第124話 (112)ほんとごめんね
「あっ、カッピー!ちょっといい?」
ハナさんとの練習を終えて、帰ろうとしていた僕をビッグボスが呼び止める。かなり夜も遅くなっているが、ビッグボスはまだまだ働いているのだ。本当に頭が下がる。
「待ち伏せしていたカルーアって子に注意したわ。今日も出入り口のところで待っていたから、声かけたの。ちょっと揉めるかなとも思ってたけど、すんなり聞き入れてくれたわ。」
「そうですか。何だか申し訳ないです。」
「だから、今後は心配しなくていいわ!もし、また似たようなことがあったらすぐに言って頂戴ね!」
そう言い残すと忙しそうにまたどこかへ向かって行った。ビッグボスも色々とすることがあるのだろう。それにしてもカルーアさんには悪いことをしてしまった。僕がちゃんと距離感を保って接していれば。あるいは…。
「あっ、あとカルーアさんから伝言で「迷惑かけて本当にごめんなさい」だって!」
ビッグボスは戻ってきてそれだけ伝えると再びどこかへと向かっていった。
ーー本当にごめんなさいは僕のセリフだよな
カルーアさんの優しさにつけ込んで、心を許して色々話してしまったのは僕だ。その結果、ストーカー一歩手前の待ち伏せをするまでに至ってしまったのだ。僕がちゃんとプロ意識を持って、お客様と一線を引いていれば。いや、後悔しても仕方ない。僕ができることは、これからもステージで頑張ることだ。
決意を新たに従業員の出入り口から外へ出る。そこにはカルーアさんの姿はなかった。
〜〜〜
ーーはぁ、やってしまった。
出入り口でキャストの方を待ち伏せするのは禁止だとは知っていた。でも、自分を抑えられなかった。何より、カッピーさんの優しさにつけ込んでしまった。会うとカッピーさんは優しく対応してくれる。でも、それは彼にとって迷惑だったのだ。急にやってくる私を無下にすることはできない。だって、カッピーさんは優しいから。そんな優しいカッピーさんに恋してしまったのだ。
ーーもうカッピーさんに会えないのか
カッピーさんと話したくなっている私がいた。しかし、それは良くないことだとはわかっている。ふと、カバンの中に手を伸ばすと、書きかけのファンレターが入っていた。
ーーこのファンレターももう出せないな
ビリビリ
書きかけたファンレターを破く。そして、思い立つ。迷惑をかけたことを謝罪する手紙を書こう。せっかく整理した写真たちもあるし、それを添付してごめんなさいしよう。
私は早速ペンを手に取り、カッピーさんへの謝罪を書きだした。どうして私は暴走してしまうんだろう。もう今年はゾンビナイトから離れようかな。熱を入れすぎていたのかもしれない。一旦離れてみて、落ち着いて楽しめるようになってから、戻ろうかな。
ーーあっ、でも。
ふと思い出す。オールナイトのチケットを取っていたことを。ゾンビナイトのオールナイト。過去のゾンビも出るという噂でチケットを取っておいたのだ。流石にこれはオタクとして行かなければならない。うん。この日までは、オタクとしての活動は抑えよう。
カチカチ
ボールペンのノック音を鳴らす。カッピーさんへの謝罪のお手紙を書いている手が止まる。思いを文字にしようとするが、上手く言葉にできない。それに手紙で謝るのも何か自分の中で違う気がした。
ーー最後に直接会って謝罪したいな、そして自分の好きっていう気持ちも伝えたい
自分の我儘かもしれない。かもしれないというより、そのものだとはわかっていた。しかし、そうしないと前に進めない気がした。
『カッピーさんへ
カルーアです。この度はご迷惑をかけてしまって申し訳ないです。
最後に一度だけ直接謝る機会が欲しいです。その時に伝えたい気持ちもあります。
10/31、オールナイトの前にお話しできませんか?いつものベンチで待ってます。カルーア』
便箋を封筒にしまって、目を閉じる。カッピーさんとの思い出が瞼に映る。カッピーさんが来てくれるかはわからない。来たとしても、私はきっと振られるだろう。でも、それで良い。元の推し推される関係に戻るだけだ。いや、今も別にそうなのかもしれない。ただ、ほんの少しの間だけ夢見たいな時間を過ごしたというだけの話だ。
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