第146話 (134)踊らない
「いやだ!撮影するなら踊らないから!」
「そんなこと言わないで…。思い出用なんだから…」
「うそ!うそうそうそ!そんなこと言って、また動画サイトにあげるんでしょ!もういやだから!」
「それも思い出なのよ…」
「いやだ!じゃあ行かない!お母さんなんて大嫌い!!」
バタン
わたしは自分の部屋へと戻った。お母さんのわからずや。わたしは嫌だって言ってるのに。勝手に撮影してネットにあげるなんて、“しょうぞうけん”のしんがいだ。
影の船団チャンネル。そう調べると、去年までウルパーでゾンビといっしょに踊っているわたしの動画が出てくる。最初は結構再生されてて、コメントでもかわいいとかダンス上手って褒められて嬉しかった。でも、去年からクラスの男子にからかわれるようになっちゃった。
『動画みたいにおどれよー!ほらほら!』
何だか恥ずかしかった。パークでダンスするのは楽しかったけど、男子にかわかわれるのが本当に嫌だった。それから、動画を消してってお母さんにお願いしたけど、全然消してくれない。
『こういう動画撮っててよかったって思う日が来るから』
お母さんはそう言うけど、私は今男子にからかわれるのが嫌なのに。本当にいつかそんな日がくるのかな?
お母さんがオールナイトイベントのチケットが取れたって言った時も複雑だった。ノベルナイトのライブも見たいし、ステージのショーも気になる。踊りたいけど、踊ったらお母さんが撮影する。それがいやだ。
それにゾンビの目の前でうまく踊れなくなっちゃった。前は平気だったけど、最近ゾンビの見た目も怖くてなんか無理になっちゃった。今年は一回も踊ってない。でも家では動画を見ながらダンスの練習はしてる。今年一回お母さんに連れられて、パークに行ったけど色んなことを考えちゃって踊れなかった。ゾンビも怖い。カメラのレンズも怖い。
ーーお母さんが撮らなかったら、ちゃんと楽しめるのかな
オールナイトイベントは、“ほごしゃどうはん”じゃないとだめだから、お母さんと一緒じゃないと行けないんだって。後でもう一回お母さんに伝えよう。パークに行って踊りたいけど、カメラでは撮らないで欲しいって。
〜〜〜
最近、娘と上手くコミュニケーションが取れない。原因は動画チャンネルだ。最近はもう毎日撮った動画を眺めている。娘の成長に涙が出てくる。昔は全然ダンスなんて踊れなかったのに、1人で独学で練習して今では立派に踊れるようになった。親の贔屓目もあるかもしれないが、プロ級だと思う。誰よりも娘のダンスは上手だ。
最初は何の気なしに投稿した。娘が可愛く踊っている姿を見て欲しくて。何度か投稿すると、ゾンビと一緒にキレキレのダンスを踊る子どもとして少しバズった。コメントで可愛いとかダンス上手って言われる度に何とも言えない充足感を感じた。娘もそれを見て喜んでいた。
しかし、子どもの成長は早い。娘はカメラで撮られるのを嫌がるようになった。反抗期だろうか。成長が早いだけに、毎日些細な変化でも撮っておきたい。今の娘を記録できるのは今しかない。
ーーでも、あんなに嫌がるなんて
撮らない方がいいのかな。あんなに嫌がってるんだもんね。子育ては難しい。オールナイトでノベルナイトと一緒に踊る娘の姿を撮るチャンスなんて今年しかない。きっと撮影しておけば、よい思い出になるのに。
「はぁ…」
私は去年の娘が踊る動画を見ながらため息をついた。ママ友は子どもの喧嘩なんて、いつか笑って話せる日が来ると言う。本当にいつかそんな日がくるのかな?




