第121話 (109)踊り子-3
「なるほど。そんなことがあったのね。」
「そうそう。可愛い後輩であるカッピーが助けてください〜って、私に泣きついてきたわけでして…。」
「なっ!泣きついてまではないですよ!」
「そうか…。カッピーが号泣するくらい困っているのね。」
「ビッグボスまで!話を大きくしないで下さいよ!」
ビッグボスの待つスタッフルームへと僕たちはやってきていた。そう、ハナさんの言う頼れるプロとはビッグボスのことだった。確かにパーク内の困った人たちを注意するプロ中のプロである。
「カッピーにも言いたいことが沢山あるけど…。それは一旦置いといて、私の方から注意しておくわ。今日も帰りに待ち伏せされてるかもしれないわよね?」
「た、多分…。今日もパークに遊びには来ているみたいなので…。」
「オッケー。退勤する時間あたりに従業員出入り口を見回って、カルーアさんがいたら注意しに行くわ。」
「本当にすいません。お忙しいのに…。」
「忙しいのはそうだけど、今回のことは私が対応するべき相談よ。カッピーにもしものことがあってはいけないし…。」
「もしものことって…。大袈裟な…。」
「いや、本当に。そう言う過激なファンがいる可能性を考えてた方がいいわ。だから、不用意に親密になったりは控えて頂戴ね。その際は自己責任…ってことで。」
「そうそう。カッピーはまだひよっこだから、あんまりわからないかもしれないけど。話の通じない変な人ってゆーのはいるものだからね。」
「は、はい。わかりました。」
ビッグボスとハナさんが、いつになく真剣な表情で僕に言う。何か昔あったのだろうか。この2人の表情を見ると、そんなことを考えてしまう。特にハナさんは少し顔の知れた人だ。ずっとファンとの距離については考えているのだろう。それに比べると、僕なんかは唯のバイトに過ぎない。いや、だからこそ今回のような事が起こってしまったのか。“プロ意識”と言うものが足りてなかったのだ。
「まぁ、家の前で待ち伏せされたり、カメラ入りのぬいぐるみをプレゼントされたりまでいかない限りはまだまだ大丈夫さ!あはは!」
「いや、ハナ。それは笑い事じゃないから…。」
「まぁそれもこれももう昔のことさ!取るに足らない事だよ!」
ニコニコとした顔でサラッと怖いエピソードを話すハナさん。普通の女子ならば、一生のトラウマになってもおかしくなさそうだけど。ハナさんなら、のらりくらりと乗り越えてこれたんだろうか。彼女の本当の心の強さまでは計ることはできない。無理してないといいけど。ハナさんは、あまりに気丈で少し心配になってしまう。
「なんだい?カッピー!暗い顔してどうしたんだい?一丁前に心配してくれてんのかい?」
「そりゃさっきの話を聞いたら、心配くらいしますよ!」
「優しいねぇ、カッピーは。カルーアをたぶらかしただけのことはあるね!」
「もう!やめてくださいよ!」
「でも、カッピーもこれからダンサーとしてやって行くなら、これくらいの事は…。」
ハナさんがそう話すのを聞いて、ハッとする。そういえば、ハナさんには言っていなかった。僕がゾンビナイトをもってダンサーの仕事を辞めてしまうことを。でも、それは僕のせいじゃない。ハナさんと話しているとふざけた話ばかりで、そう言う話をする空気にならないのである。
「あれ?ハナは聞いてなかったの?」
「ん?聞いてないって?何の話かにゃー?」
「カッピー、来月で辞めるのよ。今回のゾンビナイトをもってね。寂しくなるわ。」
ビッグボスがハナさんに向かって、そう告げるとハナさんの顔が曇ったように見えた。
「あっ…。え?そうなん…ですか?」
「うん。まぁ元々その契約ではあったんだけど。カッピーは人も良いし、ダンスも出来るし。冬のショーにも出てくれたら嬉しかったんだけどね。ダンサーも人手不足だから。シフト回すのも大変よ。はぁ〜。」
ビッグボスに辞めると言う話をした際、冬のショーにカッピーに出てもらいたいと言う話をされたのを思い出す。しかし、僕の決意は堅かった。そんなにすぐに気持ちを切り替えて、次のショーに向かう事はできない。やっぱりまだ僕はプロにはなれないのかも知れない。技術的にも精神的にも。
「…。そうかそうか。辞めちゃうのかー。」
「なんですか、ハナさん?どうせ、カッピーがいなくなったら誰をからかえばいいんだ!折角丁度良いオモチャを見つけたのに!とか言おうとしてたんでしょ?」
「っ…!そんなことないさ!からかい甲斐のあるやつなんか、いくらでもいるよ。ビッグボスだって、ゾンビさんだって!でも…。」
「でも…、なんですか?」
「いや、ちょっと寂しくなるなーと思ってさ。ははは…。」
ーーなんだそれ?
てっきりカッピーがいなくなって清々する、くらいのことを言われると思っていた僕は、ハナさんの反応に驚きを隠せなかった。ハナさんはシンプルに寂しがってくれてるのか。僕も正直寂しさはある。ハナさんやオラフさんと日常的に話す事がなくなってしまうのだ。ゾンビとして表に出るのは、苦労や大変な事が多かったが、裏ではそんな事はちっともなく楽しいだけであった。
「僕も寂しいです…。でも、また遊んだりーー。」
バタン!
突然、スタッフルームの扉が開く。突然の訪問者だ。これにももう慣れてしまった。こうやって扉が突然開く時は何か起こる時の前触れである。そして、大体こうやって入ってくる人は…。
「あら〜、いないと思ったらこんな所に隠れていたのねぇ〜。ハナにカッピー、貴方達にお話があったのよ〜。」
ーーニセ姉だ!
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