第142話 (130)歩く幽霊-1
「このゾンビさん!大きくて可愛いー!」
「大きいのにダンスのキレすごいな、こいつ」
隣でゾンビのダンスを眺めている女二人組の声が聞こえてくる。俺もそいつらの隣で、ストリートで踊る巨体のゾンビを眺めていた。ぼーっと立っている俺の体を、道ゆく人々がどんどんすり抜けてゆく。
ーーケンジ、ダンサーになってたんだな
あんなに小さかったケンジが…今は立派にストリートで踊ってやがる。てか、デカすぎじゃね?ケンジ、前はあんなに小さくて可愛かったのに。俺が死んでる間にこんなに丸々と大きくなりやがって。というより、高校生の頃よりも大きくなってないか?一体あれから何年経ったんだ?後でジョージにでも聞いてみるかな。
記憶が少し戻ってからというもの、何だか気まずくてジョージの部屋には顔を出していない。それにパークでジョージに会うこともない。恐らく忙しくしているのだろう。オールナイト、近いしな。
ーーダンス変わっちゃったんだな。音楽も。ずっと同じなわけないか。
俺はUPJでダンサーとして働いていた。その姿をケンジに見てもらおうと思って、UPJにケンジを誘ったその日に死んでしまったんだ。それから何の因果か、俺はパークの地縛霊となり、ケンジはパークでダンサーの仕事をしている。
そこらじゅうでゾンビが踊っているのを歩きながら眺める。俺が踊っていた頃とは曲もダンスも変わってしまっている。もうあの頃のルッタッタダンスではないんだな。ゾンビの数も俺の時よりも多い。それにあの頃はこんなに盛り上がってなかった。
ーーいつのまにか人気イベントになったんだな、ゾンビナイトは。
ケンジがゾンビ姿で元気に踊っているのを見ていると、何だか込み上げてくるものがある。あの頃、あいつは何だか悩んでいるようだった。そんなケンジに俺が踊ってる姿を見せたかった。何か助けになればと思って。でも、それは叶わなかった。逆に今、俺はケンジのダンスを見ている。
ーーもしかして俺はこれをみるために幽霊になって…
そう思った瞬間、心に温かい感情が湧いてくる気がした。あ、これあれじゃない?成仏的なやつだ。初めてだからわからないけど。なんか満たされてる気がする。死んだ日に会うはずだった友達が立派に成長して、ダンスを踊ってる姿を見る。これ、あれだ。世にも奇妙な物語とかほん怖で一個はある心温まる系の幽霊の話系のやつだ。
じわぁあ
成仏っぽい感じが身体中を包んでゆく。例えるなら、とても寒かった一日に熱いお湯に肩まで一気に浸かった時の感覚。あーすごい。きてる、きてる。これ絶対成仏だ。なんかすごい天にのぼる感じあるもん。と言うことは地獄行きではないと言うことか。良かった。なんか未練を残して地縛霊になっちゃったら、地獄に行きそうだもんな。でも俺、結構早くに死んで客観的に見ても可哀想だし、天国にくらい行かせて欲しいな。きっと天国で父さんも待っててくれてるのかな。
じわぁあ
ーーケンジ、元気そうで良かった。俺の分まで生きてくれよ。




