第127話 (115)O•P•P•A•I-1
「ちょ、ちょっとハナ!これ!見て!」
ハナさんに夜のダンス指導をしてもらっていたところ、ビッグボスが慌てた様子で駆けてくる。
「どうしたんですか?そんなに慌てて?」
「カ、カッピーも!これ!とりあえず見てよ。」
ビッグボスがそう言って、画面の割れたスマートフォンを差し出す。見せられた画面には、動画サイトの生配信が映っていた。タイトルは『チョウチョ襲来!某俳優との不倫炎上事件から、ウルパーのゾンビダンサーとの因縁まで!アーカイブなし!』と書いていた。そして、画面にはシャクレさんと、チョウチョさんが話している様子が映し出されていた。
〜〜〜
「しっつこいんだよ!あの記者ども!何度も何度も飽きもせずに突撃してきやがって!」
「あっはっはっ!」
「あの俳優ともちょっと遊んだだけだっつーの。こっちから捨ててやったわよ!」
「いいねぇ〜!変わってないなぁ〜!チョウチョ!」
酒に酔ったチョウチョがシャクレさん相手に不倫騒動を語っている。チョウチョさんは酒癖が悪いようである。しかし、これは良い方向に働くかもしれない。それに、チョウチョさんのあの格好。胸元がざっくりと開いたセクシーな服装。動画サイトでエロが伸びるのは周知の事実である。これはバズり待ったなしだ。しかし…。
ーー思ったより視聴者数が増えないな。
これだけのことをすれば、何十万人と視聴者がやってきて、登録者数も鰻登りだと思っていたのに、実際は数千人程度だ。それでも十分多いとは思うのだが、正直拍子抜けだ。
「ハナとのことはどうなの?」
「ハナー?関係ないわね。」
ぐびぐびとお酒を水のように飲むチョウチョさん。ハナと言う言葉に敏感に反応しているように見えた。
「ハナに比べてどうかとか、うっさいのよ。」
「なに?そんなこと言われるの?」
「私はRainの一員として、エンタメの前線でずっとやってきてんだ!テーマパークで踊ってるだけのやつに負けるわけないだろ!」
「お?いいねぇー!じゃあ、次はハナとの対決企画かー?」
「やってやるよ!負けませんから!あいつのピーーーしてピーーーをピーーーってやろうか!」
「あっはっは!やばいやばい!」
「どうせピーーーのピーーーの癖してよ!」
「ちょ、ちょっとチョウチョさん撮影もしてるので、落ち着いて下さい!過激な言葉は…。」
「なんだよ!リュウ!」
思わず、俺も口を挟む。チョウチョさんはお酒で気分が乗ってきたのか、ネット上でも憚られるような発言を繰り返すようになってきた。まずい。発言でBANになることなどあるのだろうか、経験がないのでわからない。しかし、これが続くと俺たちにとってもチョウチョさんにとっても損な事は明らかだ。
「い、一旦落ち着きましょうか?」
「あぁん!?何だひよってんのか?」
「い、いえあの…。」
チョウチョさんがカメラの後ろにいる俺の方へと身を乗り出して近づいてくる。カメラの画角にチョウチョさんのざっくりと開いた胸がアップで映され出してしまう。これはさっきよりもまずい。過激なエロは即BANになりうる。もしかしたら、収益化の停止にもつながってしまうかもしれない。今はまだ月数万円の稼ぎだが、これからどんどん伸ばしていきたいのに。今、チャンネルをBANされるわけには…。
「チョウチョさん!ちょっと下がってください!」
「あ?何でだよ!」
「お、おっぱいが見えそうなので…!通報されたら、BANされちゃうので…!」
「うるへー!おっぱいくらいなんだよ!減るもんじゃねーし!うちのママだって、映画で出してんだよ!それが女優魂だ!おっぱい出してから一人前なんだよ!」
まずい。まずい。まずい。何だかわからないが、チョウチョさんに火をつけてしまった。確かにチョウチョのお母様は大女優で、映画の濡れ場シーンで一糸纏わぬ姿になっていたことがある。しかし、それは映画の話だ。この動画配信で女優魂を見せつけて欲しくはない。
「こんなのどうってことない肉の塊なんだよ!」
「や、やめてー!!」
プツッ
『この配信は終了いたしました。』




