第132話 (120)((((未練))))-1
未練がないと言えば嘘だった。嘘をつくのは得意だ。冗談の一つでも言って、はぐらかしてしまえば私の本当の気持ちなんて有耶無耶にしてしまえる。しかし、そうやって誤魔化してきた結果嘘は塵となり、私の心に蓄積していった。未練なんてないと言いつつも私の心に積もった塵が時折目に入るのだった。それは未練があると言っているも同然のように見えた。もし、チョウチョの奴に一発パンチでもかませば、この気持ちは晴れて、塵も吹き飛ぶだろうか。いや、そういうことではないな。私はきっと…。
ーーちゃんと真正面からチョウチョに勝ちたいんだ。
あの生配信を見た時、好機だと思った。またとないチャンス。ずっと逃げ続けていたことに向き合う時が来たんだ。これを逃すと二度と私は私に戻れない確信があった。
ーー本当にそれでいいの?
あいつらが提示したルールで、あいつらの土俵の上でチョウチョに負けを認めさせる。そんなことが私のしたかったことなのか。折角過去と向き合えるチャンスなのに、そんなことに執着していていいのかな。それが“ハナ”がやりたいことか?あの時、“ハナ”がやりたかったことは…。
ーーいいや、違う。私は私らしく、私のままで私を取り戻すんだ。その為にも…。
未練のない世界に行きたい等と思っても、そんなものはなくただ未練を未練のままにしている自分が情けなく生きている世界があるだけだ。そう思った瞬間、風がびゅうっと吹いて塵が吹き飛んでいった。あと少し、あと少しで私は自由になれるんだ。




