第157話 (144)二十九、三十-3
「違うんだ、ケンジ!俺はユウだよ!」
「…?ココロくんどうしたの?なんで喋らないの?」
「ケンジ…。やっぱり聞こえてないのか?」
「調子悪いの?昨日もずっと練習してて寝てないって聞いたから心配で…」
ーーやっぱりケンジ、俺の声聞こえないんだな。
まさかの出会い。奇跡のように、俺の姿がケンジに見えて話せる展開なのかなとも思ったが、そう言うわけじゃないようだった。どうやら、ケンジは俺のことをココロだと勘違いしているようだ。無理もないか。軍服ゾンビの格好で先程踊っていたのはココロなのだから。
「ココロくん大丈夫?調子悪いなら、少し休んだ方が…」
ぐいぐいぐいっ
俺は話ができない分、身振り手振りで元気だと言うことをケンジになんとか伝えようとした。俺が幽霊として、パークにいるなんてことケンジが知る必要はない。変に心配させたくもない。今はココロとしてやりきることに集中しなきゃ。
ぐっすりすりすり
俺はお腹の辺りに手を当てて、すりすりと擦る仕草をした。お腹が痛いから、トイレに行くというマイムをしたつもりだけど…伝わるかな。
「あっ、お腹痛いの?」
こくりこくり
「もしかしてトイレに急いでたりした?」
こくりこくり
「そうなのか!ごめん、引き留めちゃって!」
こくり、ふりふり
俺は頷くと手を振ってその場を去った。ケンジ、話したいことは沢山ある。でももう俺は死んでるんだ。サドンデスみたいないつまで続くかわからないこの時間。話せなくても、俺はケンジの元気そうな姿を見られた。それで十分だ。
たったった
俺は振り返ることなくその場を去った。
〜〜〜
ーーなんかさっきのココロくん、変だったな
一言も喋ることなく去って行ったココロくんを思い出しながら、オラフさんはそんなことを考えていた。
ステージの周りに戻ると、花道ではカッピーとハナさんが本番さながらに音楽に合わせて踊っていた。
ーーカッピー結構様になってるなぁ
しばらくその様子を眺めていると色々な思い出が蘇る。カッピーとライブハウスに遊びに行ったこと。カッピーの家でビッグボスとテレビを見たこと。休憩室で何気ない話をしたこと。コンビニの前での雑談や、ダンサーとして悩んでいる様子。リトルナイトベアーの練習。たった二ヶ月とは思えないな。
ーーこんな風に感傷に浸るなんて、おじさんになってきちゃったのかな。
そんなことを考えながら、しばらくステージを見ている。ふと遠くの方に視線をやると、上司さんもリハーサルの様子を見ているようだった。
ーーあれ?横にいるのは…
上司さんの横でリハーサルを見ているのは軍服ゾンビだった。あれ?ココロくん?トイレから戻ってきたんだろうか。
というか、上司さんと仲良いんだっけ?遠目なのでよくはわからないが、二人は仲良さそうに戯れあっているように見えた。仲良くなった気でいたけど、まだココロくんの知らない面があるものだなぁ。後でどう言う関係なのか聞いてみよう。




