
僕はビッグボスに、ココロくんではない軍服ゾンビに遭遇したこと、その後そいつが上司さんと親しげに話していたことを伝えた。
「その話聞くと点と点が繋がった気がするわね…」
「そ、そうですね。上司さんが何か知っているかも…」
「行くわよ」
「え?どこに?」
「そんなの決まってるじゃない。上司さんの部屋よ」
〜〜〜
僕たちは上司さんの部屋の前へとやってきていた。外はもう真っ暗だけど、上司さんの部屋には灯りがついていて、何か作業をしているようだった。これでさっきの軍服ゾンビ何の謎が解決するのだ。僕たちは上司さんの部屋のドアを開けた。
ガチャ




