第155話 (142)二十九、三十-1
『ルッタッタ!ルッタッタ!』
「わぁ〜!懐かしいなぁ〜!俺もルッタッタダンス踊ってたんだよ」
「そうなんですネ!まさかユーが僕よりパークの先輩だったなんて…!」
僕はオールナイトのショーのリハーサルを、ユーと一緒に見ながら話していた。時折周りをキョロキョロと見回す。ユーは幽霊なのでもちろん誰にも見えていない。なので、外で話すときは独り言を言う人に間違われないように、細心の注意を払っている。もし見られたら、ハンズフリーで話しているふりで乗り切るしかない。幽霊と話していたなんて言うと、みんなに心配されそうだし。
「あの軍服ゾンビの衣装、当時のやつそのままなのかなー?」
「確か倉庫にしまってたやつって聞いたので、当時のままのはずデスヨー!」
「へぇ!後で着てみようかなー!懐かしいなぁー!俺も昔着てたんだよー!」
記憶を取り戻してからユーの一人称が『俺』になったことにまだ慣れない。よくわからないが、なんだか違和感があるのだ。やはり一人称とは大切なのかもしれない。
「ユー、服着られるんですか??」
「確かに…!でも物にさわれたりするから、着ることもできそうな気が…。後でやってみようかな?」
「服着られるんなら、パークで働いてくださいヨー!ゾンビも人手不足なんですカラ!」
「えーめんどくさいなー。ジョージ、給料払わない気じゃないだろうね?」
「むぅ…」
確かに。実際、幽霊だから給料を払わなくて良いという考えは頭に浮かんでいた。でも、幽霊に給料を払う義務があるのだろうか。もしかしたら幽霊を雇えば、労働基準法も関係ないし、人件費もゼロなんじゃないか。福利厚生のことも…社会保険も…。
いや駄目だ!少し邪悪な考えが頭を一瞬よぎったが、すぐに冷静になった。いやいや、冷静になると従業員が全員幽霊なんてなんかよくなさそうだ。お客様が呪われてしまいそうだし。心霊写真が必ず撮影できるテーマパークにはしたくない。
〜〜〜
私はココロくんが軍服ゾンビとして、立派にリハーサルで踊る姿を見て一安心していた。昨日代演が決まったばかりなのに、もう一人前に踊る姿を見てさすがプロだと感心していた。今日は二十九日。明後日がオールナイトの本番の三十一日なのに、こんなバタバタで大丈夫なんだろうか。今年は色々トラブル続きだった。ここまでトラブルだらけだった以上、この後はトラブルが少ないことを祈るばかりだ。
しかし、そんな私の視界にはもう一つの心配事が映り込んでいた。
「服着られるんなら、パークで働いてくださいヨー!ゾンビも人手不足なんですカラ!」
ーー上司さん、一体誰と話しているんだ?
ビッグボスは近くでずっと一人で話している上司さんを見ながらそんなことを考えていた。
上司さんは何をずっと一人でぶつぶつと言っているんだろう。しかもただのひとりごとではない。誰かと喋っている様子なのだ。
ーーそうか、上司さんも疲れているんだ
ゾンビナイトも後少しで終わるとはいえ、業務は忙しさを増す一方だ。上司さんはクリスマスのイベントの用意も並行して行なっていることだろう。そのストレスから逃れるためにイマジナリーフレンドを作って、対話することでストレスと向き合っているのだ。上司さんも日本に馴染んでいるとはいえ、母国との違いでストレスを溜めているのかもしれない。仕事がひと段落したら、食事にでも誘おうか?少しは息抜きになるだろうか。
ヴーヴー
スマートフォンが振動する。そのメールはタテノくんからだった。
『大変です!ごめんなさい。戸締まり確認してたら、俺のカードキーが無くなってて…!今探してるんですけど見つからなくて…!ごめんなさい』
ーーはぁ、トラブル続きね
私はタテノくんに取り急ぎ返信をする。私もすぐにはタテノくんの元に向かえない。探し物といえば、パーク探偵のハッタリくんに任せておけば大丈夫だろう。連絡してタテノくんの元に向かうようにお願いをする。タテノくんにもその旨返信する。
『すぐには向かえないから、ハッタリくんに向かうように連絡しておいたわ!二人で探してちょうだい!』




