第125話 (113)デーデ-1
「TK、『アレ』の動画消しちゃったんだね。」
「『アレ』なんてなかったんや…。」
「え?どういうこと?」
TKちゃんに質問を投げかける。いつも通り、ネットの提携文みたいな返しだ。内容が掴めず困っていると、横にいたもじゃちゃんが解説してくれた。
「文子、『アレ』の動画のコメント欄荒れてることに困ってたんですよ。だから、いっそのこと消しちゃったら?って言ったら、「その発想はなかった」って、すぐに消しちゃったんです。」
「こんなのにまじになっちゃってどうするの。」
「そうだったんだ〜。」
僕はもじゃちゃんの解説に感謝しつつ、TKちゃんの知識の深さに感嘆していた。彼女はまだ若いのに、懐かしいネット用語まで網羅している。まじになっちゃってどうするの、なんて僕も世代じゃないのに。一体どこから仕入れた知識なのだろう。
「もじゃちゃん、疑問なんだけど、TKといつもどんな風に会話してるの?」
「どんな風って…。いつもこんな風ですよ?」
僕はもじゃちゃんに、ヒソヒソとした声で聞いてみる。彼女はいつもTKの言うことを120%理解している。僕は結構何を言っているのか分からずに愛想笑いをしてしまっている時がある。ジェネレーションギャップだろうか。
「確かに変な言い方ばかりですけど、文子が何を言わんとしてるかは、何となくわかりますよ!」
「そうなんだ…。流石親友って感じだね。」
僕はTKともじゃちゃんの間の確かな絆を感じていた。どうしてTKが自分の言葉を持たないのか、その理由を僕は知らない。もしかしたら、何か暗い事情があるのかもしれないし、そんなものは全くなくふざけているだけなのかもしれない。実際、この2人の調子の良いやりとりを見るのは楽しい。
「このゾンビ写真、こういうのでいいんだよ感。」
「うわ〜、確かに!よく撮れてるね!」
「もじゃの写真も評価できる。」
「え?本当に?」
「知らんけど。」
「知らないんかい!何それ!」
2人のやり取りを遠巻きに見る。ずっと思っていたことがある。TKのことを、文子ちゃんと呼んでも問題ないだろうか。正直、TKちゃんは言いづらいな、と思っていた。初めて話したのがSNS上で、アカウント名がTKだったから流れでそう呼んでいたのだが。今はある程度仲良くなったし、もじゃちゃんは文子呼びしているし、そろそろ呼び名変えてもいいかな?
「Sポテさん、どうしたんですか?」
「長考で草。」
ーー今か?今言ってみるか?
「い…いや、そのー。」
「?」
「あ、あはは。」
勇気が出ない。たかがあだ名、されどあだ名である。もし、このおじさん急に文子呼びして距離詰めてきたなと思われたらどうしよう。そう思うと、中々名前で呼ぶことができない。
「そ…そういえば、『アレ』の動画!結構収益があったんじゃない?ほら、何千万再生されてたし!」
「あ、それは…。」
もじゃちゃんが返事しようとしたが、それを遮るように文子ちゃんがいつもの調子で即答する。
「収益?何それ美味しいの?」




