第151話 (138)ゾンビだよ!全員集合!
『じゃあ、リハーサルを始めるわよぉ〜』
スピーカーからニセ姉の声が閉園後のパーク内に鳴り響く。僕とハナさんはメインステージ裏のバックヤードでそのアナウンスを聞いていた。このステージはナイトベアーのショーで使っているのと同じ、UPJで一番大きいステージだ。
『ショーが始まる前にこの音楽が流れます!この音楽が聞こえ出したら、ゾンビたちは一斉にメインステージの方に向かってきて頂戴〜!』
〜〜〜
ゾロゾロゾロ
ニセ姉の号令で、囚人エリアのゾンビ達は一斉にメインステージの方へと歩き出していた。僕とココロくんもその中にいた。ゾンビの格好をしている人がゾロゾロと連れ立って歩いているのはなんだかシュールだ。
「なんか避難訓練みたいっすね」
「確かに!ハンカチで口を押さえないと!」
「あはは!オラフさん、それやばいっす!」
僕はココロくんと談笑しながらメインステージの方へと歩いていた。今日は段取りの確認の軽いリハーサルのため、僕らだけでなくゾンビたち皆にゆるりとした空気が流れていた。
「僕たちはまだメインステージに近いから良いけど、遠いエリアの人は大変だよね」
「そうっすねぇ。ゾンビさん達のサイバーエリアなんて遠いのに大丈夫なんすかね?」
〜〜〜
「おぉ…闇よ…」
「ゾンビさん、流石だよな」
「あぁ…こんな時でもゾンビを崩さないなんてプロだよ…」
「ゔぅ…ゔぉあ…」
「あっすいませーん!サイバーゾンビエリアの人達は一旦バックヤードにはけてから移動なのでこっちになりまーす!」
あかねちゃんは、ゾンビさんに引っ張られてあらぬ方向へと向かうサイバーエリアのゾンビたちをバックヤードへと手招きして誘導する。
「ゔぅ?!ゔぉあ!!」
「流石ゾンビさんだ…道を間違えてもなおゾンビを崩さない…」
「すげぇ…やっぱプロだよ…ゾンビさんは…」
〜〜〜
「みんな大変ですよね。各エリアからゾンビのまま移動するなんて」
「そうだねぇー。私のサイバーエリアなんてメインステージから遠いったらありゃしないから、ラッキーだったよ!」
僕とハナさんは相変わらずステージ裏で待機し、駄弁っていた。僕らはメインステージのショーに出演するため、他のゾンビとは違い最初からステージ裏での待機なのだ。確かにハナさんの言う通り、移動しなくて良いのはラッキーかもしれない。
オールナイトで行われるショーはパーク中にいるゾンビが一同に会する。会するといっても全員がステージに登ることはできない。そんなことをすれば、ステージ中がゾンビで溢れかえり、ダンスする隙間もなくなってしまう。
では一同に会したゾンビ達はどこで踊るのかというと…。
『じゃあ、ゾンビ達はステージの周りにぐるっと立って頂戴〜!』
ニセ姉の号令で、集まったゾンビ達がぐるりとメインステージのある広場を囲む。僕はステージへと出てその様子を眺めてみる。
ーーこれは壮観だなぁ
広場の周りをコの字型に100人余りのゾンビが囲んでいる。もしこれが本物のゾンビだったら、僕らは一巻の終わりだろう。本番はこの中心にお客様が入るのか。360度をゾンビに囲まれるなんて、中々できないよなぁ。僕もお客さんになって経験してみたいなぁ。
「どう?緊張してきたんじゃない?」
横からひょいっと顔を出してきたハナさんが僕に話しかける。この人は僕に是が非でも緊張させたいのか?
「だから!緊張してませんってば!むしろ、武者震いしてきましたよ。こんなに沢山のゾンビに囲まれて踊るんだなって」
「おー!武者震いカッピーが合戦に参るぞ参るぞ!敵は本能寺にあり!その軍勢、100のゾンビなりー!」
「ええい!であえであえー!」
「こら!今からリハなんだから、あんたら邪魔よ!ステージ裏に帰りな!」
ニセ姉はそう言うと、メインステージの真ん中で戦国の世に参っていた僕とハナさんを現実に引き戻した。
その後完全に仕事モードのニセ姉の指示で、当日の流れをさらっていった。そしてその最後に僕とハナさんのダンスがある。今日は流れを確認するだけのリハーサルなので、本意気では踊らないが場当たり的に花道に誘導される。
ーーここで踊るんだ
リハーサルで見ておいてよかった。当日いきなりここで踊るとなれば、ハナさんのいう通り緊張で頭が真っ白になっていたかもしれない。ステージから広場をぐるっと見回すと、遠くの方からオラフさんが手を振っているのがわかった。僕も手を振りかえす。ここからオラフさんの姿も見えると緊張が和らぐ気がする。他にも見回してみればココロさんやゾンビさんもいる。何より隣にはハナさんがいる。こんなに心強い仲間に囲まれているんだ。うん。大丈夫。きっとちゃんと踊れる。




