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ゾンビナイト  作者: むーん
激動編

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136/222

第136話 (124)これで自由になったのだ

ーーハナさん、ダンス間違えてないか?!


 音楽が流れ始めて、一小節目で異変に気付いた。チョウチョさんのダンスとハナさんのダンスはまるで違う振りだった。どちらかが間違えたのは明白だった。そして、それがチョウチョさんではなくハナさんであることもすぐに分かった。それ程ハナさんのステップは出鱈目なものだった。


 しかし、おかしい。ハナさんは難しい振り付けでも一度見たら完璧に踊れる人だ。振りを間違えるなんてことはあり得ない。だとするとこれはー。


ーーわざとか?


 そう理解した瞬間から、僕は彼女の一挙手一投足に夢中になった。どうしてこんなことをしたのか、ハナさんの深層心理を知ることなんて出来ない。でも…


ーーこれがハナさんなんだ!


 誰の言うことも聞かない、誰とも違う、自分が自分だと主張すること。それが彼女の本当の表現なんだと、見ていて理解した。と同時に理解が出来なかった自分もいた。見る人によっては、適当にくねくねと動いてるだけにも見えるだろう。しかし、またある人が見ればダンスの技術が詰まった傑作に見えるだろう。僕にはその両方に見えた。


「ぷっ、あはははは!」


 僕は何だか可笑しくて笑ってしまった。何だこれ。わからない。でもハナさんらしいや。僕は何を見せられているんだろう。ハナさんは何を考えて踊っているのだろう。


〜〜〜


 シャクレの動画を見ながら、片方の脳にはダンスの動きがインプットされていた。しかしその一方で、もう片方の脳ではこの音楽に合うもう一つの踊りを思いついていた。


ーー身体が重い


 チョウチョと横に並んで、音楽を待つ。あの日のオーディションを思い出して、身体に重たい塵のようなものが纏わりつく。ええい、離れろ。離れろ。


 そして音楽が鳴り始めた瞬間、私の体は先ほど見た動画とは異なる動きを始めていた。これは、もう一方の脳で思いついた踊りだ。


ーーしまった!


 一瞬そう思ったが、次の刹那私は自分の体の軽さに気がついた。


ーー身体が軽い?


 先程まで纏わりついていた塵は、私が自由に踊れば踊る程身体から離れていくのを感じた。


ーーそうだ!


ーー楽しい!


ーーこれが私だ!


ーー私のダンスだ!


 自由に踊れば踊るほど、あの日の呪いが消えていくのがわかった。もう私の中で勝ち負けなんてどうでも良かった。ただ音楽が鳴って、身体を動かす。それが今の全てだった。


 この対決は私の負けだ。チョウチョは怒るかな、ちゃんと勝負しろって。勝負から逃げたように映るだろうな。申し訳ない。でも、もう関係ない。だって…


ーーこんなに踊るのは楽しいんだから!


 もう私のステップは音楽が鳴り止むまで止まらないぞ。警察が来たって軍隊が来たって神様が来たって、踊りまくってやるんだ。だって私は自由なんだから!

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