第134話 (122)SAD GIRL-1
「お疲れ」
「あっ、お疲れ様です。もう帰るんですか?」
「うん。ちょっとね…」
いつもは談笑してから帰るハナさんが、妙に急いで帰ろうとする。なんか怪しいぞ。もしかして昨日の配信の件で、チョウチョさんから何かコンタクトがあったのだろうか?
「もしかして、チョウチョさん達と何かあるんですか?」
ギクリという音が体から漏れて、実際に聞こえてしまうくらいのリアクションをするハナさん。やっぱり何かあったのか、と思っていると慌てた様子で返事をする。
「ぜ、ぜぜぜ全然何もないよ。バカなカッピーだなぁ!」
「じゃあ何で急いでるんですか!」
「うるせー!乙女には色々あるんだ!大人の男になりたかったら、ゴタゴタ言わずに察せよ!」
バタン!!!
僕に捨て台詞を吐き、ハナさんは慌ただしく部屋を出ていってしまう。益々怪しいが、確かに無闇に詮索するのは大人の男ではないのかも知れない。あれだけ無理くり僕を撒こうとするということは、よほど干渉してほしくないということなのだろう。ここは一歩引いて見守るしかないのか。
〜〜〜
ーーやっぱりそうだ。
僕は物陰に隠れて、ハナさんを尾行していた。すみません。大人の男には明日からなります。ハナさんは従業員用の出入り口を出たところで、3人組と何やら会話をしている。遠目ではあるが、それはチョウチョさん達の一味であることは何となくわかった。
ーー何を話しているんだ?
集まっている面子からして、これから飲みに行こうという感じではなさそうだ。嫌な予感がする。遠くから見ているだけで、じとりとした緊張感が伝わってくる。
遠くから少しの間眺めていると、おもむろに4人は何処かへと歩き始めた。どこへ向かうのだろう。僕はこっそりとバレないように4人の後をつけるのだった。
タッタッタッタッタ
〜〜〜
4人は目的地に向かってまっすぐと向かっているように見えた。この先には公園があるはずだ。時々近所の老人たちが集まってゲートボールをしていたのを覚えている。4人は角を曲がっていった。やばい!見失ってしまう。
ーーしまった!見失った!
僕が追いかけて角を曲がると、その先に4人の姿はなくなっていた。確かにこっちの方に曲がって行ったのにーー。
「尾行は良くないなぁ〜。うら若き乙女たちの密会だっていうのに!」
「うっうわぁぁあ!!」
「何だ!カッピーじゃん!久々だなぁ〜!」
「あ、シャクレさん…。お久しぶりです」
ハナさんは僕の尾行に気付いて、わざと隠れて驚かしたようだ。し、心臓に悪い…。確かに尾行したのは悪かったけど。
「僕、ハナさんが心配で。何か良くないことになるんじゃないかって…」
「ははっ!カッピーに心配されるなんて、私がそんなに弱い女に見えたかい?」
「はいっ!だって、ハナさんはうら若き乙女でしょう?」
「ぐっ!確かにそうは言ったか…。こりゃ一本取られたね」
「ちょっとは相談して下さいよ。蚊帳の外は寂しいです。それにこんな人達と一緒なんてー」
「こんな人達って言い方はないんじゃないか?カッピー…」
ーーあっしまった。
シャクレさんが、僕の言葉尻を捕らえる。確かに失言だった。思わず、休憩室でビッグボスたちと話してる時のような言い方をしてしまった。シャクレさんがじとーっと湿度の高い目線で、こちらを睨んできている。
「もう、いいかな?」
ずっと沈黙を保っていたチョウチョさんが辛抱たまらず口を挟む。その様子は苛立っているようだった。先を急ぎたいのだろうか。チョウチョさんをなだめるようにハナさんが話しかける。
「ごめんごめん!そろそろ行こうか?」
「早くしてよね」
4人は再び歩を進め始めた。少し遅れて僕も後ろをついて行く。これ、僕もついて行って良いんですよね?いや、ダメと言われてもついて行くことにしよう。僕はハナさんを見守る義務があるんだ。そう思っていると、ハナさんが僕の隣に来てコソコソと話しかけてくる。
(カッピー、ありがとね。心配してくれて…)
(そりゃ、心配しますよ!これから何をするんですか?)
(まぁ大したことないよ。良かったら、近くで見ててよ)
(見る…?はい、わかりました)
(本当こと言うと、1人で心細かったんだ。カッピーが来てくれて)
ハナさんの言葉にドキっとする。こんな素直に心境を吐露するハナさんは初めてな気がした。本当に心細かったのか?改めてハナさんを見ると緊張しているのか少し震えているように見えた。
そうして歩いていると公園に到着した。やはり公園を目指していたのか。到着するや否や、シャクレさんがこちらに振り返り、夜に相応しくない大きな声で叫ぶのだった。
「ではぁ!!ここでチョウチョ対ハナのリベンジダンス対決を始めます!!」




