第152話 (139)愛しさと心の壁-1
「ご、ごめんなさいっ!オレ、オレ…」
「いや、大丈夫だよ。ココロくんが悪いわけじゃないから…あ痛てて…俺ももう歳かなぁ」
「…」
「オラフくんもここまで運んでくれてありがとうね」
「い、いや!そんなの当然ですよ!」
「オラフくんが力持ちで助かったよ。まさか俺がお姫様抱っこされる日がくるなんてな!あはは!」
僕とココロくんはパーク内の医務室へとやってきていた。目の前にはベッドに腰掛けて、包帯の巻かれた足を押さえる先輩ダンサー。ステージでの衣装の軍服のようなものを着ている。白衣に身を包んだ医務室の先生が先輩に向かって話しかける。
「応急手当はしました。救急車は今呼んでるからすぐくると思う。レントゲン撮らないとわからないけど、多分折れてますね」
「先生…。救急車なんて大袈裟な…!明日自分で病院行きますよ」
「骨折してるんだから、早く手当したほうがいいです。黙って言う通りにして下さい」
「…はい。ちなみにオールナイトのショーは…」
「出られるわけないでしょう?ほら」
ツンツン
「あ痛ててて!!やめてよ!先生!」
先生はニヤリと笑いながら、先輩の腫れている箇所をつつく。糸目で表情の読み取りにくい彼ではあるが、ショーに出るなどという無茶なことを言う先輩にイラつき、少しわからせてやろうというSっ気のある笑みを浮かべていた。その間もココロくんは申し訳なさそうに僕の横に黙って立っていた。
「こんなちょっとつついただけで痛いのにダンスなんて無理です。それとも片足で踊りますか?足を怪我したゾンビの設定で?無理ですよね?変ですよね?もう諦めて、ゆっくり休んでください」
「そうかぁ…ビッグボスに悪いなぁ…」
「…」
先輩ダンサーは足を眺めながら、俯いていた。ココロくんはその間もずっと黙っている。
「ココロくん、そんなに落ち込まないでよ!俺もよそ見してたから過失は50:50だよ。気にしないで!本当に!」
「いや、オレのせいです。オレが…オレが…」
「なんでこいつこんな頑ななの!?オラフくんも言ってやってよ!」
「オレが100悪いです…オレが…」
「いや!俺が悪いって!俺が100だわ!」
「ちょっと医務室で騒がないでもらえますか?」
「「すいません…」」
騒ぐ二人を先生が注意する。先輩も結構な歳なのに騒いで怒られるとは思ってなかっただろうな。なぜ僕らが医務室でこんなことになっているのか、それはリハーサルを終えて帰っている途中の出来事だった。
〜〜〜
「いや〜カッピーはすげぇわ。あっという間にショーのトリ務めるダンサーだもんな。やっぱオレの目に狂いはなかったっすね!」
「た、確かに軽く場当たりしてただけだけど、様になってたよね…!ココロくんが一番最初に評価してたもんね!」
僕たちはリハーサルを終えて、メイクルームへと帰ろうとしていた。ココロくんの話していて、先月に彼の公演を見に行ったことを思い出した。あれまではあんまり話したことなかったけど、最近では同じエリアで一番よく話すのはココロくんだ。特にカッピーとハナさんがいなくなってからは。
「あーなんかオレも負けちゃいられねぇな!オレもカッピーみてぇにズバァアンと男になりてぇっす!オラフさん!オレにカッピーを育てたイロハを教えてくださいよ!」
「なっ!僕は別に育ててないよ!カッピーが頑張っただけだから!」
「オラフさーん!秘密にしないでくださいよ!オレらソウルフレンドでしょ??」
「別に秘密にしてないよ!」
「そっちがそうなら、オレもオレで秘密の特訓しますから!うぉおおお!」
ドン!ドタン!
「う、うわぁあ!」
ココロくんが駆け出そうとした瞬間、すぐ近くにいた先輩にぶつかってしまう。そのすぐ近くは30センチ程の段差になっており、二人ともそこから落ちてしまった。
「…!二人とも大丈夫??」
「痛てぇ…!先輩大丈夫ですか?」
「ごめんごめん!大丈夫…いってぇ…!!」
先輩は、先に立ち上がったココロくんの手を取って立とうとするが、激痛に顔を歪めてまた転がってしまった。
「え?先輩立てないですか?大丈夫ですか?」
「あっいやいや、大丈夫大丈夫。ちょっと捻っただけ…痛い痛い痛い!」
先輩は何とか立ち上がったものの、歩けるような状態ではないようだった。何かに捕まってないと真っ直ぐに立ってられないようで、ふらふらとしている。見かねてココロくんが肩を貸す。
「オラフさん…!どうしよう!これ…オレ…!」
「とりあえず医務室に運ぼう!」
僕は急いで下に降りて、先輩をヒョイと持ち上げる。こんな先輩をお姫様抱っこするのは気が引けるけど、緊急事態なので許して欲しい。
「お、オラフくん…。力すごいね…。俺一応80キロくらいあるんだけど…」
「力だけが取り柄なんで!行きましょう!」




