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ゾンビナイト  作者: むーん
激動編

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154/222

第154話 (141)BROTHER

「よいしょっと」


 僕はナイトベアーのショーを終えて、バックヤードに座り込んでいた。リトルナイトベアーをやるようになって1ヶ月くらい経つだろうか。すっかりこの着ぐるみ姿にも慣れてきた。後数日でこの着ぐるみを着るのともお別れと思うと少し寂しい。


「おう、ブラザー。やっとサマになってきたじゃねぇか」


「ミッキーさん!ありがとうございます!」


 ミッキーさんが労ってくれる。最初は何もわからないまま始めた着ぐるみだったけど、ミッキーさんから日々指導を受けて少しは上達できた気がする。ナイトベアーとリトルナイトベアーの可愛こぶりっこは結構な可愛さを出せていると思う、恐らく。


 僕はずっとタイミングがなくてミッキーさんに伝えられなかったことがある。今言うべきな気がして、立ち上がってミッキーさんの前に立つ。


「あのお話が…。実は…」


「おう…辞めんだろ。聞いてるよ」


「え?!あっはい。すいません」


「謝ることじゃねぇよ」


 ミッキーさんは椅子に座りつつ、そっぽを向いて吐き捨てるように言う。先ほどから目を合わせてくれない。報告が遅いことに怒っているのだろうか。ごめんなさい。最近色々と立て込んでいて…。弁解をしようとすると、ミッキーさんが話し始める。


「まぁでもお前はハダカのが似合ってっかもな」


「そ、そうですかね…」


 ミッキーさんが着ぐるみじゃない状態をハダカと表現することに驚く。ゾンビ達はみんなハダカということなのだろうか。


「本当ならお前に『秘伝の可愛い子ぶり百奥義』を伝授して後継者にしたかったんだが」


「ひ、百もあるんですか?」


「おう、細かいのまで含めるともっとある」


「百は十分細かいですよ…」


「俺は何も強制はしねぇ。しねぇが…」


 ミッキーさんはこちらに視線を向けることなく、ずっとバックヤードの端の方を見ながら話す。


「な、何ですか?」


「ちったぁ寂しいな。うん」


「え?」


「戻って来たくなったらよー。いつでも来いよ。お前はブラザーだからよー」


「…!」


 目頭がブワァっと熱くなる。ミッキーさんの優しさを感じる。僕の勝手で辞めるのに、それを責めるでもなくただ寄り添ってくれる言葉に、ただただ温かさを感じていた。僕も寂しい。僕はこの仕事をして、沢山の人の優しさに触れて、居場所を作ってもらってしまった。簡単には離れられないのかもしれない。


「ま、戻るなら早く戻らないと、俺も引退してっかもしれねぇけどなぁ。いっひっひ!」


「す、すいません!戻るかわからないですけど、すいません!」


「まぁ、若ぇんだから色々やればいいさ」


 そう言うとミッキーさんは立ち上がり、着ぐるみを脱いだ。バックヤードからの去り際、僕に一言だけこう言うのだった。


「オールナイトのショー。見させてもらうよ。楽しみにしてっから」


バタン


 ミッキーさんが去った後、僕は一人バックヤードに残っていた。ミッキーさんもああ言ってるんだ。頑張らないと。まずは今日の通しリハーサルだ。


「ナイトベアー様!僕、頑張るのです!なんてね」


 小さい声でリトルナイトベアーの真似をしてみた。前なら恥ずかしがってたかもしれないけど、もう今は違う。ナイトベアー様のためにもより一層気合を入れないと。

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