第130話 (118)とめられない-1
ーー来たわね。
ハナの言う通り、チョウチョ達一行はパークへとやってきた。そして、やはりハナのいるサイバーゾンビエリアへと向かっているようだった。警戒して眺めていると、後ろでカメラを構えているマスクの男が目に入った。
ーーあいつ、リュウだ。
よく懲りずにハナの目の前に姿を現せられるわね。マスク程度で変装したつもりなのかしら。バレバレよ。ハナが許してなかったら出禁にしているところなのに。
ーーしかもシャクレと…。
シャクレは以前パークで問題を起こしてクビになった元パークダンサーだ。私も当時はよく話していた。それがリュウと組んで、更にチョウチョを連れてやってくるなんて。迷惑客は一度に1人までって言うルールを作るべきかしら。いやいや、迷惑客は1人もいない方がいいか。
「さぁ!チョウチョとハナ!因縁の2人の再会ですー!!」
シャクレが馬鹿みたいに大きい声で話すのが聞こえてくる。流石、出役なだけあって発声だけはすごいわね。いやいや、認めている場合じゃないわ。問題が起こる前に牽制した方がいいわね。私は3人に近づき、声をかけるのだった。
「ちょっと、シャクレくん。」
「あっ!ビッグボス!久しぶりじゃん!」
「あんまり問題のある行動をしたら、すぐに連行するからね。」
「ははっ。折角の再会なのに、注意しに来ただけかよ!相変わらずだな…。」
「そりゃあ、注意も警戒もするわよ。前にハナに酷いことしたリュウまで連れてきて。」
ビクッ
カメラを構えていたリュウが驚いた様子で、シャクレの後ろに隠れる。何よ、バレてることにビビったの?
「どうしたの?」
私たちが話していると、チョウチョさんが割って入ってくる。この人に会うのはインタビュー以来。メイクが濃すぎた苦い思い出が蘇る。
「いやー、この人ビッグボス。俺がパークで働いてた頃の知り合いでさーー。」
「あれ?あなたは…。もしかして、あの時インタビューした…?」
「そ、そうです。お久しぶりです。」
「あ〜!一瞬わからなかったですぅ〜!この前に比べて控えめなメイクだったのでぇ〜。うふふふ!」
カッチーン
こいつ弄ってきてるな。確かにあの時のメイクは失敗だったけど、緊張とか色々あったからなのよ。それを猫撫で声で挑発してきやがって。
「で、私たちに何か用なんですかぁー?私たちただテーマパークに遊びにきてるだけなんですけどぉー?」
「そうそう。別に撮影するくらい構わないだろ?個人的に動画サイトに投稿するくらいなんだし。」
「それともぉービッグボスさんはぁー、ただイベントを楽しんでる私たちを、なんかムカつくぅってだけで連行しようとしてるんですかぁー?こわーい。チョウチョこわいよぉ。」
「なっ!そんなんじゃないです。私はただ変なことしないように釘を刺しにきただけで。」
「あっそう。なら、変なことしないので、安心してお仕事してもらって大丈夫ですよ。はい、ありがとうございますぅー。」
何でこいつはいちいち人の神経を逆撫でするようなことを言うのだろう。もういっそのことハナにぶん殴ってもらおうかしら。私が許可を出す。こいつはオッケーな奴だ。
3人は私から離れていき、ハナの方へと近づいてゆく。ハナもこちらで何か話しているのには気づいているようだった。逃げるでもなく、こちらに向かってくるでもなく、ゾンビとして役目を全うしながら、ストリートをゆっくりと歩いていた。
「ゔぅ…。ゔぉあ!」
「ハナ、久しぶりね。」
チョウチョがハナの前に立ちはだかる。ハナはチョウチョに動じることなく、いつものようにゾンビに徹している。
「ゔぁぁあ!」
「あの時以来…。まさかゾンビの姿で再会するなんて…。あはは!」
「光ィ!光をォ!」
「…。話にならないわね。あなた、あの時の事どう思ってるの?」
「…。」
ハナはチョウチョの問いかけに答える様子はない。あのオーディション以来の再会なのだろうか、この話せない状況ではお互いもどかしいだろう。そして、2人の微妙な空気を切り裂くような音が流れるのだった。
『ウォオオーーーン、ウォオオーーーン』
エリアにダンスタイムのサイレンが鳴り響く。ハナはチョウチョを挑発するように、おいでおいでと手招きをするのだった。




